銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十八話(3) 放蕩息子と孝行息子
・第一話のスタート版
・第二十八話(1)(2)
・第二十八話のまとめ読み版
「チャムールが知り合いがいないから心配だ、って言うのよ」
「ま、いいけど。一応正装だぜ」
レイターはあまり気乗りがしていないようだった。
正装というのは、家にある紺のフォーマルスーツで大丈夫だろうか。
レイターはどうするんだろう。想像したら顔が緩んだ。

要人警護の『よそいきレイター』が頭に浮かんだ。
マドレーヌは焼き立てだった。
表面はカリっとしているのに中はふわふわ。ほんとに器用で便利な人だ。
美味しいマドレーヌをいただきながら、わたしはレイターを前に落ち着かなかった。
婚約者だったというアーサーさんの亡くなった妹、『愛しの君』のことを聞いてみたい。
でも、どうやって切り出せばいいだろうか、と思いながらコーヒーを口にする。
そんなわたしに、レイターが声をかけた。
「ティリーさん、何か、俺に言いたいことがありそうだな」
この人はボディーガードとして優秀で、やたらと気が付く。
こういう時は助かる。
思い切って口にした。
「チャムールから聞いたの。『愛しの君』の話」
「あん?」
レイターがわたしの目を見た。
「それであんた、俺んちに行きたくなったんだ」
図星だけれど、素直に認めたくない。
「チャムールに頼まれたから、って言ってるでしょ!」
「ま、いいや。別に隠してる話じゃねぇし」
「隠してるのかと思ってたわ」
正直に口にした。
「フローラの話をすると、周りが俺に気を使うからな」
「フローラさんって言うのね」
「ああ」

レイターの表情が優しい。というか、愁いを帯びた静かな表情。
「アーサーの妹のフローラと俺は、俺が十七ん時に結婚したんだ」
結婚した?
婚約の間違いじゃないの?
「でも、その直後にフローラは病気で死んだ」
「・・・」
「俺が十八になったら届け出るはずだったから、正式な結婚とは呼べねぇがな」
レイターはそこで言葉を切った。
話したくないのか、何を話していいのか迷っているのか。
おしゃべりなレイターが黙ると空気が重い。普段と違う。まるで別人だ。落ち着かない。
マドレーヌは食べ終わった。
「とにかく、チャムールのために行くから」
それだけ言って、わたしは席を立った。
あんな寂しげな表情なんて見せないでほしい。レイターはおちゃらけたキャラクターなんだから。
*
祝賀パーティーの日。
月の御屋敷まで連れて行ってもらうため、フェニックス号へやってきた。
「ティリーさん、いいねえその服」

レイターを見た瞬間、腹が立った。
「レイターが正装って言うから、家にある一番高いスーツを着てきたのよ。なのに、あなたは正装じゃなくていいの?」
正装、と自分で言っておきながらレイターはいつもと同じだった。
ネクタイをゆるめただらしない格好に、ぼさぼさの髪。

「あん? 自分ちなんだぜ。上着着てりゃ十分正装だろが」
とレイターは肩をすくめた。
どうしてわたし、こんなに苛立っているんだろう、と思いながら気が付いた。『よそいきレイター』じゃなくて、がっかりしている自分に。
*
月の御屋敷に近づく。
将軍のご自宅は聞きしに勝る大豪邸、というか本当にお城だった。
お屋敷の周りは、目には見えない高性能なバリアが張り巡らされているらしい。
フェニックス号は識別コードが与えられていて、何の苦も無く敷地の駐機場に着陸した。
「絵本にでてくるお城みたいね」
「アーサーの先祖が、地球にあった古城を移築したんだとさ。金持ちの考えることはよくわかんねぇな」
手入れが行き届いた庭は、要塞というよりまるで公園だ。
季節の花々が美しい配色で咲き乱れている。ベルがテーマパークのようなお城、と言っていたのは、当たらずとも遠からずだ。
チャムールとアーサーさんは、ここでデートをしているのか。
ここならご自宅といえど、デートスポットっぽいから許せる気がする。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」