Hameln 11
「どう、思います?上に上げますか?」
運転している若い方の警官が、横に座るもうすぐ定年になる年齢の先輩警官に聞いた。
「捜査に関わることは上げた方がいい。
あの男の子の無事を早く確認してやらなけりゃ。」
「そうっスよね。」
一方方向に片寄っていては正しい道には到底行かれないのだ。
あの親子に、もしも虐待の兆候があったのだとしたら去年県西で起きた女の子の行方不明の事件と共通点が一つできる。
何気なく調査しなければ。
もう一人あの子の姉が居る。
あの子も同じ思いをしていないか、そっちが最優先だ。
駅前の交番が所属しているのは青葉署だ。不明事件の管轄も青葉署になる。派出所の警官は報告書を青葉署に提出した。
男の子が虐待を受けていたかもしれないと上がってきた報告書に目を通し署員は同期生の梶原新を思い出した。
どこか別の署に異動していなければまだ隣の藤野川署に勤務しているはずだ。
家も近い。
新を思い出したのには訳があった。
まっすぐで、曲がったことの嫌いな梶原新を警察学校の同期生で木島嵩は一番信用していた。
梶原新は信用に値する男だ。
その生い立ちからきっと虐待に対する考えもあるだろうと連絡を取ろうと思った。来週頭から県警も出歯ってくる。
本部は県西で起きた不明事件の所轄に設置してあるが関係性の有無を確認するために何人かの捜査員がやってくると言う。それまでには子どもの所在はもちろんのこと、それが叶わなくても何かしらの接点や釣果をあげなければ「何をしていたのだ」と上から何かが飛んできそうなくらい県警は躍起になっている。
マスコミへの対応も含め、管轄内は少ない人数で必死に捜査していた。
「藤野川から応援を頼みましょうよ。
もうすぐ居なくなって丸4日です。
まだ寒いし、早く見つけてやらないと。」
木島は上司に行った。
こんな田舎の小さな町で、子どもの不明事件なんて滅多に起こることではない。
何十年か前に起きたと言う不明事件は話題になったが全て解決して、当事者は木島があてにしている梶原新と結婚している。
一日でも、一時間でも、一分でも早く、その居なくなった小林冬馬という男の子を探してやらなければ。
木島から家に電話があったとき最初に出たのは琉衣だった。
琉衣の産みの母親、環の家の後ろにある小さな教会で結婚式を上げた時、木島はめかしこんで出席してくれた。琉衣もそれを覚えていたようで
「お久しぶりです。今変わりますのでお待ちください。」
と、何か予感めいたものがあったのか丁寧な口調で新に電話を変わった。
新は相手の電話に小さく相づちを打ったり、時々感嘆符を打ちながら最後に「わかった。週末に。」と一言言って電話を切った。
「週末午後、木島がくるよ。」
琉衣に言った。
そして、今日がその週末だった。
ここで良いのか、と聞いたが「ここがいいんだ」と木島は言った。
「意見を聞きたいんだ。おまえと、おまえの奥さんに。」
子ども達に会ってみたい。
興味本位ではなく、上がってきた報告を自分がどう受け取けとっているか確認したかった。実際の子ども達に会って話をしたみたいと言っていた。
「何がいいか、迷ったんだけど。
人数も多いし、みんなで食べられたほうがいいかなと思って。」
木島が挨拶代わりに持ってきたのはドーナツだった。箱の中に色とりどりのドーナツが並び子ども達は箱の中のドーナツと琉衣と新、持ってきた木島の顔を順繰りに見て琉衣の「好きなの1個ずつ持ってっていいわよ」の一言がかかるのを、よだれを垂らす犬のように並んで待っていた。その中には萌々香もいる。
琉衣は苦笑いしながら、
「すみません。お行儀悪くて。」
と木島に謝り
「1個ずつよ。一度に食べちゃダメよ。
さ、持っていって。ケンカしないでね。
ちゃんと分けるの、わかった!?」
「はーいっ」
こう言うときの返事だけはいい子ども達を木島と新と琉衣は、あっという間に箱の中から無くなるドーナツを黙って見ていた。
ドタドタと足音を立て子ども達がオモテに出ていく。
「みんな、いい子じゃないか。」
炊事場から琉衣がマグカップにコーヒーからを淹れて運んで来ると新は一つを木島の前に置きあとの二つは片方が新の手に直に渡され、残りはお盆の上に置かれたまま琉衣の前に置かれた。
「みんないい子達なんです。
それはそうだけど、言えないことや、言いたいけど言わないことが、あの子達の中にはたくさんある。
それを吐き出させてやらないと
あの子達が本当の自分に戻るのはむつかしいんです。
ここを出ていく18歳までの間に
私がそれを手伝ってやらなけりゃ。」
木島はうなづいた。
「ごめんなさい。
私ばっかり話しちゃって。」
琉衣は謝った。
「居なくなった子どもについての意見を聞きたいんだ」回りくどい言い方はせずに木島は新と琉衣に向かい話し始めた。
「小林冬馬か。」
木島はうなづき、昨日の夕方上がってきた派出所からの報告を新に伝えた。
「テレビであの子の父親を見たか?」
木島はマグカップのコーヒーを一口飲んで新を見た。
「見た。」
「どう思う。」
「どう、って。」
新はマグカップを両手でつつむように握り「やっぱりその事か」と木島を見つめ、それから琉衣を見た。
言うか、言わぬかためらって口を閉じた。
琉衣がそれを見て逆に木島に聞いた。
「報道されてはいないけど。
去年居なくなった県西の女の子。
あのこは。」
木島は何か意見が聞けるかと少し前のめりになり、琉衣を見た。
「あの子は、
もしかしたらお父さんにその。」
「その?」
「違っていたら申し訳ないのだけど。
あのこは。性的虐待を受けてなかったかしら。」
琉衣は木島から目を反らした。
「あの女の子が見つかったあと、
周りに好奇の目で見られないように報道規制を掛けました。」
そこまで聞けば琉衣にはわかるだろう。
「なぜ、そう思ったのです?」
「写真の雰囲気と、
それと全身が写った写真、何枚かありましたよね?居なくなる二週間ほど前に公園で撮ったという写真。」
「はい。」
「あの写真の女の子の様子。
体つきとか、表情とか、そうですね。
一番はお母さんの顔かしら。」
木島は静かにうなづいて、今度は新を見た。
「おまえの意見を聞きたい。」
新は顔をあげ木島を見た。
Hameln 11
つづく
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