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夜のブランコ 12

遠足が終わると、すぐに5月の連休が始まる。
今年はカレンダーの並びが4月27日(金曜日)で、毎年四月の最後の金曜日が遠足になっていたので、翌28、29日は元々週末の連休となる。
4月30日、5月1、2日を校外学習計画表を出して、父兄と休みを同じくして連休とする子どもが何人か出てくるだろう。
なんで、どうして、と聞いたところで塩梅いい答えなど返ってこないので聞かないことにして
宿題を与えることになっている。
遠足、連休と終われば授業参観だ。
なんの授業にするか決めなければならない。
参観日が終わると1週間空けて今度は家庭訪問だ。気が抜けない四月、五月を乗り切ればあとは夏休みと秋のイベントまでは通常授業。

紘子は年間予定表を睨みながら、授業の予定を組み直していく。
今いちばん犠牲になっている授業は習字だ。
まだ二回しか出来ていない。
お道具の説明と半紙に直線、ハネ、払い、止めの練習をしただけで、なんの文字も書いていない。

「なんとかしないとねえ。いっそのこと参観日、習字にしちゃう?」

たのしいだろうなあ。

と妄想しながら、土曜日の午後をそのんで過ごしていた。
パソコンと睨みあいを続けていると、眉間にシワが寄ってくる。ときどきゴムの木の向こう側に視線をやると、マスターがお客さん待ちで観葉植物に水をやってたり、カウンターの外側でコーヒーを飲んでたりと大学生の三人組がくるまで、わりと自由に過ごしていることがわかる。

なにか、甘いものでも頼もうかな。

二人がけのテーブルの壁際に置かれた、小さなメニューを見てみると「甘いもの」と書かれたその下に
レアチーズケーキ
チーズケーキ(焼き)
プリン(焼き)
と、素朴な文字がある。

マスターの文字なのかな?
焼き、ってことはベイクドチーズケーキってことよね。どっしりしたやつ。

紘子はメニューを元の位置に戻し、トイレに立ち上がりついでに、マスターに声をかけた。

「マスター。焼き、のほうのチーズケーキありますか?あったらひとつお願いします。あと少し苦めのコーヒー、ホットで。」

カウンターの外側でオモテの人通りを見ながらコーヒーを飲んでいたマスターは立ち上がり
「あ、はい。」
と、返事をしてカウンターの中に入って行った。

くつろいでたのに、気の毒しちゃったかな。

紘子はトイレを済ませ店内に戻った時、カウンターの中にいるマスターに向かって
「いつも、おいしいコーヒーをありがとうございます。」
と言って座席に戻った。
マスターが珍しく食器の音を立てている。
水道の水もジャアジャア流して、いかにも慌てているようだ。

良かれと思って注文したけれど、悪いことしちゃったかな。

紘子は座席に座り直してパソコンに向かった。
集中して作業をしていると、カウンターからマスターが紘子の注文した「焼き」チーズケーキと「苦め」コーヒーをお盆に乗せて座席まで来てくれた。

なんだかいつもと様子が違う?

心なしか、テーブルにカップを置く動作も震えているような気がする。
「ありがとう」
と見上げた紘子を見てマスターが
「ど、ど、どうぞ。」
と、カタカタ去っていく。

ん?どういうこと?

いつものスマートな感じはどうしたんだろう。
私がなにかやっちゃったかしら?

紘子は首をかしげ、マスターのカタカタいう後ろ姿を見送り頭の中をはてなマークだらけにして、コーヒーを一口飲んだ。
「うん!おいしいっ」
これだ、このコーヒーが飲みたかったのだ。
と、思えるコーヒーだった。
チーズケーキもしっかり焼いて、しっかり冷やしてある。下のパイっぽいところもサクサクしていて子気味良い。

いや、ちょっと待てよ。
マスターどうしたのかしら?

はてなマークと、おいしいハートマークが頭のすみに交互に浮かび仕事は手に付かず紘子はため息をついた。


つづく

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