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【短編ホラー集】怪忌22.底なしの沼/E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末

E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末


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22.底なしの沼

 高校二年の二学期も終わりに近づいた頃、希美たちは生物の授業の一環で行われる野外生物学実習のため、市の南部にある高里たかさと山に来ていた。いくつかの班に分かれ、山の各所で生態系の調査を行う、というものである。

 高里山は標高二百五十メートルの低山で、初心者や子どもでも気軽に登山やハイキングができる山だ。実習はお弁当持参で丸一日かけて行うので、遠足のような感覚でもある。もっとも、生物の担当がウマヅラ納豆ハゲこと白石先生であることを考えると、遊び気分ばかりでもいられないのだが。

 希美は、歩希・朱理・直人と班を組んで、ふもとから一〇分ほど登ったところにある池の周辺を調査することになった。

 高里山の登山道から逸れた場所にあるその池は、頭上を覆う木々の葉で陽の光を遮られ、昼でも薄暗い。人による手入れはほとんどされていないようで、水面の多くは落ち葉に覆われている。その隙間からわずかに見える水の色は、緑色の絵の具を水に溶かして煮詰めたような色をしていた。池というよりは『沼』と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。池の周りも雑草が生え放題で、場所によっては希美の背丈以上の草も生い茂っている。体育用のジャージを着てきてよかった。制服だったら草の葉で肌を切る可能性が高いし、池の近くで滑って転んだりしたら泥だらけになる可能性もある。

「……なんだか、死体を隠すのにちょうど良さそうだね」

 池の不気味な雰囲気を見て物騒な冗談を言ったのは朱理だ。モデル並みの美少女がジャージ姿でこんな田舎くさい山での実習を強制され、さぞかし不機嫌になっているかと思いきや、意外にも楽しそうだ。朱理はカワイイ顔してかなりのオカルトマニアで、趣味で心霊スポット巡りをしているほどだ。この場所にも何か感じるものがあるのかもしれない。

「ふもとに住む人の話によれば、『底なし沼』と言われているらしい」歩希がそう説明した。「気を付けろよ朱理。もし落ちたりしたら、二度と上がって来られないぞ?」

「ええ? なにそれ、もしかして、落ちろ、っていうフリ? うーん、どうしようかなぁ」

「いや、お笑い芸人じゃないんだから」

 なんてことを言い合いながら、朱理と歩希は楽しそうに肘でつつきあう。その様子を見て、希美も笑顔を浮かべる。もっとも、上手く笑えているのかは、自分では判らない。

「……大丈夫か、希美?」

 直人が、小声で希美に聞いた。

「へ? 大丈夫って、なにが?」

 ドキリとしたが、希美はなんでもないようにふるまう。

「いや、なんと言うか……今からでも、舞か彩愛と、班を替わってもらうか?」

 直人らしい気遣いだった。最近、急速に仲を深めている朱理と歩希。あの二人を近くで見ていることは、希美にとって拷問に近い。

 しかし希美は、「え? なんで? 別にこの班で大丈夫だよ?」と、なんでもない風を装う。「まあ、確かにちょっと怖い感じがするけど、まだ明るいし、みんなもいるから、そこまで怖くないよ」

 話を微妙に逸らした。希美が班を替わるとしても理由はそれではないし、もちろん直人も判っているだろう。

「……そうか」

 直人は、それ以上は何も言わなかった。

「──ほら、二人とも、生態調査始めるよ? サボってたら、また白石先生になに言われるかわかったもんじゃないから」

 希美が朱莉たちにそう言うと、朱理は「そうだね。じゃあ、そろそろはじめようか」と素直に従った。

 四人は二手に分かれ、それぞれ調査を始めた。もちろん、朱理と歩希、希美と直人である。朱理と歩希は、コドラートという四角い枠を地面に置いてその中にある植物の種類を記録する植生調査を、希美と直人は、池の水の水質調査と底の泥の採取を行う。池の水を汲んでph値を測り、透視度計で水の濁りを見て、ノートに記入していく。朱理たちも枠内にある植物の種類をタブレットで調べて記入している。最初の場所の調査を終えると、場所を変え、また同じ調査を行う。これを、池の周りでまんべんなく行わなければならない。

 朱理と歩希、希美と直人で、場所を変えながら調査をしていると。

「あれ? 歩希、ちょっと見て。ここ、何かある」

 四ヶ所目の調査をしていた朱理が、近くの藪を指さして言った。木とも草とも知れない植物が密集して茂ったその中に、確かに、何か見える。何本かの木の棒の上に、たくさんの石が積み重なった物のようだ。それは自然界にあるものではなく、明らかに人工的な直線と曲線を描いていた。

 朱理と歩希の二人は、協力して藪をかき分けた。出てきたのは、全体を湿った苔に覆われた木と石の塊であった。長くこの場に放置されていたのだろう、すっかり朽ち果てているが、かろうじて瓦屋根と柱と扉であることが判る。恐らく、古いほこらだ。

 朱理は目を輝かせた。「……これって、祠ってやつだよね? 土地の神様や霊なんかを祀った小さな社。え? ひょっとして、この扉明けたら、何か解放されちゃう?」

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