銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(9) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)
・第三十話 まとめ読み版①
* *
レイターは、コッペリ本社前に停車している警察の指揮車へと向かった。現地対策本部が設置されてるはずだ。
銀河警察は基本的に信用してねぇ。だが、俺はボディーガードだ。警備部とは付き合いがある。
こういう案件の時には、警備部特殊部隊長のあいつが現場へ来てるはずだ。
ほら、いた。
指揮車の前に立つ、背の高い隊長の後ろ姿に声をかける。
「なあ、バルダン、頼みがあるんだけど」
短髪で三白眼のバルダンが振り向いた。

「何だおまえら、二人して」
二人してだと?
振り向くと俺の後ろにアーサーが静かに立っていた。
「ネゴシエーター、交渉人のアーサー・ブラウンです」
アーサーが頭を下げた。
スーツに眼鏡。これで変装したつもりかよ。

「アーサーの話は警視総監から聞いている。レイター、おまえの頼みってのは何だ?」
「突入部隊に入れてくれ。俺のクライアントが十五階にいるんだよ」
俺一人でティリーさんを助けに行くより一番確かな方法だ。バルダンの部下たちは優秀だ。
バルダンが俺に近づいた。
俺は、慌てて手を引っ込めた。危ねぇ。バルダンの奴、俺の指をつかもうとした。
「ふむ、訓練は怠っていないようだな」
バルダンは鼻で笑った。指をつかむだけで人を殺せる男。今の一瞬で俺は脇の下に汗をかいた。
バルダンとの付き合いは十年以上になる。
ガキの頃にはアーサーと乗ってた戦艦アレクサンドリア号で、格闘技の基礎をバルダンに習った。「一に練習、二に訓練」が口癖だ。
バルダンは連邦軍の特殊部隊に引き抜かれた後、軍を辞め、警察に転職した。
管理職になった今でも全く衰えてねぇ。昔と変わらず訓練を積んでるな。
「じゃあ、俺が教えた通りしっかり働けよ」
「アイアイサー。あんたも張り切り過ぎて、腰痛めるなよ」

「フン、俺を年寄り扱いするな」
懐かしい会話に、俺は思わず笑った。
* *
「全員人質だ。動くな」
銃を向けられたティリーは、心の中でレイターに助けを求めた。
レイター、何とかして!!
十五階のオフィスにはわたしとバッハさんのほかに、コッペリ社の若い男性社員がいた。
その男性社員が、恐る恐る、銃を手にした白髪の男性に声をかけた。
「ワトキンスさん、落ち着いて下さい」
パリーン。
ワトキンスと呼ばれた男性が発砲した。
大きな音を立てて窓ガラスが割れた。身体中が縮こまる。本物の銃だ。
若い社員が震えながら後ずさりした。
男は銃をわたしたちに向けながら言った。
「お前たち、わしの近くへ来い」
逃げられない。
わたしはバッハさんの後ろについて、ゆっくりとカウンターで仕切られたオフィスの中へと入った。手も足も自分のものじゃないみたいだ。
これは、どこからどう見ても、立てこもり事件だ。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。絶対、厄病神のせいだ。
犯人とわたしたちの間は三メートルぐらいしかない。
「おい、女」
「わ、わたしですか?」
この場に女性はわたししかいない。
犯人と目があった。
眼鏡をかけた痩せた男性。真っ白い髪の感じからすると五、六十代だろうか。

「男たちの手を後ろ手にして、テープで縛れ。変な動きを見せるなよ」
犯人から、オフィスにあった太目の梱包テープを投げ渡される。
「早くしろ、撃ち殺すぞ」
「は、はい」
手が震えてテープがうまく巻けない。
「ごめんなさい」
謝りながら、わたしはバッハさんと男性社員の手を背中側で縛った。
「終わったら女は、こっちへ来て、椅子に座れ」
犯人の横にオフィスチェアが置かれている。
バッハさんがわたしの前に出て、身体で庇う。
「この人は、うちの会社の人じゃないんです。私がそちらへ参ります」
「うるさい。コッペリ社の社員じゃなくてもいいんだよ。わしには一番弱そうな奴が必要なんだ。文句言うな」
犯人からすれば、自分の近くに置いておくのに、非力なわたしが都合いいというのは容易に想像がついた。
犯人の隣に座ると銃が突き付けられた。これは、最初に殺される係だ。足が震えてきた。

どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
わたしは、フレッド先輩のお使いで、書類を受け取りに来ただけなのに。(10)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」