夜のブランコ 14
みんなで決めようと話していた授業参観の科目は、誘導したわけではないが紘子が思っていたように「習字」に決まった。
夏実が議事進行し、亘理くんが板書をした。
紘子はまず、授業参観の科目は算数や国語でなくともかまわないということ。
そしてやりたい授業というよりも、父兄に見て欲しいと思う授業にしたほうがいい。
と、伝えた。
そして、椅子を持ってきて窓際に置き自分は夏実の議事進行を黙って見守った。
一時間目の国語の授業が皆楽しかったのか、みすゞのほかの詩を探して来て読んでみよう。
という面白い案が最初に上がった。
これはやったほうが楽しいのでもしも案が漏れても通常授業でやろうと紘子は思った。
意外に誰も算数と言い出す子どもが居なかった。三年生になって少し難しくなった算数は、もう少しあとでもいいだろうと思ったのだろうか。
圧倒的人気だったのは、図工と習字だった。
黒板に亘理くんの文字が
国語
図工
習字
とならんで、どれにするか決めかねていたので紘子はひとつ提案した。
「多数決ってどう?」
夏実がうなづいて、みんなに問うた。
「多数決をとりたいと思います。少し考えてください。」
ざわざわした中で、夏実が紘子のところへやってきて「わたしも手を上げていいんですか?」と聞いて来た。
か、かわいい。
紘子はにこにこしながら、夏実も亘理くんも手を上げて数にいれるように指示を出した。このクラスは夏実と亘理くんも居て22人だ。
「国語がいいと思う人!」
六人
「図工がいいと思って人!」
七人
「習字がいいと思う人!」
七人
紘子が立ち上がり、司会の二人はまだ手をあげていないことを言うと夏実も、亘理くんも「習字がいい。」と答えた。
紘子は拍手して、
「上手な議事進行でした。二人ともおつかれさま。席に戻って。」
と二人を労い、あとを続けた。
「国語がいいと言う人も、図工がいいと言った人も、習字になりましたがどうですか?」
国語と図工に手をあげた13人に問いかけた。
子どもたちは少し考えていたが、彼方が立ち上がり「おいら、図工にあげたけど習字の時間も楽しいから習字でもいい!」と言うと、ほかの子どもたちも「習字がいい!」と声を揃えた。
「はい。それじゃ、習字にしましょう。お道具忘れずに持ってくるようにしてくださいね!」
紘子は黒板に亘理くんが書いた
「習字」
の文字に大きく丸を付け、脇に書いてあるほかの文字を黒板消しで消していった。
金曜日。
給食が終わり昼休憩、掃除の時間が終わるとだいたい二時近くだ。
早い父兄は掃除の時間中頃で学校を訪れる。
この日もボツボツと各学年、各クラスの父兄が各々スリッパを持ち昇降口に集まってきた。
廊下を掃除している生徒が「こんにちは」とあいさつしたり、見知った顔の父兄が来ると同級生を呼びに行ったりと、掃除の時間が賑やかになった。
いっちょまえに、廊下で待つ父兄と立ち話をする生徒もいる。
五時間目の鐘がなる前に紘子は子どもたちに掃除をやめるように言い、机の上に習字の準備をするように伝えた。
ほぼ用意が終わったところで、父兄を教室に招き入れ
「お忙しい中、時間を作って頂きありがとうございます。」
と、あいさつした。
開始の鐘が鳴る。
「今日は、三年生になって初めての参観日です。科目は習字となりました。これもまた生徒が進んで話し合い決めた科目です。お子さまの成長を少しでも感じられるようあたたかい目でご覧下さい。」
紘子は習字の時間、何を書かせようか考えた。
自分の名前はどうだろうか?
習字をするようになったら、必ず自分の作品の脇に自分の名前を入れる。
名前は必須だ。
まだ、自分の名前の漢字を習っていない子どももいるが「ひらがな」でも良い。
ひらがなは筆の運びがやわらかいし、まあ間違えることもないだろう。
半紙に大きく自分の名前を書く。
とても楽しそうだ。
「さあ、始めますよ。日直さん、お願いします。」
起立し、父兄を振り返り、皆で言おうと決めていたあいさつを日直さんが言った。
「今日は僕たちの勉強をゆっくり見てください!」
ペコッと頭を下げる生徒の様子を、父兄は微笑みながら眺めた。
つづく
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