銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(5) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話(1)(2)(3)(4)
・第三十話 まとめ読み版①
* *
レイターは、サブリナとともにコッペリ社の七階の廊下にいた。
「こちらへどうぞ」
円柱形のボディーに球体の顔が乗った旧式の受付ロボットが、開発管理課のドアを開け、サブリナさんと俺を会議室へと案内する。
さすが今話題の企業。活気あふれる職場ってやつだ。
管理セクションと営業が隣り合わせのこのフロアは、通信機の着信音と忙しそうな会話がオフィスに響いている。
アーサーに集積カメラを極秘に設置しろ、って言われたのが、ここコッペリ社七階の開発管理課。この部署は速乾洗濯洗剤フイールの企業秘密を管理している。
俺は部屋に入る際、ドアの横にこっそりと直径五ミリの集積カメラを張り付けた。ちょろいもんだ。
これで俺の仕事は終わり。あとはアーサーの仕事だ。

去年発売した速乾洗剤フイールは画期的だった。
落ち込んでいたコッペリ社の株が急騰し、フイール特需でこの本社ビルを建て替えるという噂があるほどだ。
確かにこのビルのセキュリティは甘すぎるな。
月の屋敷でかわした、アーサーとの会話を思い出す。
敵のアリオロンがフイールの開発資料を狙っているという。
「フイール? よく乾いて便利な洗剤じゃん。俺も使ってるぜ」
「連邦軍でも導入している。速乾は戦地でも有効だ」

「それをアリオロン軍も導入したいってか? 金出して買えよ。買う金がないのかよ」
「そのようだ」
「あん?」
「冗談だ」
と言ってからアーサーは眉間にシワを寄せた。
「理由がわからないから、探るんだ」
速乾洗剤フイールは、企業秘密ということで原料も製法も明らかにされていない。
そのフイールの資料が入ったデータ金庫に、先日アリオロンのハッカー集団による不正アクセスがあった。
が、最新のセキュリティシステムが機能し、奴らは入れなかった。
アリオロンは情報入手をあきらめてないらしい。
ということで、今度はコッペリ社の本社にある現物の資料を盗みにくる可能性がある、という古典的な話だ。
開発管理課の耐火ロッカーの中に、社員が使えるようデジタルペーパーの資料が保管されているという。
あの壁面ロッカーがそれだな。
俺が張り付けた集積カメラの撮影範囲にばっちり入ってる。
社員が帰る時には三重のロックをかけてるそうだが、勤務時間中の今なら暗証番号キーだけだ。俺でも盗めそうだぞ。闇で高く売れそうだ。
オフィス内を横目で見ながら、サブリナさんと一緒に奥の小さな会議室へ入る。
受付ロボットは人工アームを使って俺たちにお茶を出した。紙コップに入ったインスタントの作り置き茶。
「誠に申し訳ありません。担当者が少し遅れます」
感情のこもっていない声で、俺たちに謝った。
* *
この人のことは、よくわからないな。後ろからついてくるレイターをちらりと見ながらサブリナは思った。
彼氏であるジョンとは学生時代からのつきあいで、セントクーリエの出身。
料理も上手で、使える人物なのは間違いないのだけれど、どこかつかみどころが無い。
「誠に申し訳ありません。担当者が少し遅れます」
旧式の受付ロボットが、わたしたちにお茶を出しながら謝る。
わたしたちは、安っぽいお茶を飲みながら担当者の到着を待った。
すっかりくつろいでいるレイターさんに話を振ってみる。
「ティリー先輩、大丈夫でしょうか?」

「あん?」
「昨日、先輩の様子がおかしかったので」
「サブリナさんは気がついてるんだろ、ティリーさんの元気がなかった理由」
レイターさんがニヤリと笑った。鋭い人だ。
「わたしのせいじゃありません」
「もちろん、ぜ~んぶ、フレッドのせいさ」
(6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」