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1996 / DESTINY 3 


1996 / DESTINY 3 


久しぶりに
仕事終わりに通っていたショットバーが頭に浮かんだ。

あの神経質そうなマスターの作った
丸い氷のオールドグランドダットがまた飲みたい。

電車に乗り、昔よく通ったショットバーに僕達は着いた。

「このお店、昔は良く来てたんだ」
と僕は深雪さんに言った。

「なんか素敵なお店ね、こういう所ってすごい久しぶり」
彼女は嬉しそうに答えた。

こうして、今日お互いに初めて会った
僕と深雪さんの要員的な夜は更けていく・・・

ここのショットバーに来たのは本当に久しぶりだった。

薄暗い店内、カウンターの後ろにある熱帯魚の水槽。
神経質そうにカクテルを作るマスター。

全てが良い意味で変わっていない、
今まで付き合ってきた女性たちの何人かは、皆この場所を
通して関わってきたように思う。

最初に来たときからもう何年も経ち、
僕自身も少しは
酒の飲み方をわかってきたつもりだった。

「さてと、飲み直そうかな」
と、彼女が笑いながら言った。

そして彼女はマスターからメニュー表を受け取っていた。

テーブルにはそっとマスターが差し出した
ハイネケンのコースターが仲良く二つ並んでいた。

僕は相変わらず、いつもここに来ると飲むお酒
オールドグランドダットをロックで注文した。

彼女はブラッディメアリーを注文していた。

「今日は付き合ってくれてありがとね」
と彼女は僕に向かって言った。

僕は首を振って答えた。

「ううん、こっちこそ、ここまで連れて来ちゃって。
いまいち知ってる場所がなくてさ、昔はここに良く来てたんだ」

「フーン、そうなんだ。さては女の子連れて来てたんでしょう?」
深雪さんは意地悪そうな笑顔で言った。

「そんなことないよ~」
僕も笑って答えた。

オーダーしたお酒が出てきて、
彼女と改めて要員的な乾杯をした。

店内では、ケニーGの音楽が流れている。
前に来てたときは知らないジャズばっかりだったが、
ニューヨークの夜景を思い起こさせるケニーGのサックスも
雰囲気には合っていた。

「今頃みんなカラオケかな。」
と僕は言った。

「うん、楽しんでるんじゃないかな?
なんか私はあのノリはもういいかな~」

「やっぱ疲れちゃう?」

彼女は言った。
「結婚するとね、旦那が出張が多いとは言っても
気持ち的には中々出れなくはなるのよ。
でもこうやって静かに飲むのもたまにはすごい いいよね」

「うん、たまにはいいね。僕もこうして飲むの久しぶりだ」

「なんで最近は飲んでなかったの?」
彼女は僕に聞いた。

まだ言葉にならない想いは、
グラスの氷よりも溶けにくかった。 彼女は何も聞かない。 でも、その視線だけで 僕の“今”をすべて見透かしている気がした。


僕はグラスの中の丸い氷を指で転がしながら
何で飲みに来てないのかを考えた。

プライベートとしては充実しているはずだった。
修行的なものを終えて今は自分の両親と共に働いている。
跡継ぎ息子として両親も僕に期待を寄せているだろう。
奈緒子も僕にはもったいないぐらいの彼女だ。

でも僕は何かに慣れていると思った。

それにより心の震えを失ってさまよっていた。
このまま行けばきっと親の跡を問題なく継いで
彼女と結婚をし、そして生きていくだろう。

それが不満か?と言えばノーだ。
むしろ問題は自分自身で、
自分が何をしたいのか?
そして何を目指したいのかが不明確だった。

僕は深雪さんに、この今日出会ったばかりの彼女に
今の現状を話した。

彼女は黙ってブラッディメアリーの入ったグラスを
両手でそっと持ちながら僕の言う事を聞いててくれた。

不思議と彼女の前では、言葉がスラスラと出た。
たぶん彼女が聞き上手なのだろう。
考えてみれば、年上の女性とこうして話すのは
初めてかもしれない。

「なんか相当、自分大好きって感じだよね」
と彼女は唐突に言った。

「え!、そうかな。。。」
僕はその言葉に頭を打ちのめされたような気がした。

「気分悪くさせたらごめん、でもそんな気持ちも
なんとなくだけど分かるよ、私にもそういう気持ちは
少なからずあるし、その気持ちをもっと前に出せばいいんじゃないの?」
と彼女は言った。

「迷う事はないと思うよ、正直に自分の人生なんだから
考えたほうがいいと思うけど、それにより傷つく人が出るかもしれない
、でもそれはしょうがない事だよね?」

「なんでだろう。。。」と僕は言った。

「え?なに?」彼女は聞いた。

「なんで、今日会ったばかりなのに、こんなに素直に話せるんだろう。。。」

「私と合うのかな?」
彼女は笑った

そして、深雪さんの笑い顔は消え、
不意に彼女は潤んだ目で僕を見つめた・・・


僕は暗い自分の部屋の中で、ベッドに寝転び薄暗い天井の
木目のようなものを見つめていた。

深雪さんとは普通に飲んでそのまま駅で別れた。

つい、数時間前に深雪さんとあのバーで飲んでいた。
そして、僕という人間を短時間であるが
彼女に鋭く観察させられた。

あまりに的確で、反論が出来なかった。
確かに僕は自分の事しか考えていなかった。

何かのせいにして、自分を正当化し悩んでいた。
何も進んでいないのに。。

奈緒子とのこともある
僕自身は一体、彼女とどうしていきたいのだろう?
何もかもが宙ぶらりんで宇宙空間にいるようだ

外を通る車のヘッドライトの明かりが
時折部屋の中を明るくした。

僕の中の全てが中途半端だ・・・

そう思いながらもまた深雪さんに会いたい僕もいる。。
僕は深いため息をついた。

続く

久しぶりのショットバー。
丸い氷が溶ける音と、
初めて会ったはずの人に
自分の奥まで見透かされていく感覚。
満たされているはずの人生で、
なぜこんなにも言葉が溢れるのか。
なぜ、今日会ったばかりの彼女の前では
こんなにも正直になれてしまうのか。
まだ名前のつかない違和感と、
静かに始まってしまった“運命の予感”。
1996 / DESTINY 3


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