【短編ホラー集】怪忌17.深夜のドライブ2/E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末
E地方・伊吹市で発生した33の怪忌とその結末
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17.深夜のドライブ2
《百瀬桃子の、ハートウォーミング怪談ナイト!》
カーラジオからハイテンションなタイトルコールが流れた。〇時の時報が鳴り、日付が変わると同時に始まったのは、毎週金曜の深夜に放送している怪談を題材にしたラジオ番組だ。オカルトマニアの朱理はこの放送を毎週楽しみにしているそうで、深夜のドライブ中に聞くのにピッタリと、カーラジオをつけたのである。
「さっき怖い目に遭ったばかりなのに、わざわざこんなの聞かなくても」
希美は半分呆れた顔で車を走らせる。大学卒業を間近に控え、久しぶりに親友の朱理を呼び出して深夜のドライブへと繰り出した希美。少し前、国道を逸れて暗く寂しい山道を走行していたら、突然後方から大きな鎌を持った死神が追いかけてきたのだ。希美の機転でどうにかやり過ごしたものの、ひとつ間違うと命を落としていたかもしれない状況だった。
希美も朱理も、高校時代からこういった怪異を何度も経験している。怖い話をすると幽霊が引き寄せられる、というのはよく聞く話なので、希美としては夜中にこんなラジオ番組聴かなくても、と思ってしまうのである。
「これを聞かないと一週間が終わらないの。希美も一度聴いたら、絶対ハマるから」
自信満々の表情で勧めてくる朱理。どうやら彼女の推し番組のようである。仕方ないなぁ、と思いながら、希美も聴いてみることにした。
番組はリスナーから届いた怪談話を紹介するスタイルのようだ。女性パーソナリティがオープニングトークを終え、メインのコーナーが始まった。
《今夜もたくさんのメールが届いてます、ありがとうございます。ではいってみましょう。今夜の第一話は、E地方伊吹市にお住いのA&Nさんから届いたお話。お? 出ました伊吹市。いまオカルトマニア大注目の心霊都市ですね》
心霊都市なんて言われてるのかこの町は……と、希美は苦笑いをする。確かにこの町では怪異が多く、希美も何度も怖い目に遭った。一部ネットのオカルトマニアの間で話題になっているのは知っていたが、全国放送のラジオ番組にまで名を馳せているとは。
《これは、ついさっき起こった出来事です》
パーソナリティはメールを読み始めた。
☆
これは、ついさっき起こった出来事です。
大学卒業を間近に控え、あたしは高校からの親友であるAちゃんを呼び出し、深夜にドライブをしていました。高校時代の思い出話とかをしながら、国道を逸れて山道を走っていると、後ろから、真っ黒なローブをかぶって大きな鎌を振り上げた骸骨が、走って追いかけてきたのです。その姿は死神そのもの。車は時速四〇キロで走っているのに、死神はどんどん迫ってきます。
☆
「え? なにコレ? さっきのあたしたちと同じじゃん」
話を聞きながら、朱理がどこかおかしそうな声で言った。「そうだね」と、希美は頷く。E地方の伊吹市、深夜のドライブ、寂しい山道、追いかけてくる死神、ついさっき希美たちが経験したことと同じである。
「あの道、同じ経験をした人が、何人もいるのかもね」
希美がそういうと、朱理は「そうかも」と頷いた。
☆
助手席のAちゃんは、追いかけてくる死神の姿に完全に怯えきってしまい、「早く逃げて! 早く逃げて!」と何度も言います。
あたしは気が散って運転に集中できず、思わず「うるさい!」と言って車を停め、Aちゃんの頭を持ってダッシュボードに叩きつけました。
Aちゃんは「痛い! なにするの!」と、またうるさく騒ぐので、「黙れ! 黙れ!」と言って何度も叩きつけました。なのにAちゃんは「痛い! やめて! 痛い!」と、さらにうるさく騒ぎます。だからあたしも、「黙れ! 黙れぇ!!」と、何度も何度も叩きつけました。
そしたらAちゃんの頭が割れて、血が出てフロントガラスやシートに飛び散ってしまいました。車は昨日掃除したばかりなのにもう汚れてしまい、腹が立ったあたしは、持っていたナイフでAちゃんのお腹を刺しました。
そしたらまた血が出てシートが汚れたので、ますます腹が立ち、一度ナイフを抜き、またお腹に刺しました。また血が出て汚れたので、さらに引き抜いて刺しました。
何度も何度も滅多刺しにしていると、Aちゃんはようやく静かになったのですが、今度は血だけでなく、小腸か大腸かよく判りませんがとにかくはらわたみたいなのがずるずるっと出てきました。あまりに汚らしいので、あたしはドアを開けてAちゃんを放り出しました。
邪魔者がいなくなり、あたしはドライブを再開したのですが、山を下りて国道に戻ったところで運悪く警察の検問に捕まってしまいました。警察は「フロントガラスの赤い液体は何?」としつこく訊いてきます。あまりにしつこいのであたしは車を降りて警察官をナイフで滅多刺しにし、車に戻って検問を強行突破しました。
すると、なぜか何台ものパトカーがあたしの車を追いかけてきたのです。ウーウーとサイレンを鳴らしてとてもうるさく、運転に集中できません。あたしは両耳を抑えて音に耐えようとしたのですが、それだとハンドルを持つことができず、そのまま正面の民家に突っ込んでしまいました。幸いあたしにケガはありませんでしたが、せっかく親に買ってもらった車がぐちゃぐちゃです。
あたしは腹が立って家の人に文句のひとつも言ってやらないと気が済まなかったので、車を降り、ちょうど騒ぎを聞いて玄関から出て来た父親をナイフで滅多刺しにして家に侵入し、母親も見つけてこれも滅多刺しにして殺しました。
そうしたら何故かあたしは立て籠もり犯ということになり、家は警察に包囲され、大きな騒ぎになってしまいました。警察は拡声器で「人質を解放して出てきなさい!」と言っているのですが、人質も何も家にいた二人の幼い子どもは母親のついでに滅多刺しにしてもう殺したので解放なんてできません。
そこで百瀬さんに質問なのですが、この場合車の修理費用は警察に負担してもらえるのでしょうか?
車は親に買ってもらったので親が修理費用を負担すべきだと思うのですが、親は家を出るとき「こんな時間にどこに行くんだ」と言ってきてうるさかったので滅多刺しにしていま車のトランクの中にいるのであまり期待できません。こんなことならAちゃんと一緒に山の中に捨ててくれば良かったと、ちょっと後悔しています。
☆
《……えーっと、そうですね。とりあえず、リスナーの皆さんの中に親友と深夜のドライブをしている方がいたら、ケンカにならないよう充分ご注意ください。それでは今夜の一曲目──》
メールを読み終えた女性パーソナリティが戸惑い口調で言った後、ラジオからは怪談番組に似つかわしくない軽快なポップス曲が流れはじめた。
「何? 今の話。結局何が言いたかったの?」
呆れたような声で言う朱理に、希美は「さあ?」と首を傾げた後「深夜のドライブは要注意、ってことじゃない?」と言った。一瞬の沈黙の後、二人で苦笑いをする。
「まあ、ちょっと前に朱理が話してた『死ねばよかったのに』の話と同じで、今のも何年か前に流行った怖い話のひとつか、その派生バージョンじゃないかな」と、希美は続けた。
「あー、確かにね。そう言われたら、なんか聞いたことあるかも」
「懐かしいよね。昔は、歩希たちとこういう怪談話をして、楽しんでいたよ。でも、いつの間にかぎくしゃくするようになって、みんなで会うこともなくなっちゃった」
小さくため息をつく希美。歩希をはじめ、幼馴染の楓、裕太、汐音たちとは、怖い話をしたり、実際に心霊スポットに行ってみたりもした。そのたびに何度も怖い目にあったが、今思い返すと、やはりそれは楽しい思い出である。しかし、中学卒業後は少しずつ会うことが減っていき、今ではすっかり疎遠になってしまった。
「そうなんだ」と朱理は頷いた。「何か、仲が悪くなるようなきっかけがあったの?」
「あったわよ。え? 朱理、まさか知らないの?」
「え? 知らなーい。何々? 何があったの?」
朱理は、興味津々といった声で訊いてくる。
「それはね──」
希美はもったいぶった声でそう言った後。
ハンドルを握り、アクセルを踏み込んだまま、助手席の朱理に顔を向けた。
「お前が転校してきたからだよ」
これまで腹の奥にため込んできたものをすべて吐き出すような低い声で、そう言った。
そして、それまでの楽しい気な空気を全て凍りつかせる冷たい目で、朱理を見つめる。
「…………」
朱理も表情が変わる。つまらない話に退屈しているような、どうでもいい話にうんざりしているような、そんな表情。
二人はそのまま無言で見つめ合う。どちらも視線を逸らさない。カーラジオからは場違いなポップスが流れ続け、車は走り続ける。
しばらくして。
「──前を見て運転してくれる?」
朱理は前を指さして笑みを浮かべた。彼女が転校して来たときに見せた、モデルのような爽やかな笑顔。
希美は構わず、朱理を冷たい目で見つめ続ける。
ふたりの深夜のドライブは続く──。
