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北村透谷の詩「露のいのち」から学ぶ - 似て非なるものは動詞で区別 -

このシリーズでは近代~昭和初期にかけて活動した文士の作品から、「詩のどこが良いのか」「どう書けば詩なのか」を探していく。
どの記事も一本で完結している。

今回から北村透谷氏の詩を取り上げる。最初は「露のいのち」という詩から学んでいく。


はじめに、北村透谷氏とは

明治元年生まれの詩人。
「恋愛は人生の秘やくなり」がモットーな浪漫主義の詩人。
秘鑰とは、秘密の鍵のこと。

と説明すると少女的でロマンチックな雰囲気があるが、
自由民権運動で挫折を経験し、肉体よりも心の自由と幸福を重んじるようになった人物である。

次第に理想と現実とのギャップが大きくなり、自らこの世を去ってしまった。


露のいのち

待ちや待ちやれ、その手は元へもどしやんせ。無殘な事をなされまい。
その手の指の先にても、これこの露にさはるなら、
たちまち零ちて消えますぞえ。

吹けば散る、散るこそ花の生命とは悟つたやうな人の言ひごと。
この露は何とせう。咲きもせず散りもせず。ゆふべむすんでけさは消ゆ。

草の葉末に唯だひとよ。かりのふしどをたのみても。
さて美い夢一つ、見るでもなし。野ざらしの風颯々と。
吹きわたるなかに何がたのしくて。

結びし前はいかなりし。消えての後はいかならむ。
ゆふべとけさのこの間も。うれひの種となりしかや。
待ちやれと言つたはあやまち。とく々々消してたまはれや。

北村透谷『北村透谷詩集』より「露のいのち」


特定のものには特定の動詞を

「露」という単語を主語としたとき、必ず述語は「消える」である。

  • 一連目の最終行「これこの露にさはるなら…(中略)…消えますぞえ」

  • 二連目の「この露は何とせう」~「ゆふべむすんでけさは消る」

  • 四連目の「消えての後はいかならむ」「とく々々消してたまはれや」

これは露と他のもの、特に二連目で登場する「花」との差別化を図っている。

しかし、よくよく考えると当たり前のことを書いている。
露であるから、確かに咲くことも散ることも無いのである。

比喩や擬人法で、その物体に不可能な動詞をつけること (例:雲が笑う、など) は間々ある。
しかし、この詩でそれをしてしまうと意味を為さない。
そのことについて、次のセクションで考察する。


似て非なる「露」と「花」

「吹けば散る、散るこそ花の生命」と人は言う──この一節から思い起こされるのは、花見をする人々の姿。

満開の様子を見て喜び、散るのを見て切なくなることを愉しむ。つまり花は人々に「見られている」。

対して露は、夕方に溜まって早朝には消える。夜は暗く、外出する人もいない。露は人々に「見られない」のである。

この差別化を図るためにも、あえてシンプルな動詞で書いたと考察できる。


一番初めの内容を一番最後に撤回する

「待ってください。そんな無残なことをしたら、露が消えてしまいます」と最初に言っておきながら、最後には「待ってなどと言ったのは間違いでした。早く消してくださいませ」と心変わりしている。

心変わりのきっかけが、「ゆふべむすんで」から「けさは消る」までの流れとして三連目で描写されている。

草の陰という仮の寝床で夢も見ず、野ざらしで楽しいこともない。

これを踏まえたものが、四連目である。

溜まる前はどのようで、消えた後はどうなるのか、それを考えるしかない三連目 (ゆふべ~けさ) の間も憂いの種にしかならない。ならば、考える苦しみが来る前に消してくれ。

と、潔く生を諦めている。


余談 この詩は遺書か

この詩が発表されたのは明治26年の11月。その半年後の明治27年5月に、北村氏は齢25にして自ら縊死を選んだ。
彼は明治26年の年の瀬にも一度、命を断とうとしている。

この詩の「露」が北村氏であると仮定すると、遺書として書かれたようにも思えてくる。

はじめ私は、この自分の仮説に納得がいかなかった。
思い詰めている人が、こんなに文学的なことを書けるのだろうか、と。
しかし彼について調べるうち、遺書に「なってしまった」のかもしれないと思うようになった。

縊死の前、彼は執筆をしなかったというのである。
やはり思い詰めるとどんな文士でも、ものを書けなくなる。
苦しみの中の光であった創作の余裕も奪われるなど、想像するだけで辛い。


まとめ

動詞はテーマとなる物体と、比較する対象とを差別化する上でも重要となってくる。

主張したいことがありながら、ただ美しい言葉を使おうとすると、意味や辻褄がおざなりになってしまう。
伝えたい気持ちの分だけ、深く考えることが必須なのである。 

手軽と気軽は、組み合わせとしては在るが、それぞれは違うものだと強く思わされた。


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《参考および引用》https://www.aozora.gr.jp/cards/000157/files/2425_31782.html

本記事は、加筆修正をした上で電子書籍に収録しています。


次回の、透谷氏に関する記事
(2024年11月投稿・2123文字)


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