今日の患者さん#03「1ヶ月も動かせないのは困る」――一人暮らしの60代女性が、あえて「手術」を選んだ理由。
「先生、手術をして早く治すことはできませんか?」
医師から「手術なしでいけますよ」と言われた患者さんが、自ら手術を希望した。
これは、わがままではありません。
「自分の人生にとっての最善」を選んだ決断です。
この記事は、その選択の全部を見ていたナースが書いています。
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1.スケート場での一瞬
冬の晴れた日。
スケートを楽しんでいた60代の女性。
調子よく風を切って滑っていたその瞬間、一瞬のバランスの乱れで転倒。とっさに左手をついた。
鈍い音が響いた。みるみるうちに腫れ上がる手首。
救急外来での診断は「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」。
手首の親指側にある橈骨という骨の、関節に近い部分の骨折です。
転倒時に手をついた時に起きやすく、特に骨密度が低下しやすい中高年女性に多い骨折です。
痛みより先に、「これからどうなってしまうの?」という不安が押し寄せてきたはずです。
2.「手術なし」の診断と、立ちはだかる壁
レントゲンを見た医師の言葉はこうでした。
「ズレは少ないので、手術なし(保存療法)でいけますよ。1ヶ月ギプスで固定しましょう」
骨を切らずに済む。体への負担が少ない。
一見、良い知らせのように聞こえます。
でも彼女の表情は、晴れませんでした。
彼女は、一人暮らしだったからです。
1ヶ月間、左手が全く使えない。
・玄関の鍵をバッグから取り出す
・髪を洗う
・着替える
・スーパーの袋を持つ
・お風呂に入る
24時間の生活を
頭の中でシミュレーションすればするほど、
「1ヶ月」という時間が
どれほど重いかがわかってくる。
そして、もう一つの恐怖。
「1ヶ月後に、本当に元通り動かせるようになるのか」
次からは、彼女がどう決断したか、そして「保存療法と手術療法、どちらを選ぶべきか」の判断基準を全部お伝えします。
3.「生活を守るための決断」
2日後の再診。骨がズレていないかの確認でした。
彼女は迷いませんでした。
「1ヶ月もじっとしていられない。少しでも早く、自分の手で生活したいんです」
手術を選択しました。
2日後、伝達麻酔(神経ブロック)で手術終了。
術後1週間のシーネ固定で帰宅。
術後1週間の外来。
傷も固定の具合も問題なく、リハビリが始まりました。
「この1週間だけでも大変だった。迷ったけど、わたしの生活では手術を選んで良かった」
この言葉を聞いた時、私は医療の本当の役割を改めて考えました。
骨がくっつくことだけがゴールではない。
その人の生活が、一日も早く元のリズムに戻ること。
それが、医療の本当の意味だと患者さんから教わった瞬間でした。
4.「なんとかなる」は、現場では通用しない
「手術しなくて済んでよかった」
ギプス固定と告げられた患者さんの多くが、最初にそう思います。でも、自宅の玄関で鍵を開けようとした瞬間に気づく。
「あ、片手が使えないと、バッグから鍵を取り出すことすら大変なんだ」
24時間の生活をリアルにシミュレーションした時に初めて見えてくるものがあります。
利き手か、非利き手か。
一人暮らしか、家族がいるか。
仕事の内容は何か。
介護や育児があるか。
同じ「1ヶ月のギプス固定」でも、その重さはまったく違う。
彼女は「医学的な最善」と「自分の人生にとっての最善」が違うことを、自分で判断しました。
それは、正しい選択です。
5.選択肢があるからこそ、知っておくべきこと
手術がすべてではありません。
全身への負担・費用・リスクを考えれば、ギプス固定(保存療法)が適している方もたくさんいます。
大事なのは、「それぞれを選んだ後に、どんな毎日が待っているか」をあらかじめ知っておくこと。
医師から「どちらにしますか?」と聞かれた時にパニックにならないために、判断基準を整理しておきます。
🟨保存療法(ギプス固定)が向いている人🟨
✔ 骨のズレ(転位)が少ない
✔ 家族など、日常生活をサポートできる人がいる
✔ 利き手ではない側の骨折
✔ 手術・麻酔へのリスクが高い持病がある
✔ 仕事・生活への影響が比較的少ない
🟨手術療法が向いている人🟨
✔ 骨のズレ(転位)が大きい
✔ 一人暮らしで、サポートがない
✔ 利き手側の骨折
✔ 早期回復が必要な仕事・生活環境
✔ 骨粗しょう症があり、ギプスだけでは固定が難しい
❤️🩹❤️🩹これはあくまで判断の参考です❤️🩹❤️🩹
最終的な治療方針は、骨折の状態・全身の状態・
年齢・骨密度など複合的な要素で決まります。
担当医とよく相談してください。
【関連記事】
🟨🟨医師に聞くべき「5つの質問」🟨🟨
診察室でパニックにならないために、これだけ準備してください。
① 「骨のズレはどのくらいありますか?」
→ ズレの程度が治療方針の基準になる
② 「保存療法を選んだ場合、1ヶ月後にどの程度動かせるようになりますか?」
→ 具体的なゴールを確認する
③ 「手術した場合、いつからリハビリが始まりますか?」
→ 回復スピードの差を知る
④ 「私の生活環境(一人暮らし・仕事内容など)を踏まえると、どちらが向いていますか?」
→ 生活を含めた判断を仰ぐ
⑤ 「手術しない場合のリスクを教えてください」
→ 保存療法の限界を知る
おわりに
「医師が手術しなくていいと言ったから」
「手術は怖いから」
その理由だけで治療を選ぶのは、もったいないと思っています。
大切なのは、自分の生活を守るために、何が必要かを知ること。
彼女は「手術なしでいける」と言われながら、自分の生活を守るために手術を選びました。
それは弱さではなく、自分の人生を真剣に考えた強さです。
どちらを選んでも、正しく知って選んだ決断は後悔しません。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療相談の代替となるものではありません。治療方針は必ず担当医とご相談ください。
次号の患者さんは、『ふとしたことで再手術となってしまった』です。
ついでにご覧ください。
