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腎不全と透析の選択肢を知った日|終末期緩和医療について考えたこと

母の腎臓が悪くなってきたとき、私は「腎不全」という言葉の本当の重さを、正直なところあまり分かっていませんでした。

「腎臓の数値が悪いな」 「塩分やカリウム、たんぱく質に気をつけなきゃ」

最初は、そんなふうに日々の食事や検査結果の数字ばかりに目を奪われていたような気がします。
でも、腎不全が進行していくと、いつか必ず向き合わなければならない、重い言葉が出てきます。それが「人工透析」です。

  • 透析をするのか、しないのか。

  • 始めたら、どこまで続けるのか。

  • 本人の体力は耐えられるのか。

  • 家族はそれを最後まで支えられるのか。

終末期に近づいてくると、医療の選択は、ただ病気を治すためだけのものではなくなってくると痛感します。
それは、「命を少しでも延ばすこと」と「苦しみを少しでも減らすこと」のあいだで、家族が何度も激しく揺れ動く時間でもありました。

今回は、腎不全が進んだときに出てくる透析の選択肢と、終末期における医療の考え方について、私自身の整理も兼ねて書いてみたいと思います。


腎不全が進むと、体に起きること

腎臓は、体の中の余分な水分や老廃物を濾過して、外に出してくれる大切な臓器です。 その働きが大きく落ちて末期腎不全に近づくと、体の中に水分や毒素がたまり、以下のような様々な症状が全身に現れ始めます。

  • 体や顔の強いむくみ、息苦しさ

  • 全身のだるさ、吐き気、食欲の低下、皮膚のかゆみ

  • 強い眠気、意識のうとうとした変化

これらを人工的に助ける方法として「透析」があります。
私も最初は、腎不全が進んだら誰もが当たり前に透析をするものだと思っていました。
しかし、調べていくうちに、終末期には「透析をしない」という選択肢や、「苦痛を減らすことを中心にした医療」があることを知りました。

ここで大切なのは、「透析をする・しない」というゼロかヒャクかの単純な話ではない、ということです。

本人の年齢、体力、認知症の有無、心不全など他の病気の状態、通院手段、そして何より「本人がこれからの時間をどう過ごしたいのか」。
それらをすべて合わせて、暮らしの視点から考えていく必要があります。


どの病院にかかっているかで、選択肢が変わってしまう不条理

ここで、どうしても家族の立場から書いておきたいことがあります。
それは、患者や家族が知ることのできる医療の選択肢が、どうしても「今かかっている病院にある環境」に左右されてしまうという不条理な現実です。

  • その病院で提供できる治療は何か

  • 主治医の先生が、どの治療に詳しいか

  • その地域に、どんな在宅医療の支援体制が整っているか

本当であれば、本人の体の状態や暮らし方、そして「最期をどう過ごしたいか」に合わせて、すべての選択肢をフラットに並べて考えるべき事です。
しかし現実には、どの病院のどの先生にかかっているかで、家族に提示される選択肢まで変わってしまうことがあります。

病院や医療者を責めたいわけではありません。
現場の先生方も、限られた環境の中で懸命に支えてくださっています。
でも、家族の立場からすると、あとから自分で調べてみて

「えっ、あの方法しかなかったわけじゃないんだ……」と知ったときの、なんとも言えない切なさは言葉になりません。
「もっと早く知っていたら、別の相談先につながれていたら」

そう悔やまないためにも、私たち家族の側から、少しだけ勇気を出して医療者に聞いてみてもいいのだと思います。

  • 「この病院でできる方法以外に、どんな選択肢がありますか?」

  • 「もし透析をしない場合、こちらではどのようなサポートが受けられますか?」

知らないまま選ぶことほど、あとになって自分を責めてしまう原因になるものはありません。


終末期の視点で見る、透析の現実的な選択肢

一般的に選択肢として挙げられる治療法を、終末期介護を担う「家族のリアルな視点」から見つめ直してみます。

1. 血液透析(病院に通う透析)

血液を一度体の外に出し、機械できれいにして戻す、最も一般的な方法です。私は透析=この方法しかないと当初思い込んでいました。

週に3回ほど病院やクリニックに通い、毎回数時間をベッドの上で過ごします。
医療者が常に管理してくれる安心感があり、多くの命を支えている素晴らしい治療です。

ただ、高齢で体力が落ちている本人の場合、この「週3回通う」ということ自体が、命を削るほどの大きな負担になることがあります。

透析の日は朝から準備をし、車椅子での移動に耐え、帰ってきたらぐったりして血圧が下がる……。
もし母がこれになったら、本当に耐えられるだろうか。

透析は「医療の選択」であると同時に、生活のすべてが透析中心になる「暮らし方の選択」なのだと思い知らされました。

2. 腹膜透析(在宅で行う透析)

お腹の中にカテーテルで透析液を入れ、自分の腹膜を使って自宅で老廃物を出す方法です。私はこの方法を知りませんでした。

通院の回数が月1〜2回程度に減るため、一見すると「家で過ごせて楽な方法」に聞こえます。
しかし、「家でできる」ということは、すなわち「家で家族が医療管理を背負う」ということの裏返しです。

カテーテルの清潔な操作、感染症の予防、トラブル時の対応。
終末期で、すでに日々の介護量が多くなっている家庭において、これを家族の手だけで担うのは、決して簡単なことではありませんが選択肢には十分入ります。

3. 保存的腎臓療法―conservative kidney management(CKM)

今回、私が知って一番救われるような気持ちになったのが、この「保存的腎臓療法」という考え方です。

高齢で加齢によって心身の機能が低下し、健康な状態と要介護状態の中間に位置する「虚弱」な状態や認知症、重い併存疾患がある場合において、生活の質の維持と苦痛の軽減を最優先する目的で選択される場合が多いと聞きました。

末期腎不全になったときに、あえて透析を選ばず、お薬や緩和ケアによって「症状を和らげること」に100%専念して過ごす治療法です。

我が家は母が90代で心不全も併発していたということもあり、この方法を取り入れました。

「透析をしない」と言うと、どうしても「治療を諦める」「見放す」「何もしない」ことのように思えてしまい、家族は激しい罪悪感に襲われます。
でも、この療法は決して何もしないわけではありません。

  • むくみや息苦しさを、お薬で限界まで和らげる

  • 吐き気やかゆみ、だるさを少しでも楽にする

  • 不安に寄り添い、家で穏やかに過ごせる環境を整える

透析で無理に命の「長さ」を延ばすことよりも、「本人の今の苦痛を減らし、その人らしい穏やかな時間を支えること」にすべての重心を置く、立派な医療なのです。

「何もしないのではなく、苦痛を取るための医療がある」と知るだけで、家族の心の守られ方はまったく変わります。

4. 緩和透析(すでに透析をしている場合の選択肢)

すでに透析を始めている方が終末期に近づき、透析のたびにぐったりして「もうしんどい」と本人が漏らすようになったとき、今まで通りの激しい透析を続けるだけが道ではありません。
透析の時間や回数、水分を引く量などを、数値を整えるためではなく「本人が楽に過ごせる範囲」へと緩めていく、緩和的な調整(緩和透析)という選択肢も、主治医や透析チームと話し合っていくことができます。


治療をやめることと、ケアをやめることは違う

段階によって、家族が考えるべきことは変わっていきます。

まだ腎機能が落ち始めた段階なら、まずはフラットにすべての選択肢を「知っておく」こと。知らないまま突然病院のベッドの上で決断を迫られるのが、家族にとって一番苦しいからです。

そして、もし「透析を見合わせる」「中止する」という非常に重い話し合いをするときが来ても、どうか自分を責めないでください。

透析をやめることと、大切な親へのケアをやめることは、イコールではありません。

人工呼吸器や透析などの機械から離れても、本人の息苦しさを取り、痛みや不安を減らし、最期までその手を握って「ひとりじゃないよ」と伝え続ける医療とケアは、形を変えてずっと続いていきます。


最後に

「終末期緩和医療」と聞くと、がんの終末期を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、腎不全にも、心不全にも、老衰や認知症にも、必ず終末期は訪れ、そこには家族の深い迷いがあります。

治療を限界まで続けることが愛情なのか。 それとも、苦しい治療を減らしてあげることこそが愛情なのか。

正解のない問いの間で、家族は何度も引き裂かれそうになります。
だからこそ、家族だけで抱え込まないでください。

主治医や看護師、訪問看護師、ケアマネジャーに、
「今、本人が一番つらそうなことは何か」
「どうしてあげるのが一番穏やかでいられるか」を、
一緒に考えてもらってください。

終末期の医療は、命をあきらめる医療ではなく、「その人の大切な最後の時間を、できるだけ苦しみなく、穏やかに支えるための医療」なのですから。

家族としてただ流されるのではなく、本人にとって一番あかるい、穏やかな道を探していくために。
私はこれからも、遠慮せずに医療の選択肢を知り、聞いていきたいと思っています。


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