2024年11月3日(日)|パスタ屋での逡巡と、かすめる影
11:00 昨日までの重苦しい空気とは対照的に、外は清々しいほどの晴天に恵まれていた。 昨夕、家庭教師の洋平君のあの電話を盗み聞きしてしまって以来、私の頭は真っ白になったままだ。
だが、私は美嘉にそのことを詰問できずにいる。 『もし違っていたら』『真相を知るのが恐ろしい』という恐怖と、長年築いてきた夫婦の平穏な日常に自ら波風を立てたくないという心理が、強くブレーキをかけていた。
今日の午後は、娘の葵が所属する吹奏楽部の演奏会へ美嘉と二人で出かける予定になっている。 家で昼食を済ませても良かったのだが、気分を変えたくて、最近近所にオープンしたパスタ屋へ美嘉を誘ってみた。
『お昼、あそこにある新しいパスタ屋に行ってみないか?』
『いいわね、行きましょう! 近所でも美味しいって評判になっていたから気になっていたの』
美嘉はいつもの明るい笑顔で、すぐに快諾した。
店内に入り、運ばれてきたパスタをつつきながら、たわいもない夫婦の会話を交わす。 目の前で美味しそうに食事を楽しむ美嘉を見つめながら、何度も「あの件」を切り出そうと喉まで言葉が込み上げたが、どうしても口に出せなかった。そもそも、どう切り出せばいいのかすら分からなかった。
――その時、ふと頭の中に三尾玲の顔がよぎった。
そうだ……来週はちょうど東京出張が入っている。 久しぶりに彼女をご飯にでも誘って、この胸のつかえを少し相談してみようか。
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☕ 筆者のあとがき
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は衝撃の昨日から一転、秋晴れの中での静かな日常と主人公の苦悩を描いた11月3日の日記です。 目の前で無邪気にパスタを食べる妻・美嘉。 問い詰めたいけれど、今の平和が崩れるのが怖くて口に出せない歯がゆさ……このリアルな葛藤に共感していただける方も多いのではないでしょうか。
そして、主人公の頭の中に浮かんだ「三尾玲」の存在。 「妻の疑惑」と「過去の女への相談」。夫婦の歪みが、少しずつ別の方向へと動き始めようとしています。 嵐の前の静けさのようなこの1話、楽しんでいただけましたら「スキ」やコメントで感想を教えていただけると嬉しいです!
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