ヴァータちゃんは、生き急ぐ ── ドーシャのはなし・風のひと
※この「ドーシャのはなし」は、連載でしれっと使ってきた「ヴァータ」「ピッタ」「カパ」を、一人ずつ、ゆっくり紹介していくシリーズです。
90日実験の入り口として。
※アーユルヴェーダを知らない人にこそ読んでほしい連載です。カタカナは意味を都度そえるので、わからなければ飛ばして、気楽にどうぞ。
これまでの記事で、わたし、しれっと「ヴァータが増える」とか「カパ体質のわたし」とか、書いてきました。
でも、ちゃんと説明したこと、なかったなあ、と。
アーユルヴェーダには、ドーシャという考え方があります。
古代の人たちは、この世界のあらゆるものが、五つの要素(空・風・火・水・地)からできている、と考えました。
わたしたちの体も、その一部。
そして、その要素が組み合わさって、体と心を動かす三つの力になる。
それが、ドーシャです。
ヴァータ(風)── 空と風からできた、「動き」の力。
呼吸も、血のめぐりも、考えることも、ぜんぶ動かしている。
ピッタ(火)── 火の力。
食べたものを消化したり、物事を判断したり、「変化させる・燃やす」はたらき。
カパ(水・土)── 水と地の力。
体をかたちづくり、潤いをたもち、「支える・つなぎとめる」もの。
おもしろいのは、この三つの要素、誰の中にも、全部あるということ。
ないと、生きていけません。
ただ、生まれ持った配合が、人によって違うんです。
ヴァータが多めの人、ピッタが強い人、カパがどっしりの人。
だから、性質も、体つきも、かかりやすい不調も、人それぞれ。
そして、この配合は、季節や年齢や、その日の体調で、ゆらぎます。
三つのバランスが取れていると、心も体も健やか。
どれかが増えすぎたり乱れたりすると、調子が崩れる。
アーユルヴェーダの養生は、ざっくり言えば、この「増えすぎたものを、そっと戻す」こと。
(ちなみに、この連載でよく出てくる「アグニ」は消化の火、「アーマ」は消化しきれずに溜まった未消化のもの。
これも、ドーシャと深くつながっています。おいおい、ゆっくり。)
で、わたし、このドーシャという考え方が、すごく愛おしいんです。
人間を、こんなふうに、あたたかい目で見て、ここまで丁寧に体系立てた人たちがいたんだなあ、って。
それと、もうひとつ。
ドーシャには、二つの面があります。
体に出る面(体つき、かかりやすい不調、整え方)と、心に出る面(どんな性質の人になるか)。
どちらも、おなじひとつのドーシャ。
消化するのも、考えることも、おなじヴァータの「動き」が働いている、みたいに。
だから、体の話も、心の話も、どっちも書きたいんだけど、いっぺんに詰め込むと、ぎゅうぎゅうになる。
なので、体のほう(不調や整え方)は、また別の回で。
今日書きたいのは、心に出る面。
ヴァータの人って、どんな人だろう、というおはなしです。
いきなり全部まとめて説明するんじゃなくて、一人ずつ、紹介させてください。
今日は、ヴァータちゃんから。
クラスにいたよね、あのお調子者
ヴァータは、風の性質です。
軽くて、動いて、乾いていて、冷たくて、変わりやすい。
……と、いきなり言われても、ピンときませんよね。なので、こう考えてみてください。
小学生の頃、クラスにいませんでしたか。
お調子者で、人気者の、あの子。
流行りものが大好きで、新しいものはいち早く持ってる。
誰とでも、あっという間に打ち解けちゃう。
そそっかしくて、忘れ物も多いけど、なんだか憎めない。──あの子です。
あれが、ヴァータ。
軽やかで、動きが速くて、いろんなところに広がっていく。まさに、風。
頭の中は、いつも高速回転
あの子の、たまにきずは、熱しやすく冷めやすいところ。
でも、それって、頭の中にいつも新しいアイデアが生まれてくるからなんです。発想力も、ひらめきも、ピカイチ。
次から次へと、面白いことを思いつく。
そのかわり、昔のことは、すぐ忘れちゃう。
感情も、風のように移ろって、さっきまでニコニコしてたと思ったら、もうプンプンしてる。
これ、いい加減なんじゃなくて、頭の中が、いつも高速で回りすぎているから、なんですよね。
考えて、考えて、考えすぎてしまう。
だから、すぐに疲れる。
だから、すぐに気持ちが変わる。
だから、疲れやすい
頭がずっと全開だから、ヴァータちゃんは、とにかく疲れやすい。
いろいろ考えすぎて、不安になったり。
エネルギーを使いすぎて、痩せちゃったり。
動きすぎて、あちこち体が痛くなったり。
一生懸命、生き急いでしまう。
それが、ヴァータちゃん。
……なんだか、愛おしくなりませんか。わたしは、なります。
風が、吹きすぎると
ヴァータは、誰の中にもある力です。
フットワークの軽さも、ひらめきも、切り替えの早さも、ぜんぶヴァータのおかげ。ないと困る。
でも、この風が、吹きすぎると、乱れます。
そわそわして落ち着かない。
眠りが浅い。冷える。乾く(お肌も、腸も。だから便秘にも)。不安になる。──風が強い日の、あの落ち着かなさを、体の中でやってる感じ、と言えばいいでしょうか。
秋や、風の強い季節。旅や、引っ越し。忙しくてバタバタしているとき。
不規則な生活。そういうときに、ヴァータは増えやすいと言われています。
ヴァータを整えるのは、その逆
風が乱れたら、どうするか。答えはシンプルで、風の「逆」をやればいい。
軽い → 重く(ちゃんと食べる)。乾く → 潤す(あたたかい汁もの、良い油)。冷たい → 温める(白湯、湯船、アビヤンガ)。動きすぎ → ゆっくり、規則正しく。
そう、これ、この連載でずっと書いてきたことと、まるっきり同じなんです。白湯も、オイルのケアも、早寝も、ぜんぶ「増えた風を鎮める」ための養生でもある。
あのお調子者に「毎日おなじ時間に寝て、あたたかいものを食べて、ゆっくりしなさい」って言っても、たぶん、難しいですよね(笑)。
じっとしてるの、苦手そうだもの。でも、だからこそ、効く。
ヴァータちゃんにいちばん必要なのは、「落ち着ける、いつもの時間」なのかもしれません。
「あなたはヴァータね」と、決めつけないで
最後に、大事なこと。
ここまで読んで、「わたし、ヴァータかも」「あの人、まさにこれ」と思ったかもしれません。それは、それでいい。
でも、「わたしはヴァータだ」と自分で決めつけないでほしいんです。
ドーシャは三つとも、誰の中にもあります。
割合も、季節や年齢や、その日の体調で、ゆらぎます。
ほんとうの体質は、専門家がていねいに診てくれるもの。
ここに書いたのは、あくまで「性質のイメージ」です。
それでも、こうやって知っておくと、自分や、大事な人が、ちょっと愛おしく見えてくる。
そして、もし──あなた自身が、その風なら。
生き急いでしまうことも、忘れっぽいことも、気持ちがころころ変わることも、責めないであげてください。
それは、いい加減なんじゃない。
頭のなかが、いつも新しいことでいっぱいで、誰よりも軽やかに、次へ行ける、ということ。
あなたが動くから、まわりが、明るくなる。
あなたが思いつくから、止まってた場所が、動きだす。
ヴァータで、よかった。──そう、思ってほしいんです。
一生懸命、生き急いでしまうヴァータちゃん。
もし、あなたの中にも、あの子がいたら。
たまには風を止めて、あたたかいものでも飲んでゆっくりゆっくりさせてあげてください。
次は、ピッタの話を。
90日間のアーユルヴェーダ実験、本編はこちら。
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