銀河フェニックス物語<出会い編> 第一話 永世中立星の叛乱 (3)
第一話の初回はこちらから
ガーディア社は宇宙船がどれだけ高重力に耐えられるかという負荷検査をしてランクを認定する会社。
長年にわたってうちのクロノス社の検査を請け負ってきた。
それが突然来期から受けられないという連絡が入ったのだ。
「あなたも操縦士なら負荷検査の5S-L認証のことは知ってるでしょ」

「もちろんさ。この船は5S-Lだし」
「え? 5S-Lって高級船か軍艦の様な特別目的船しか取れないはずよ」
5S-Lは取得するのが大変なのだ。
高重力のラールシータでなければ検査ができないことから、付加価値がついて、5S-L認証付きと言えば高級船に必須の安全ブランドになっている。
「けけけけ。この船は高級船なのさ」
愉快そうにレイターさんは笑った。そうは見えない。わたしをからかっているんじゃないだろうか。
*
『厄病神』と言うと暗いイメージがあるのだけど、レイターさんは陽気でおしゃべり、というか要は軽いお調子者だった。
「レイターさんは…」
「レイターでいいよ。ティリーさん」
「じゃあわたしもティリーでいいです」
「あんた一応女子だろ?」
一応と言うのがひっかかるけど頷く。
「ええ」
「俺はさあ、世界中の女性を尊敬してんのよ。ガキも含めて。だから敬称さ」
わたしのことを子ども扱いするのには腹が立つ。
「俺、何て呼ばれてるか知ってる?」
もちろん、という言葉を飲み込んだ。『厄病神』って面と向かって言うのは憚られた。
「教えてやるよ。『銀河一の操縦士』さ」

そう言って笑った。無邪気な子供のような笑顔だった。
*
レイターにフェニックス号を案内してもらう。
船の中心部の部屋の前で足を止めた。
「ここは開かずの間だから入っちゃだめだぜ」
「開かずの間? 何があるんですか?」
「お化けが出る」
「は? わたしを子ども扱いしないでください。入るなと言われれば入りません。この部屋は何ですか?」
つい口調が厳しくなる。
「お袋さんの部屋なんだ」
「ホストコンピュータールームがこんなところにあるんですか?」
変わった船だ。
「うんにゃ、エンジンルーム。お袋さんはエンジンと合体してるんだ」
「意味が分からないんですけど」
「俺にもよくわかんねぇんだ」
大丈夫だろうか。この厄病神の船は。
*
後部には格納庫とトレーニングルームがあった。小型船やエアカーが並んでいる。
「随分広いですね」
船の大きさに比べ不釣り合いな広さだ。
「俺は銀河一の操縦士だっつったろ」
小型船がきれいに磨かれていた。宇宙船が好きというのは本当なのだろう。
その横のトレーニングルームはコンパクトだけれど機器が充実していた。スポーツジムのようだ。
「すごい設備ですね」
「ボクちゃん肉体労働だから」
そう言ってレイターは軽々とバーベルを持ち上げた。
宇宙飛行中は運動不足になりがちだ。
「ここ借りてもいいんですか?」
「一回一万リル」
「ええええっ、高い」
思わずつぶやいたわたしを見て、レイターはにやりと笑った。
「うそだよん。お袋さんに頼めばいつでも使えるぜ」
だまされるわたしが悪いのか。厄病神との会話はいちいち腹が立つ。
*
「夕飯は七時だぜ」
この船はご飯の時間が決まっていた。
少し早めに自分の部屋から出る。
キッチンからいい匂いが漂ってきた。レイターが厨房に立っていた。

通常、船で出る食事に期待はしていない。機内食はクイックレシピを温めたものがほとんどだから、まずくもないけどおいしいという程でもない。
ボワウゥ。
音とともにコンロから火柱が上がった。
「か、火事?」 (4)へ続く
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」