夜のブランコ 10
月曜日、始業式。
火曜日、教科書配布、クラス内選挙等、レクリエーション。
今日が一学期、最初の授業。
算数だ。
紘子は何しろ子どもの頃から数が苦手で友人と割り勘で食事とか、なんパーセント引きとか、そんなこと言われたってなかなか計算が出来ない。
授業の準備も他の教科はともかく、算数の準備だけは何倍もやっておかなければちんぷんかんぷんになる場合がある。
「柏木先生のクラスになった。」というと喜んでくれる保護者もいるが、「あの先生はいい先生だけど、算数がちょっと……。」という噂もあるくらいだ。
とにかく準備だ。
まったく。
なんでよりによって最初の授業が算数かな。
自分で作った時間割を睨み付ける。
堂々と教室の入口を開ける。
「おはよう!!」
「おはようございますっ」
子ども達が一斉に言う。空かさず日直さんが
「起立っ」
一斉に立ち上がり皆で挨拶する。
「おはようございますっ」
「着席っ」
子どもの頃、算数の授業が二年生二学期冒頭のかけ算九九で終わった紘子が、生徒に教えなければならないのはしんどい。
同じくかけ算九九で躓いている、青木永美がため息をつきながら教科書を開く。
わかるー。
わかるよー。
永美の手元を見つめながら、微笑んだ。
後ろの席の孝太郎がランドセルを開けて教科書を出そうとしている。
あとから思えば、この時紘子には二度目のチャンスだった。しかし孝太郎の様子はあまりに自然で慣れない学校、慣れないクラスメイト、初めて尽くしの教室で最初の授業だ。緊張して頭がパニックになってしまったのだと紘子も、永美も思った。
「あらら。算数よ。国語じゃないわ。忘れちゃった?」
孝太郎は「えへへ」と笑いサブバッグの中を見た。
紘子が一緒にバッグの中を覗くと、算数の教科書がいちばん上にあった。
「あ、あったね。」
紘子が言って、孝太郎が取り出した。
「忘れてなかった。」孝太郎は言った。
紘子は顔を上げ、教壇に戻り
「はい。一時間目、算数です。教科書3ページを開けて!」
三年生になると、授業は給食をはさんで五時間が毎日になる。火曜日は六時間だ。
カレンダーの休みが増え学校が休みの日も増えた。
どうしても足りない授業が出てきてしまう。
先へ、先へと進めることにあまり抵抗を感じない教師もいれば、周りとの調和を気にしてなかなか進められない教師もいる。
「これなんで、こうなるの?」
子ども達の素朴な疑問が出てくるのはこれからだ。一年、二年とやってきて得意な教科と苦手な教科を折り合いを付け勉強していくうちに、いろいろな疑問が湧いてくる。
それをひとつひとつ解消していってやるのが、小学校の先生だと思う。
中学に上がり、勉強は専門的になり科目の中で枝分かれしていくと解消の仕方を知らないとそこでその先に進めない子どもが出てくる。
みんな出来るのに、自分は出来ない。
そうこうしていくうちに、遅れを取り学校に行くのがいやになる。
そうしないための、「わからないところを解消していく方法」を教えるのが「今」だ。
とはいえ、算数に関しては紘子が教えて欲しいくらいだけれども。
給食の時間、班ごとに机を合わせ食べる子ども達の様子を見ながら今日の一時間目の授業を反省した紘子だった。
つづく
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