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今日の患者さん#04「術後1年の油断」が招いた再手術。庭いじり中の『振り向き』で股関節が外れた80代男性の話


「もう何でもできるよ!」
そう笑っていた80代の男性が、1週間後に再手術になりました。原因は、庭で後ろを振り向いたこと。

たったそれだけです。



【自己紹介はこちら】



1.「もう普通の体だ」という過信


人工股関節の手術から1年。
Aさんのリハビリは順調でした。痛みもなく、杖なしで歩ける。趣味の庭いじりも楽しめるまでに回復していた。

「もう何でもできるよ!」
その言葉に、嘘はなかったと思います。体は、本当にそう感じていたはずです。
でも、体の感覚と、人工関節の限界は別物です。



2.運命を分けた「たった一つの動き」


庭で剪定作業をしていたAさん。後ろから声をかけられました。その瞬間、彼がとった動作がこれです。

足先を地面に固定したまま、上半身だけを大きくひねって後ろを振り返った。


日常のどこにでもある動作です。誰でも無意識にやります。

でも、人工股関節にとってこれは最も危険な動きの一つでした。


🟨🟨なぜこの動きが危険なのか🟨🟨

人工股関節は、金属やセラミックでできた「ボールとソケット」の構造をしています。
大腿骨の頭(ボール)が骨盤側のソケットにはまることで股関節の動きを再現しています。
この構造には、可動域の限界があります。

特に危険な動き:「内旋(ないせん)」

足先を固定したまま腰をひねると、股関節が内側に回旋する(内旋)状態になる。

これがテコの原理で大腿骨頭をソケットの外へ押し出してしまう。


術後1年経って筋肉がついていても、人工関節の可動域の限界はデザイン上変わりません。
「慣れ」と「筋力の回復」は、関節が外れる角度を変えてくれないのです。
その瞬間、激痛とともにAさんはその場に崩れ落ちました。


次からは、「一度外れるとなぜ危険なのか」
「再手術を防ぐために一生守るべき動作」を全部お伝えします。



3.「一度外れる」ことの恐ろしさ


受診したAさんは、レントゲンを見ながら関節をはめ直す「徒手整復(としゅせいふく)」を受けました。
一度は元の位置に戻り、脱臼防止のヒッププロテクターをつけて帰宅。

しかし1週間後、「これといったきっかけもなく」再び激痛が走りました。

再脱臼です。


🟨🟨なぜ繰り返すのか🟨🟨

一度脱臼すると、関節の周りの組織(関節包・靭帯など)が引き伸ばされます。

伸び切ったゴムが元に戻らないように、この組織は簡単には元の張力を取り戻せません。

「脱臼の通り道」が一度できてしまうと、

・くしゃみ
・寝返り
・靴下を履く動作

こういった日常のなんでもない動作でも外れやすくなります。
これを「反復性脱臼」と言います。

最初の一度が、最も重要です。
「一度目を起こさないこと」が、すべての鍵です。



4.再手術という現実


2度目の脱臼は、徒手整復では元に戻りませんでした。
Aさんは「人工関節を入れ直す再置換術」を受けることになりました。

1年前の手術の苦労。毎日続けたリハビリ。
やっと手に入れた、杖なしで歩ける日常。

そのすべてが、たった一度の「不用意な振り向き」で振り出しに戻りました。

再置換術は、初回の手術より難易度が高くなります。
骨や周囲の組織がすでに変化しているため、手術時間・出血量・回復期間、すべてが増えます。
高齢であるほど、そのリスクは上がります。


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5.人工股関節を「一生守る」ための3つの原則


Aさんの話から、絶対に覚えておいてほしいことが3つあります。

🟨原則①「術後1年」は卒業日ではない🟨

筋肉はつきます。痛みは消えます。
杖なしで歩けるようになります。

でも、人工関節が外れる「角度」は一生変わりません。

術後1年経っても、術後10年経っても、
脱臼リスクのある動作は変わらず存在します。

「もう普通の体だ」という感覚は、回復の証である一方で、最も危険なサインでもあります。


🟨原則②「振り向く時は足から動かす」🟨

❌ NG:
足先を固定したまま、腰だけをひねって振り向く
→ 股関節が内旋する。最も脱臼しやすい動き。

⭕️ OK:
足踏みするように、体全体を向けたい方向へ向ける
→ 股関節への負担を最小化できる。

「振り向く=足から動かす」
これを体に染み込ませてください。
声をかけられた瞬間、無意識にやってしまうのが
最も危険です。


🟨原則③「慣れた頃」が最も危ない🟨

術直後は誰でも慎重です。
「絶対に脱臼させてはいけない」と意識している。

でも痛みが消えて、生活が戻ってくるとその慎重さは少しずつ薄れていきます。

Aさんが脱臼したのは術後1年。
リハビリが完璧に終わった後でした。

痛みがなくなった時こそ、
術直後の「あの慎重さ」を思い出してください。


🟨まとめ:脱臼しやすい動作チェックリスト🟨

以下の動作は、術式によって禁忌が異なります。必ず担当医・理学療法士に確認してください。

一般的に注意が必要な動作:

□ 足先を固定したまま腰をひねる
□ 深くしゃがむ・正座をする
□ 股関節を90度以上曲げながら内側にひねる
□ 低すぎる椅子・便座に座る
□ 患側を下にして横向きに寝る(術式による)
□ 立ったまま靴下・靴を履く


❤️‍🩹❤️‍🩹術式によって禁忌動作は異なります❤️‍🩹❤️‍🩹
後方アプローチと前方アプローチでは、脱臼しやすい方向が逆になる場合があります。
自分の術式と禁忌動作を、担当医または理学療法士に必ず確認してください。


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おわりに


Aさんは、何も悪いことをしていません。
一生懸命リハビリをして、元気に生活を取り戻して、好きな庭仕事を楽しんでいた。

ただ、「知らなかった」だけです。

振り向く時に足から動かすことを。
術後1年経っても関節の限界は変わらないことを。
一度外れると繰り返しやすくなることを。

知っていれば、防げた再手術でした。

この記事を読んだあなた、または大切な家族に人工関節の手術を受けた方がいるなら、今日から「振り向く時は足から」を習慣にしてください。

それだけで、Aさんと同じ後悔を防げます。



本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療相談の代替となるものではありません。禁忌動作や術後の生活指導は、必ず担当医・理学療法士にご確認ください。


次号の患者さんは、『痛み止めの効果が減ってきたのはなぜ?』です。
ついでにご覧ください。

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