#創作大賞2026読むぞ宣言④ PKを蹴った花嫁 空原 ゆにさん
私はエンタメ小説を書いているので、オチやどんでん返しのことをいつも考えていますし、読書するときも意外な展開を楽しみにしています。
そのせいか、日常の何気ないことを書くエッセイにもそれを求めてしまうのです。
このエッセイの落差に驚きました。
PKを蹴った花嫁 空原 ゆにさん
有名なミステリー作家さんの教えに、ミステリーは「真ん中でぶん投げろ」という言葉があります。物語のラストだけではなく、中盤で読者が「えっ」と驚くような展開を作りなさい、という意味です。
私はこの言葉をとても大切にしているのですが、エッセイでそれに出会うとは思いませんでした。
「披露宴でPK戦、やってみない?」
まさしく「えっ」と思いました。この新郎の言葉でエッセイの前半と後半に思い切り落差が生まれているのです。
それまで「やる気のない花嫁」のマリッジブルーのお話だろうかと思っていたのが、きれいにひっくり返されました。
PKを蹴る自分を想像した瞬間、俯いていた花嫁の胸に一陣の風が吹き込んだことでしょう。
ストーリーは停滞から前進へ、局面はどん詰まりからブレイクスルーへと反転します。
そしてお話が急に面白くなります。テンポが生まれます。スピードが乗ってきます。必ず成功するのだという二人の企みはバージンロードまで繋がっていきます。
ゴールポスト探しは大変だったようですが、それも楽しく読みました。
当日の披露宴の盛り上がりはその場にいるようです。
「奥様のボールを旦那様がしっかり受け止めました!」
この司会のセリフ、しゃれていますね。本当にお二人を祝福している気持ちになりました。こういう生きた言葉を用意すると読者は一気に引きつけられます(実際にあったことなのでしょうけど)。
そもそもこのエッセイは、日常の何気ないことどころか、人生にそうはないイベントを題材にしています。これを書こうとした時点で作者の「勝ち」が決まったのではないでしょうか。
文章にリズムがあり、この躍動感は作者が楽しんで書いていることの表れだと思いました。
テーマ選びは大切ですね。つまらないテーマでは、いくら頑張っても面白くならない。私も肝に銘じました。
あの日の私は、ちゃんと笑っていた。
ラストの一文がまた良いですね。
ウエディングケーキの入刀より何より、PKが二人にとっての最高の「共同作業」だったのだと思いました。
空原さん どうぞお幸せに!
以上、読むぞ宣言の第4回でした。
「こういうあったかいお話をみんなに読んでもらいたいですね」
これは、拝読したときに私が空原さんに書いたコメントです。この記事ではいろいろ書きましたけど、つまり一言で言えば、あったかいお話でした。
