写真の中の笑い声(22)最期|クリスマス前に届いた、彼女との別れ
クリスマスが近づく頃、僕はほのかの容態が悪かったことを何も知らないまま、受験勉強を続けていました。
また春になれば、彼女はきっとよくなって、神戸で再会できる。
そう思い込んでいた僕に届いたのは、「悪くなった」ではなく、彼女が亡くなったという知らせでした。
笑い声で僕を何度も救ってくれた人との、突然の別れを描く第22章です。

いちばん容態が悪かった頃のことを、僕は、何も、知らない。
危篤だったことも。もう、長くないと、まわりが、覚悟していたことも。
何ひとつ、知らされて、いなかった。
僕は、ただ、机に向かって、受験勉強を、していた。クリスマスが、近かった。
また、春になれば。ほのかは、きっと、よくなる。あの病室で発破をかけてきた、あの調子で、また、笑う。そう、思い込みながら。
だから、その知らせは、いきなり、来た。
「悪くなった」でも、「危ない」でも、なかった。
亡くなった、という、知らせだった。
クリスマスを、目前にした、頃だった。
二年前、二人で、呉の遊園地へ行って、はじめてのキスをした、あの冬と。ちょうど、同じ季節だった。
そのとき、自分が、何を思ったのか。
正直に言うと――何も、思えなかった。
悲しい、とも。嘘だ、とも。そんな言葉すら、浮かんでこない。
ただ、頭の中が、しんと、静まって。何も、考えられなかった。
母と、二人で、通夜に行き、葬儀にも、行った。
受験の、まっただ中だった。でも、そんなことは、もう、どうでも、よかった。
その日のことを、僕は、ほとんど、覚えていない。どんな道を、通ったのか。誰が、いたのか。何を、したのか。ぜんぶ、霧の、向こうだ。
ただ、ひとつだけ。
はっきりと、鮮明に、覚えていることが、ある。
眠っている、ほのかの、死に化粧をした顔が。
はっとするほど、きれいだった、ということだ。
あんなに、けたけた笑って、顔を、くしゃくしゃに、していた子が。
その日は、ただ、静かで。おどろくほど、きれいで。
もう、笑わなかった。
「しょうくんには、言わんで」
ほのかが、まわりに、そう頼んでいたらしい、と知ったのは。ずっと、あとのことだ。
もう、いつ逝ってもおかしくない、という頃に。自分の容態を、僕にだけは、知らせないでくれ、と。
受験の、邪魔を、したくなかったから。
いつもは、僕がためらう距離を、自分から、越えてきてくれた、あのほのかが。最期だけは、僕を、何も知らないまま、遠くに、置いた。僕の、未来のために。
でも――それを知っても、あのときの僕には、もう、何も、考えられなかった。
その冬を、どうやって、越えたのか。
いまでも、僕は、よく、覚えていない。
*
♪ 今回のBGM:抱きしめたい(Mr.Children)、花 -Mémento-Mori-(Mr.Children)
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