銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(40) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① ② ③
* *
クロノスのピットで、第二カメラのモニターを見つめていたティリーは驚いた。

「ハールが赤く光ってるわ」
一体、何が起きているのだろう。
レイターの船が不気味に発光している。機体に張られていた広告ステッカーが溶けおちていく。
さっきまで小惑星帯でギーラルのオクダが幅寄せして、レイターをブロックしていた。
レイターのハールはボディが薄いから、ぶつけられたくないのだろう、接触を避けて後ろに下がっていた。
それが突然、ストレートのラインに入ったところで加速した。
ブォオオオンンンンンンンンンンン。
ハールが炉に入った鉄のように赤く光りだす。
ギーラルのオクダが避けるように慌てて道をあけた。
ジョン先輩のあわてた声が聞こえた。
「まずいぞ、これはパラドマ発火を起こす」

「どういうことですか?」
ジョン先輩の顔を見る。
「スチュワートがどうやって脆弱なハールで高速を出しているのかわかったよ。あれは、ボリデン合金でできたハールだ。ギーラルが試作機を作ったという話をレイターから聞いたことがある」
「え?」
「あの赤い色はパラドマ発火を起こす寸前だ。ギーラルは自社の船だから燃えるってわかってるんだ。だからオクダが道を開けたんだ」
「それって、危険ですよね?」
「ものすごーく、危険だよ。パラドマ発火は宇宙空間でも爆発するように一気に燃える」
学生時代にやったマグネシウムの燃焼実験を思い出した。目にまぶしい発光。
どうしてそんな船に乗っているのあの人は。足がガタガタと震えだした。
* *
スチュワートはモニターを凝視した。
「レイター、下がって距離をとれ」
というアラン・ガランの指示をレイターの奴、無視しやがった。

ブォオオオンンンンンンンンンンン。
「止めろ! 燃えるぞ!」
俺の横でアラン・ガランが慌てて叫ぶ。
「メガマンモスのパワー、九十三パーセントを突破」
計器を確認するオットーの声がかぶる。モニターのデジタル数字がどんどんと上がる。一気に不安が高まる。
ハールが赤く光った。まずいぞ。
「百パーセント、全開です!」
100を示したまま数字は点滅を続けた。
「メガマンモスのエンジンを全開にしたら燃えるんだろ? 大丈夫なのか?」

あせる俺にアラン・ガランが答える。
「消火対策はしていますが、ここで火が出たら完走は無理です」
何てことだ。
「レイターの奴、仕掛けるタイミングを間違えたな」
オクダがレイターに道を譲った。パラドマ発火の巻き添えを避けるためだ。
二位に躍り出たハールは、赤く不気味に光っている。順位は上がったが、今、火が出たらゴールまで持たん。
「百パーセントを維持!」
オットーの叫び声が響く。
アラン・ガランが、モニターを見つめながら計算続ける。
いらだちと不安の中で俺はハールに見とれていた。宇宙を切り裂いて飛ぶ赤い矢。直線番長の加速は銀河一だ。
メガマンモスが人々を魅了する理由がわかる。人は速いものに純粋に憧れる。
レイターは見る間にギーラルのオクダを引き離し、エースへと近づいた。
コーナーで速度が落ちる。すーっと、赤い色が収まっていく。白いハールへと戻った。
「安全圏に入った」
アラン・ガランがほっと息をついた。

俺は聞いた。
「おい、パラドマ発火はどうなったんだ?」
アラン・ガランが答えた。
「どうやら、メガマンモスが全開じゃなかったようです」
「百パーセントだったんだろ?」
データを読み上げたオットーが答える。
「はい、間違いありません」
どういうことだ?
アラン・ガランが落ち着いた声で説明した。
「計器は百パーセントを示してましたが、誤差の範囲というか、レイターは計測できない微小な世界で百パーに届かないよう抑えていたようです。パラドマ発火する直前の臨界手前でギリギリで引き留めた」
「そんなことができるのか?」
アラン・ガランは一呼吸おいて答えた。
「おそらくレイターは、船の声を聴きながら飛ばしています」
「船の声?」
「風の設計士団にいた頃、老師がいつも言っていました。現実は机上ではない。船を自分の中に取り込み、全身で船の声を聴いて飛ばせと」

レース直前、ハールに泊まり込んでいたレイターを思い出す。あいつは寝食を削って整備を続けていた。 (41)へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」