私が証人として出廷した公判の記録(外国人らのグループによる強盗致傷等事件)
裁判長:あなたの職業は?
証 人:警察官です。
裁判長:それでは宣誓してください。
証 人:はい…
良心に従って真実を述べ、
何事も隠さず、
偽りを述べないことを誓います。
裁判長 あなたは警察官ですから、宣誓の意味はわかっていますね。
証言人 はい。
裁判長:では、検察官。尋問を始めてください…
これは、平成17年に私が実際に証人として出廷した公判の冒頭です。
宣誓の意味
公判における被告人の黙秘権(終始沈黙しててもいいし、個々の質問を拒否してもいい)の行使は認められていますが、証人については、自分や近親者が刑事訴追されるおそれがあるなどの正当な理由がある場合以外は認められていません。また、宣誓した上で嘘の証言をすれば、偽証罪(3月以上10年以下の拘禁刑)という比較的重い刑罰を受ける可能性があります。

この下に証人の署名欄があり、証人はこれに署名した後、証言台に立ちます。
ちなみに、「公判」とは刑事事件での公開の法廷で行う証人尋問や証拠調べなどの審理のことを言い、「裁判」とは刑事や民事関係なく、紛争や事件を解決するために法的な判断を下す手続きの総称として広く用いられる用語で、書類でのやり取りの手続きなども含まれます。
証人召喚状の送達
この公判の事件は、今から約20年前、大阪、兵庫、奈良で連続発生していた不良中国人グループ5人と暴力団組員1人の6人組による持凶器緊縛強盗致傷事件等で、日曜日の閉店直後の大型スーパーの事務室に、けん銃や青龍刀、金属バットで武装して押し入り、店員をロープで縛り上げ、刃物で傷つけたりして脅し、週末の売上金が溜まった金庫を開けさせ、中の現金を強奪するといった荒っぽい犯行手口だったのです。
注)この記事では、当時の容疑者の国籍を記載していますが、特定の国を非難、中傷しようとするためではありません。単に「アジア系」などとすれば容疑者像の幅が広くなり過ぎると考えたからです。
この事件の捜査は大阪府警、兵庫県警、奈良県警の合同捜査で行われ、当時私は兵庫県警本部の国際捜査で勤務し、中国人容疑者の取調べを担当しましたが、その後、神戸市内の警察署の刑事一課に異動になり多忙な日々を送っている最中、裁判所からの召喚状が届いたのです。

当初、この公判に呼ばれる理由がわからなかったのです。
というのも、この容疑者は、逮捕当初から公判まで一貫して犯行を否認し、私が作成したほとんどの供述調書への署名を拒否していたからです。
(※供述調書は、取調べを担当した警察官がその結果を書類にしたもので、作成後の記載内容を容疑者が確認し、間違いが無ければ調書の最後の行に容疑者が署名することになっていますが、間違いの有無に関わらず署名を拒否することもできます。)

不動文字(印刷されている部分)以外のところに、人定事項や事件名、取調べ日及び場所を記載し、その後から供述内容が入ります。
通常、容疑者の署名のない供述調書は証拠的な価値はなく、公判に出ることはまずないので、いったいどういうことかと思いつつ、公判担当の検察官との打ち合わせに行くと、検察官から「あなたが作成した調書には容疑者の署名はないが、警察の取調べ段階での供述内容が記載されていて、その内容が公判での被告人(※公判になると容疑者は被告人という立場になります)が主張する内容と違うのです。それで、その調書を公判に証拠として申請したいのですが、そのために、作成者、つまりあなたの証人尋問が必要です。」との説明を受けたのです。
裁判官は証拠をもとに判決を下します。
証拠とは、公判での証言や指紋、DNAといった物的な証拠の他、警察官が作成した供述調書なども証拠となりえるものです。しかし、供述調書の全てが証拠として採用されるわけではありません。実際、警察官が作成した供述調書などを検察官が公判で証拠として申請しても弁護側から同意がなく、証拠として採用されない場合が多いです。ただ、作成した警察官を証人として呼び尋問した結果、その調書が信用できると裁判官が判断した場合は証拠として採用されるケースがあります。
なお、この記事中の「容疑者」とは報道など一般的に使われている名称で、私の他の投稿でもこの名称を使っていますが、刑事訴訟法などの法律上は「被疑者」と言います。その違いについては、別の投稿記事に詳しく解説していますので、良ければそちらをご覧ください。
証人尋問
この時の事件の罪名は強盗致傷などで、今であれば「裁判員裁判」で審理されるのですが、当時はまだその制度がなく、裁判官3人による合議制の公判でした。
私の証人尋問が始まり、検察官からの質問(主尋問)は事前の打ち合わせどおりでスムーズに進み、少し余裕が出てきたところで、3人の裁判官の方をちらっと見たところ、証言する私の表情に彼らの視線が集中していることに気が付いたのです。そこで咄嗟に、裁判官たちが、私が包み隠さずに証言しているか否か、私の表情から見抜こうとしていると感じました。

私は宣誓の上証言台に立っており嘘をつくこともありませし、また、その必要もありませんでした。しかし、人間誰でもそうですが、自分が不利になるようなことは言いたくないし、言うとしても一歩も二歩も下がった言い方になるものです。その部分を見抜こうとしたんでしょうね。
その後も順調に進んでいた検察官の質問が突然、打ち合わせになかった質問が出始め「えー聞いてないよー」的な気持ちになったものの、問われたことに端的に答えればいいことですし、思い出せないことや、わからないことは率直にそう答え、検察官の質問は問題なく終わりました。
この後、弁護人の質問(反対尋問)があったのですが、それも終了して私が廊下に出たところで、検察官が走り寄ってきて、「すみません!打ち合わせになかった質問は実は作戦でして、あじとみさんならいけると思ってやりました。」とのこと。
私は「え?どういうこと?」状態。
検察官の説明はこうです。
「打ち合わせをした受け答えは裁判官にもそうだとわかるし、そうではない、今考えて答えている、つまり、準備していない、ただ記憶に従って素直に答えている証人(私)の姿を裁判官に見せたかった。」というのです。それが、証人の証言の信憑性(本当のことと信じられること)が上がるという作戦だったらしいのです。
「ほーなるほど。」とは思ったものの、「先に言ってよ~」と言いたくもなりますよね。
検察官の質問の次に、弁護人の質問が始まりました。
正直、どんな質問が来るんだろうと、構えた部分があったのですが、すぐに答えられる意外とあっさりした質問が多く、もう終わるかなと思った時でした…
「あなたは、被告人の黙秘権についてはよく理解してますよね。」
ときて、ある日の取調べを捉え
「黙秘する被告人に、威圧する態度で取調べたことがありますよね。」
と問われたのです。
一瞬考えましたが「あっ!あの時か!」と思い出しました。
容疑者の取調べは再逮捕分も含めて約40日近くに及びましたが、ある日の取調べの中で、黙秘を続けていた容疑者がボソッと何かを言葉にしたのです。当然中国語なので、すぐにはわかりませんでしたが、同席していた通訳人が日本語に訳してくれ、それは
「南京大虐殺で日本人は中国人をたくさん殺したから、これぐらいのことは許される」
ということがわかったのです。
それを聞いて私は思わず椅子から立ちあがり
「そんなの関係ないやろ!被害者は大けがしてるんだぞ!今でも苦しんでるんだ!」
と、容疑者に語気強く詰め寄ったことがあったのです…
私はその時のことを正直に話しました。これは私にとって、とても不利な証言です。場合によっては不適切で違法性がある取調べであったと認定されるかもしれません。
証言の当初に感じた裁判官の視線もそうですが、自分の心に忠実に包み隠さず答えようと、自分の腹に決めていたからでしょうか。もしあやふやな答えをして、その後の弁護人の質問にもはっきりと答えない態度をとっていたら、きっと裁判官には「この警察官は信用出来ない」と判断されたでしょう。
私への証人尋問が終了した後、私が作成した容疑者の署名が無い供述調書数通が証拠として採用されました。もし、私の証言に信憑性がなければ、その供述調書の中身にも信憑性が無いと判断され、証拠として採用されなかったはずです。
注)「南京大虐殺」のくだりは、過去の歴史問題を蒸し返そうとしているもので決してありません。ただ、忠実に公判の様子を伝えたいだけですので、その点ご了承ください。
私の証人尋問は概ね1時間半に及び、少し疲れ気味に署に帰って自分のデスクに座った途端事件が発生し、あっと言う間に多忙な日常の世界に引き戻されました‥
この容疑者の公判の結末は、この容疑者の供述には大きな変遷があり信用できないということと、容疑者と一緒に強盗や窃盗を繰り返したやったと自認する他の5人の共犯者の供述などにより、懲役20年の判決となり、その後容疑者側は控訴せず確定しています。
刑事にとって「公判」とは
私が刑事駆け出しの若い頃、先輩刑事から
「公判は色んな意味で勉強になるから、時間があれば傍聴しておいたほうがいい」
と言われたことがあります。
刑事が作成する捜査報告書や、容疑者を取調べた際の供述調書などの捜査書類の行き着く先が公判です。つまり、公判が刑事の仕事の最終地点になるので、そこでどういうことが焦点になるのか知っておくことが非常に重要だということなんですね。
ですので、私自身よく傍聴に行きました。自分が担当した事件、特に殺人事件とかは業務として必ず傍聴に行ってましたし、それ以外でも、たまの平日の休みの時とか、また、逮捕状や捜索差押許可状の令状請求のため裁判所に行った際、その審査に時間がかかると見込まれる時には、同じ裁判所内で開廷している公判を傍聴していました。
傍聴する公判によっては手続きだけであまり参考にならないものもありますが、公判の雰囲気を知るだけでも勉強になりますので、私が担当していた警察大学校や警察学校の講義では、刑事のみならず、色んな部門の学生(警察官)に公判の傍聴を勧めていました。
もし、裁判の傍聴に行ってみようかなぁと思われた方には次の記事が大変参考になりますので、ご紹介します。
今回の記事を最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回以降で、「取調べ」に関する記事も投稿したいと考えています。
