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書けない原因を調べてみた③|脳の疲れ



はじめに

私は普段、在宅で仕事をしています。
仕事をしている最中は、

「これが終わったら書くぞ!」
「早く続きを書きたい!」

そんなことばかり考えています。

なのに。

家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、
ようやく机に向かう頃には、何も思い浮かばない。

「さっきまで、あんなに書きたかったのに!」

そんな経験、ありませんか?
私はあります。
イヤになるほどに何度もあります!

私はこの現象、
ずっと「仕事で疲れてやる気がなくなっただけ」なんだと思っていました。
でも認知心理学の本や研究を読んでみると、「やる気」の問題ではなく、「脳が疲れていた」という考え方があることを知りました。

ということで今回は、
創作者目線で「脳の疲れ」について調べてみたいと思います。


「脳の疲れ」は本当にある?


「疲れる」と聞くと、体のことを思い浮かべる人が多いかもしれません。

でも、心理学や認知科学では、
「考え続けること」
そのものでも脳は疲れると考えられています。
これを【認知疲労(Cognitive Fatigue)】と呼ぶそうです。

人と話すこと。
仕事で判断を繰り返すこと。
買い物で献立を考えること。
家事の段取りを考えること。

こうした「考える作業」は、一つひとつは小さくても、一日の終わりには脳は少しずつ疲れていくそうです。

つまり、「今日は書けない」のは、やる気がないからではなく、
「今日はもう脳がたくさん働いていた」
という可能性もあるのかもしれません。


小説を書くって、思っていた以上に脳を使う


調べていて面白かったのが、「ワーキングメモリ」という考え方でした。

ワーキングメモリとは、「頭の中のメモ帳」のような働きをする仕組みです。
ただ、このメモ帳には容量があります。
たくさんの情報を一度に抱えるほど、処理が難しくなるそうです。

小説を書くとき、私たちは文章だけを書いているわけではありません。

主人公は今どんな気持ちなのか。
このセリフは口調に合っているか。
前に書いた伏線と矛盾していないか。
情景描写は足りているか。
誤字はないか。

頭の中では、こんなにもたくさんの情報を同時に扱っています。

思っていた以上に、小説を書くという作業は「脳の総力戦」なのかもしれません。
そう考えると、仕事終わりに頭が動かなくなる日があるのも、不思議ではない気がしました。


「選ぶ」だけでも疲れるらしい


さらに興味深かったのが、「意思決定疲れ(Decision Fatigue)」という考え方です。

海外の心理学者バウマイスターらの研究では、人は一日に何度も判断を繰り返すことで、少しずつ意思決定の力を消耗していくと考えられています。

朝起きて、何を着るか決める。
昼ご飯を選ぶ。
仕事で判断をする。
スーパーで何を買うか考える。
夕飯を作る。

こうして振り返ると、一日は「選ぶこと」の連続です。

そうした必要な生活をこなした後に、
「さあ、小説の展開を考えよう」と言われても、
「もう今日は無理……」
となってしまう日があるのも、少し納得できました。


休んでいる時間も、創作の時間なのかもしれない


私は以前、「休んだらサボり。怠け」だと思っていました。

でも、研究を読んでいると、適度な休憩や睡眠は、集中力や認知機能の回復に役立つことが報告されています。
また、ぼんやりしている時間にも脳は活動を続けていることが分かっていて、この働きは【デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network)】と呼ばれています。

だからでしょうか。
お風呂に入っているとき。
散歩をしているとき。
寝る直前。
「あ、この展開いいかも!」
と突然アイデアが浮かぶことがあります。
机に向かっている時間だけが、創作ではないのかもしれませんね。


おわりに


今回、認知心理学を調べてみて一番印象に残ったのは、「書けない」のではなく、「脳が一日頑張っていた」のかもしれない、ということでした。

私は今でも、「今日は何も書けなかった」と落ち込む日があります。
でも以前より、「私は怠けている」と思うのではなく、
「今日はどれだけ頭を使ってきたかな」と考えられるようになりました。
仕事や家事、人付き合い。
そういう生活のひとつひとつも、脳にとっては立派な仕事なんですね。

もちろん、「だから今日は何もしなくていい」と言いたいわけではありません。
私も締切前には、「いや、書かなきゃダメだろ!」と自分にツッコミを入れています。
…な~んて言いながら、結局やれなくて先延ばしをしてしまう日もあるんですけど、ネッ!
(そして先延ばしへ繋がるのかもしれません)


それでも、自分を責める前に、「今日は脳が疲れていたのかもしれない」と思えたら、少しだけ優しくなれる気がしました。


今日書けなかったのは、やる気がなかったからではなく、
「今日の脳が、もう十分頑張っていた」
からかもしれませんね。


次回は
「睡眠と創作」
について調べてみようと思っています。
「寝不足だと書けない」は本当なのでしょうか。



書けない理由は、これだけではありません。
創作者目線で「書けない」の正体を、
またひとつずつ調べていけたらと思います。
また一緒に考えていただけたら嬉しいです。

書けない私が、もがきながら前に進もうとした記録も別の記事にまとめています。
「書けない時間」を過ごしているあなたに、少しでも寄り添えたら嬉しいです。


参考文献

ワーキングメモリ

苧阪直行(2005)
『特集「ワーキングメモリと注意の脳内表現」によせて』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/48/4/48_477/_article/-char/ja/

苧阪直行(2007)
『メタ認知と前頭葉 ―ワーキングメモリの認知神経科学からのアプローチ―』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/50/3/50_216/_article/-char/ja/

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)

苧阪直行(2023)
『禅の瞑想意識と脳のデフォルトモードネットワーク』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tja/77/2/77_117/_article/-char/ja/
※この記事ではDMNとワーキングメモリネットワークの関係についても紹介されています。

苧阪直行(2016)
『社会脳からみた意識の仕組み』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/psychono/35/1/35_35.4/_article/-char/ja/

ワーキングメモリをもっと知りたい人向け

苧阪直行・越野英哉
『社会脳ネットワーク入門』
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB25902518?l=ja

Roy F. Baumeister(意思決定疲れ/Decision Fatigue)
Marcus E. Raichle(Default Mode Network)


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