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1996 / DESTINY 2

1996 / DESTINY 2

深雪さんと出会ったのは、
中学の時の後輩・阿久津君の主催した飲み会でのことだ。

それはいわゆる”合コン”と言われる類の集まりだった。
僕に彼女がいることは、彼も承知していたが、
どちらかというと 人数合わせの意味合いが強かったのだと思う。

でも今思うと、
彼なりに何かを感じて誘ってくれたのかもしれない。

飲むだけなら断る理由もなく、
僕はそのまま集まりのある居酒屋に向かった。

外は春の気配がまだわずかに残り、
夏は遠く、季節は宙ぶらりんだった。
街のネオンサインは、夏を待つように寂しく光っていた。

仕事を終えて居酒屋へ着くと、
定刻より15分遅れだったが、
集まっていたメンバーは僕を快く受け入れてくれた。

男3人(僕と彼の友人たち)、
そして女性3人。
阿久津君の勤めるショッピングセンターの別売り場の仲間らしい。

その中で、
僕の隣に座ったのが深雪さんだった。

乾杯のあと、とりとめのない会話が続く。
こんな人数で飲むのは久しぶりだった。

彼女が隣にいる以上、自然と会話は僕らに集中した。
掘りごたつ形式の座席で、
彼女の足がふと僕に触れた気がした。

「ねえ、知ってる?
 あの子、阿久津君が目当てなんだよ」

深雪さんは、そっと小声で言った。

「え、そうなんだ?」

「うん。私は今日はついて来ただけ。
 オマケみたいなもん」

彼女は少し顔をしかめて笑った。
僕はビールをひと口飲んで言った。

「俺もそうだよ。
 多分人数集め。でも、こういうの久しぶりで楽しい」

そして、
深雪さんは急に僕を見た。

「彼女はいるの?」

僕は答えに迷ったが、
隠す理由もなかった。
嘘をつくような状況でもなかった。

「うん、いるよ」

「そうなんだ。
 私、実は結婚してるの」

驚きで、僕は思わず聞き返した。

「こんなとこに飲みに来てもいいの?」

「今日は旦那が出張。
 たまには羽を伸ばしたいし。
 私も人数合わせよ」

彼女は爽やかに笑った。

僕も笑いながらグラスを傾けた。

「じゃあ要員に、乾杯」

「変な乾杯ね」
彼女は優しく肩を揺らして笑った。

気づけば、もう結構な時間が過ぎていた。
二次会はカラオケに行くという。

けれど深雪さんは帰ると言い、
僕も途中まで一緒に帰ることにした。
(電車で途中まで同じ方向らしい)

触れない距離を、並んで歩く。
肩が触れるほど近くて、 まだ手を繋ぐには遠い。
その“中途半端”が心地よかった


「カラオケ嫌い?」

「そんなことないんだけど、
 今日は別にいいかなって」

僕たちは並んで歩き、駅に着いた。
切符を買おうと、ジーンズの後ろポケットから財布を出したとき

「ねえ、今日はもう帰っちゃう?」

急にそう聞かれて、思わず言葉が詰まった。

「え? 深雪さんはどこか行くの?
 一応帰るつもりだったけど」

「ううん、そうじゃなくて……
 よかったら、もう少しどこかで飲まない?」

まだ夜は浅く、
もう少し話したいと思っていた僕には
その言葉はちょうどよかった。

「……飲もうか。僕もまだ平気だし」

自然と笑みがこぼれた。
久しぶりに、
仕事終わりに通っていたショットバーが頭に浮かんだ。

(続く)

ただの人数合わせだったはずの夜。
触れそうで触れない距離が、
もう戻れない場所へ僕を連れていった。
1996 / DESTINY 2


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