セブンは銀行を作り、ファミマは借り、ローソンは資本ごと組んだ
2026年6月1日、ファミリーマートの店頭に、緑色のセブン銀行ATMが立った。
競合コンビニの銀行の機械が、相手の色をまとって、相手の店内に置かれている。この一件を調べているときに、もっと面白いことに気づいた。
コンビニ3社は、金融の作り方が、3つとも違う。
同じ立地で、同じような棚に、同じようなおにぎりを並べている。それなのに、その裏側では、まったく別の答えを出していた。

2001年、2社が同じ年に始めていた
出発点は、ほぼ同時だった。
セブン&アイは2001年、「アイワイバンク銀行」を設立した。銀行の窓口が15時に閉まる時代に、いつでもどこでも使えるATMを置くための会社だった。これが後のセブン銀行になる(注2)。
同じ2001年の10月、ローソンは「ローソンATM」のサービスを始めている。こちらは自前の銀行ではなく、複数の銀行が共同で利用する形のATMだった(注3)。
つまり25年前、両社はほとんど同じ問題意識から出発している。
そこから先が、分かれた。
セブンは最初から銀行の免許を取りに行った。ローソンは共同利用型のATM網を17年かけて育て、2018年10月15日になってから、ローソン銀行として銀行業務を開始した(注4)。
そしてファミリーマートは、どちらもしなかった。
2026年になって、セブン銀行から借りることを選んだ。
台数で見ると、差はもう埋まらない
25年経った現在地は、こうなっている。
セブン銀行のATMは、セブン-イレブンを中心に28,000台以上(注5)。
ローソン銀行のATMは、2026年3月末時点で14,061台。提携金融機関は407社にのぼる(注4)。
ファミリーマートのATMは、これから4年で約16,000台がセブン銀行のものに置き換わる(注1)。
置き換えが終われば、セブン銀行は44,000台を超える。ローソン銀行の3倍だ。

もっとも、ローソン銀行はこれを脅威とは見ていないようだ。2025年12月の日経ビジネスの記事は、ローソン銀行がセブンとファミマの連携に動じておらず、ATM利用数は5年前と比べて3割増えている、と伝えている(注6)。
台数が3倍でも、利用が3倍になるわけではない。ATMは、近い1台があれば足りる商売でもある。
セブンは、自分で作った
セブンのやり方は、いちばん重い。
銀行の免許を取り、自分で機械を置き、自分で運用する。手間はかかるが、そのぶん取り分は全部自分のものになる。
セブン銀行の収益は、預金でも貸出でもなく、他行の客にATMを使わせる手数料でできている。この会社については以前まとめたので、ここでは繰り返さない。
大事なのは、それが可能だったのは、セブン-イレブンという店舗網を先に持っていたからだ、ということだ。
置く場所を持っている会社だけが、置く機械を作れる。
ローソンは、17年かけて銀行になり、資本ごと開いた
ローソンは、作ったというより育てた。
2001年に始めた共同利用型のATM網を、17年運用してから銀行にした。ローソン銀行はその事業を承継する形で立ち上がっている(注4)。
そしてもうひとつ、ローソンだけがやったことがある。
2024年2月6日、三菱商事、KDDI、ローソンの3社は資本業務提携を締結した。KDDIによる公開買付けを経て、三菱商事とKDDIがローソンの議決権を50%ずつ持つ共同経営体制へ移り、ローソンは上場廃止となった(注7)。
金融の機能を借りたのではない。資本ごと、通信キャリアと組んだ。
だからローソンの店では、Pontaが貯まり、au PAYが使える。ポイントも決済アプリも、資本の後ろにいる会社のものだ。
自前の銀行を持ちながら、経済圏は外から持ってきている。ここがローソンの特徴だと思う。
ファミマは、機能ごとに借りた
ファミリーマートは、3社の中でいちばん借りている。
資本は伊藤忠商事。銀行とATMはセブン銀行。ポイントはdポイント、楽天ポイント、Vポイントの3つを受け入れている。
自前と言えるのは、ファミペイくらいだ。
これを「持たざる者」と読むのは、たぶん違う。
伊藤忠という商社が後ろにいるから、競合の銀行から機械を借りるという交渉が成立する。商社はもともと、自分では作らず自分では売らず、間に立って両方を得させる商売だ。
自分で作らないことが弱さではなく、間に立てる相手を持っていることが強さになっている。
そう考えると、ファミマの選択は伊藤忠の家風そのものに見えてくる。
分かれ道は、客の名前にあった
ここまでは器の話だ。もう一段下に、たぶん本当の分かれ道がある。
客の名前を、外に出すかどうかだ。
セブン-イレブンは、共通ポイントに加盟していない。公式のFAQには、d払い以外でのdポイントの利用も付与もできないと明記されている(注8)。
つまりセブンは、d払いという決済手段は受け入れるが、dポイントのポイント加盟店にはなっていない。カードを提示してもポイントは付かない。決済加盟店ではあるが、ポイント加盟店ではない。
共通ポイントに加盟するというのは、手数料を払って集客を借りることであり、同時に「誰が何をいくら買ったか」を外の会社と共有することでもある。
セブンはそれをせず、nanacoと7iDという自前の仕組みに客を集めている。
ファミマは逆に、3つの共通ポイントを受け入れた。集客を借りる代わりに、購買のデータは外にも流れる。
ローソンは、その中間に見える。Pontaを運営するロイヤリティ マーケティングは三菱商事の系列で、ローソン銀行は開業時からPontaとの提携を掲げていた(注4)。外に出しているようで、実は身内に渡している。
器の作り方が3つに分かれたように見えて、その根っこは、客のIDをどこに置くかで分かれていた。

同じ構えの会社が、コンビニの外にもいた
共通ポイントに入らないという選択は、セブンだけのものではない。
しまむらも、共通ポイントに一度も加盟していない。dポイントも楽天ポイントもPontaも貯まらない。そして2026年3月10日、ようやく自前のポイント制度を始めた(注9)。
7,000億円を売りながら、客が誰かを持たずにやってきた会社が、最後に自分の名簿を作りにいった。
セブンとしまむらは、業種も規模も違う。それでも構えは同じだ。決済手段としては各社を受け入れるが、ポイント経済圏には入らない。
こう並べてみると、共通ポイントに入るか入らないかは、規模の問題でも時代の問題でもない。自分の店に来る理由を、自分で作れるかどうかの問題なのだと思う。
セブンには店舗数がある。しまむらには、棚を薄くして客を回らせる仕組みがある。
来店を自力で作れる会社は、集客を借りなくていい。借りなくていいなら、客の名前を渡す必要もない。
それでも、まだ分からないこと
この記事は公開情報を並べたものなので、断っておく。
ファミマATMの置き換えは始まったばかりで、2026年6月3日時点の設置はまだ2店舗だった(注5)。完了は2030年の予定で、それまでの効果は誰にも分からない。
しまむらの新しいポイント制度も、業績への影響はまだ公表されていない。
ローソンの共同経営が金融面でどこまでの成果を出すかも、これからだ。
台数の合計は単純に足した概算で、各社の収益構造まで比較したものではない。
分かっているのは、3社が同じ問いに対して別々の答えを出していて、そのどれもが、それぞれの手元にあるカードから見れば合理的だ、ということだけだ。
最後に
3社は、思想が違うのではないと思う。持っているものが違っただけだ。
セブンは店舗網を持っていたから、銀行を作れた。
ローソンは17年分のATM網を持っていたから、それを銀行にできた。そして資本を開くという、いちばん大きな決断ができた。
ファミマは商社を持っていたから、競合から借りるという交渉ができた。
どれかが正解でどれかが間違いという話ではなくて、手札を見て、いちばん合う出し方を選んでいる。それだけのことが、こんなに違う形になって表に出てくるのが面白い。
次にコンビニに入ったら、レジの向こうではなく、店の隅にあるATMと、レジ台の上のポイント読み取り機を見てみてほしい。
そこに、3社の分かれ道がそのまま置いてある。
この記事が面白かったら、スキで教えてください。次に何を掘るかの参考にしています。
出典
注1:株式会社ファミリーマート ニュースリリース(2026年6月1日)「『ファミマATM』設置開始に関するお知らせ」
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2026/20260601_01.html
注2:株式会社セブン銀行「セブン銀行ATMの歩み(20周年記念コンテンツ)」
https://www.sevenbank.co.jp/corp/company/atm-history.html
注3:株式会社ローソン ニュースリリース「<ローソンATM>ジャパンネット銀行サービス開始」
https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1246579_2504.html
注4:株式会社ローソン銀行「『お客さま本位の業務運営に関する基本方針』を踏まえた取組状況について」および中間期ディスクロージャー誌
https://www.lawsonbank.jp/rules/fiduciaryduty/status/
注5:Impress Watch(2026年6月3日)「なぜファミマはセブン銀行ATMに切り替えるのか」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2113912.html
注6:日経ビジネス(2025年12月2日)「ローソン銀行、セブン・ファミマ連携に動じず 5年前比で3割増のATM利用数」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00096/112800256/
注7:KDDI株式会社 ニュースリリース(2024年2月6日)「三菱商事・KDDI・ローソン、資本業務提携契約を締結」
https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_pr_secret-79.html
注8:株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 公式FAQ「dポイントは使えますか」
https://faq.sej.co.jp/article/?knowledge_id=cidqbqkvr0h8m5o3us9g
注9:株式会社しまむら ニュースリリース(2026年3月2日)「しまむらグループアプリを『しまむらパーク』として3月10日(火)に統合リニューアル」
https://www.shimamura.gr.jp/assets-c/uploads/release20260302.pdf
※台数の合計は単純計算による概算です。資本比率・提携関係は2026年8月時点の公開情報に基づきます。

