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【短編ホラー集】怪忌21.天啓、或いは地啓/E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末

E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末


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21.天啓、或いは地啓

「──遥ちゃんは、作文が上手だよね。夏休みの読書感想文が市のコンクールで入賞して、この前の全校朝礼で表彰されたもんね」

 汐音がそう言うと、遥はもじもじと照れくさそうにしながら、「そ……そんなことないよ、あんなの、ちょっと運が良かっただけ」と答えた。

「優子ちゃんは、英会話が得意なんだよね」汐音は続けて優子の良いところ挙げた。

 遥も「そうなの!」と頷く。「この前駅前で外国の人に話しかけられたんだけど、あたし、どう答えていいか判らなくて困ったの。そうしたら、優子ちゃんが代わりに答えてくれて、ホント助かったよ」

「えへへ。あれくらい、どうってことないけど……お母さんが、『これからは小学生でも英会話ができないとダメ』って言うから、それで、駅前の英会話スクールに通ってるの」

 優子も遥と同じように、照れくさそうに笑った。

 日曜日、近所の公園に集まった希美・汐音・遥・優子の四人は、楓が来るのを待っている間、『お互いの良いところ』についてお喋りをしていた。汐音はクラスで委員長を務めており、クラスメイトのことは誰よりも知っている。みんなの良いところを的確に挙げ、褒めるのが上手だ。

 その点を、今度は遥が褒める。「汐音ちゃんは、クラス委員長だけあって、みんなのことを良く見てるよね。成績も優秀だし、みんなの憧れだよ」

「そ……それほどのことでもないけど……」今度は汐音がもじもじする番だ。「でも、そう言ってくれると嬉しい。ありがとう」

「おーい、みんなー。お待たせー」

 公園の入口から声がした。楓が手を振りながら走って来て、みんなの輪の中に加わる。

「楓ちゃんの良いところは、流行に敏感なところかな?」着いたばかりの楓の良いところを、さっそく汐音が挙げた。

「ん? なんの話?」楓は目をぱちぱちとさせた。

「みんなで、お互いの良いところを言い合ってたんだよ」遥が答えた。「確かに、楓ちゃんはテレビや雑誌とかからいろんな情報を集めては、みんなに教えてくれるよね」

「怖い話に偏りがちなのは困っちゃうけど……」と、希美。

「希美ちゃんは怖がりだからね」汐音はそう言って小さく笑った後、「希美ちゃんは──」と、今度は希美の良いところを挙げようとする。

 しかし。

「…………」

 その後が続かない。言葉がつっかえた、と言うよりは、出すべき言葉が無いような表情だ。

「ちょっとなにそれー? まるで、あたしにいいところが無いみたいじゃない。ねえ?」

 希美は他の子たちに助けを求めるように言った。

「そ……そんなことないよ!」と遥が即座に否定した「希美ちゃんのいいところはねえ……」

「…………」

「…………」

「…………」

 代わりに遥たちが答えてくれるかと思ったら、彼女たちもまた、汐音同様に黙り込んでしまった。そのまましばらく気まずい沈黙が続いた後。

「……優しい……かな?」

 汐音がチューブの中の残り少ない歯磨き粉をひねり出すように言った。その答えに、他の子たちは「うん、そう! 優しい!」「そうだね、希美ちゃんは優しいよ」「そうそう、優しい優しい」と、全力で乗っかる。しかし、優しいという言葉だけで、具体的な例は上がらない。なんだかとてもビミョーな空気に、希美はただ苦笑いするだけだった。

「ところでさ、昨日のテレビ観た? 『ほん怖話』?」

 楓が微妙な空気を入れ替えるようにテンション高めに言うと、汐音たちは「観た観た!」「とっても怖かったよね」「そう! 特に、あの『丑の刻参り』の話!」「そうそう! あれが一番怖かったよね!」と、こちらも全力で乗っかろうとする。話をはぐらかそうとしているようにも思えるが、これ以上ビミョー空気が続くのは希美的にも苦痛でしかないので、「あたしも観たよ! とっても怖かった!」と、みんなに話を合わせた。

『ほん怖話』こと、『ほんとにあったかもしれへん怖い話、いやしらんけど』は、視聴者が体験した怖い話をドラマ化した心霊番組だ。怖い話が大好きな楓の一番のお気に入りで、放送があった翌日は概ねこの話題で盛り上がる。昨日は心霊ドラマが五本放送されたが、その中でも一番怖かったのが、みんなの言う通り『丑の刻参り』に関する話だ。

 深夜、若い男女が神社で肝試しをしていたら、ご神木がある広場から、カンッ……カンッ……と、何かを叩くような音が聞こえてきた。恐る恐るその広場へ行ってみると、白装束を着て頭にろうそくを三本立てた格好の女が、ご神木に藁人形を押し付け、ハンマーで釘を打ちつけていた。驚いて悲鳴を上げると、女はこちらに気づき、奇声をあげながらハンマーを振り上げて襲ってきた。なんとか家に逃げ帰ったものの、夜が明けて以降も女は何度も表れ、執拗に襲ってくる……という話である。

「『丑の刻参り』は、やってる姿を他の人に見られると、その呪いが自分に跳ね返ってくる、って言われてるからね」と、汐音が説明した。

「それを防ぐには、見た人を殺すしかないんだよ」楓が説明を引き取り、物騒なことを言った。「だから、あの女の人はあんなに執念深く追いかけてたんだね」

 二人の話を聞き、希美は昨日のドラマのシーンを思い出して身震いをした。主人公をつけ狙う女性の姿は、女優の怪演ぶりもあり、ツブヤイターなどのSNSでも大きな話題となったようだ。

「そういえば希美ちゃん、この前、蛭子神社のご神木の枝を拾ってお守りにした、って話してたよね?」

 楓が思い出したように訊いた。「うん、そうなの」と、希美は頷く。少し前の秋祭りの日、希美は母親に連れられ、妹の乃愛と一緒に、蛭子神社の社殿の裏山にあるご神木の広場に行った。そこで落ちていたご神木の枝を拾って、母にお守りにしてもらったのだ。そのお守りは大切に持ち歩いており、今も首から下げて上着の下にある。

「蛭子神社にご神木なんてあったんだね、知らなかった」

 遥が言い、他のみんなも頷く。蛭子神社の社殿の裏にご神木があることは、どういうわけかみんなに知られていない。あの日はお祭りで境内は大賑わいだったのに、ご神木がある広場は希美たち以外誰もいなかった。

「ねえねえ、今からそのご神木、見に行ってみない? もしかしたら、呪いの藁人形があるかもよ?」

 楓が目をキラキラ輝かせながら提案した。

「ええ? もし本当にあったら、どうする?」

 遥と優子は怖さよりも好奇心が勝ったような表情で言う。先日希美が枝を拾った日にはそんなものは無かったが、昨日のテレビの影響でマネをした人がいてもおかしくはない。

「でも、その儀式をやってる人と会っちゃったら、襲われるんでしょ? やめようよ」

 希美はそんな怖い目に遭いたくないので、できれば行きたくはない。助けを求めるように汐音を見た。ところが。

「そこは大丈夫なんじゃないかな? 丑の刻参りは、丑の刻、今の時間で言えば夜中の二時ごろにやらないと効果が無いの。だから、明るい時間なら、大丈夫だよ」

 意外にも、汐音はそんなことを言う。彼女の性格からいって真っ先に反対すると思ったが、意外とノリノリだ。真面目な汐音は、子どもたちだけで遠くへ行ったり誰も住んでない家などに勝手に入ろうとすると絶対に反対するのだが、蛭子神社なら近所だし立ち入りも禁止されていないので、行くのは別に構わないと思っているのかもしれない。

「よし、じゃあ、暗くなる前に、行ってみよー」

 楓がそう言い、行くことが決まってしまった。希美は仕方なく、みんなを案内することにした。

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