Hameln 7
ニ月の日暮れは早く、午後も三時を過ぎればなんとなく日暮れが近い雰囲気になってくる。
こども達がいつものブランコ公園でそれぞれの小さなグループ同士、遊具で遊んでいた。
紗綾と望、明比と凛の四人組はいつもブランコから少し離れた滑り台の辺りで遊んでいた。
少し高い滑り台は、公園の左奥にあり滑り台の前にはもぐら山。
その斜め前には大きな砂場があり公園の入り口にあたる小さな柵の前にベンチがふたつ並んでいた。
本当はブランコで遊びたかったけれど大きいお兄ちゃんやお姉ちゃんが遊んでいたのでなかなかそばに行って「貸して」と言えない四人だった。
明比が紗綾に耳打ちした。
「さあちゃん、あの子。」
指は差さず、目だけでそちらの方向を見る。紗綾もすぐに気がついた。
去年の終わりだか、今年の初めだかから公園に来なくなった男の子が入り口近くのベンチに腰掛けてその辺の棒キレで蟻の巣をつついていた。
「また、来るようになったんだね。」
紗綾は男の子から目を離さないで明比に言った。
明比は小さくうなづいて、
「あの子、春から新一年生なんだって。」
紗綾は明比の母親から以前聞いた、「今の通学班の班長さんの春乃ちゃん」の弟は、この男の子なのかと合点がいった。
明比は男の子をじっと見つめて
「なんか、恐い。あの子。」
つぶやいた。
公園にいる子供達は皆上着を着て手袋をして完全防備で遊んでいるのに、ぶかぶかの長袖のTシャツ一枚で下はパジャマみたいな薄手のスウェットだ。靴下だってよくみれば短いし痩せっぽちで、大きい子に突き飛ばされたら折れちゃいそうな細い腕。目だけはギラギラと輝いてニタニタと笑う顔は恐いというよりは薄気味悪い。
以前来ていた時よりさらに痩せたような気もする。
明比と凛、望の三人はすぐに男の子から意識を反らし砂場へ移動するとしゃがみこみ砂山を作り始めた。紗綾はやはりその男の子から目を離すことが出来ず滑り台のてっぺんから男の子をじっと見ていた。
男の子は不意に棒キレを遠くに放った。顔は紗綾達の居る滑り台とは反対側の、ブランコ側の入り口方向に向いている。
ブランコで遊ぶ大きい子達を見ているのかと思ったがどうやら違うようだ。
何かを目で追っていて、視線がだんだん男の子の居るベンチへ戻って来る。
男の子が目で追うものはなんだかよくわからない。けれど小さいものだというのはわかる。しゃがみこみ腕を出し何かを呼ぶように手のひらを見せている。
紗綾は男の子の手のひらの先に、子犬か子猫が居るのではないかと滑り台の上から更に背伸びをして見てみたが何も居らず、相変わらず男の子はニタニタしながら手のひらを見せている。
どこかで猫が鳴いた、ような気がした。
それは男の子の仕草から聞こえた幻聴だったかもしれない。
「ほら、ねこ、ねこ。
昨日の晩はありがとうな。」
冬馬は黒いこねこがまっすぐに自分に向かって歩いて来るのを見て、夕べ一緒にもぐら山で寝たねこだとすぐに気がついた。
「ニャーン。」
うまいこと大きな子達の間をすり抜け黒ねこはちょこんと座り込み、顔を洗いそれから冬馬の顔を覗きこんだ。
まるで
「どこかケガはない?」
と覗き込む母さんのような顔だった。
「何、覗いてんだよ。」
ねこをつついた。
「ニャーン。」それならいい。とねこは冬馬の足元でゴロゴロと喉を鳴らしひっくり返ってじゃれてきた。
ベンチのうしろに生えていた猫じゃらしの穂の部分を引っこ抜き遊んでいるねこをからかうようにぶらぶらと揺らし、ねこが真剣に「猫じゃらし狩り」をするのを笑いながら見ていた。
「かわいいなあ。おまえ。」
その言葉にねこは耳をピクっと反応を示し仰向けになっていた体を俊敏に起こすと冬馬の横にぴたりと座った。
「おまえ、言葉がわかるのか?」
「ニャーン。」
返事をした。
偶然か?
冬馬は小さくねこに言った。
「はい。なら一回、
いいえ。なら二回、鳴いてくれよ。」
「ニャーン。」
「おまえの色は黒か?」
「ニャーン。」
「おまえ、ねこか?」
「ニャーン。」
「ぼくを知ってるの?」
「ニャーン。」
「ほんとは一度しか鳴けないんだろ?」
「ニャ、ニャン!」
二回鳴いた。
偶然かも。
まさかほんとに答えてるの?
「おまえ、犬だよな?」
「ニャ、ニャン!」
「やっぱりねこか。」
「ニャーン。」
「言葉がわかるのか?」
「ニャーン。」
会話が成立している。
はい。なら一回
いいえ。なら二回
紗綾は滑り台の上から全てを見ようと、男の子を観察していた。
ベンチのうしろのねこじゃらしを一本引っこ抜き、まるで目の前に猫がいるようにうれしそうに何かぶつぶつと話している。
何も居ないのに。
あの子、一人なのに。
なんだか本当に気味が悪くなり紗綾は滑り台を一撃に滑り降りると明比と凛と望がいる砂場へ走り合流した。
あの子やっぱりおかしい。
一緒の通学班は嫌だな。なんか気味が悪いもの。班長さん選び、どうしよう。
もしも私になっちゃったら。
新一年生は班長さんのすぐうしろを歩くことになっている。
班長さんはその子の歩調にあわせて歩く。つまりは一蓮托生だ。
やだな。
紗綾は本当にそう思った。
Hameln 7
つづく
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