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こころのありか

〜想いが通じるということ〜

 近所にある何軒かのホームセンターには概ねペットコーナーがあります。
 ペット関連商品だけ扱っているお店もありますし、観賞魚だけを扱うお店もあります。人気があるのはやっぱり犬や猫、ハムスターやフェレットを扱うお店です。一時は見たこともないカエルやトカゲを扱っていたこともあったと思います。
 ペットコーナーはホームセンターの花形…とでも言いますか、休日に家族連れで出かける絶好の口実になります。にも関わらず、売れているように見えるのは観賞魚くらいでしょうか。あとは、ワンちゃんのトリミングですね。最近のペットコーナーは、以前と違って直接触ることが出来ないので、息づかいが伝わらないですし、お互いの相性もよく解らないような気がします。動物達は日々成長しますから新しい家族として迎え入れられる可能性も少なくなって行くように感じて少しかわいそうにも思います。
 半年ほど前だったか、一軒のペットコーナーが撤退することになりました。いくつかのホームセンターにお店を出していたようでしたが、出店先を整理して集約するとのこと。顔馴染みのアルバイト店員さんはこの機会に辞めると言っていました。動物が好きで入ったのにペットの扱いがひどいと嘆いていました。

 しばらくしてそのホームセンターのペットコーナーは片付けられ、そこだけガランとしていました。気のせいかお客さんも少なくなった様な気がします。ペットコーナーはホームセンターに出店料のようなものを支払っていたのでしょうか。集客の役割も大きいのだからむしろ立場が逆の様な気がしました。

 最近、新しいペットショップが出店したようです。初々しく見えるのは、動物達が新しい顔ぶれだからかもしれません。
 観賞魚の水槽の前に立ってみて少し以前と雰囲気が違うことに気がつきました。おかしな言い回しですが、魚がピチピチしているのです。手入れの行き届いていないペットショップでは水槽の底に弱った金魚や死んでしまったメダカが沈んでいることがあるので眉をひそめることもあります。ところが、新しいペッショップでは魚が一斉にボクの方に目がけて集まって来るのです。指を差し出すと水槽越しに指の先あたりに集まって一心に口をパクパクします。何だかとても久しぶりの感覚のような気がしました。
 これは手入れが行き届いているからというだけなのでしょうか。

 以前、金魚を飼っていたことがあります。あろうことか近所のスーパーの鮮魚コーナーで売られていました。意外性もあり、同情心もあり1尾一〇〇円くらいで3尾程買ったんだったと思います。計画性もなく買ったため、1尾は間もなく死んでしまったと記憶しています。そして残りのフナのようなスタイルの赤い金魚と尾びれが立派で白地に赤い斑点のオランダシシガシラタイプの2尾とは、しばらくのおつきあいになりました。
 衝動買いとは言え生き物を飼うわけですから、出来るだけのことはしてあげたいと思いました。それで、とにかくきれいで安全な水をあげたいと思い、タンクを抱えて伏流水で知られる近所の沢まで水汲みに行っていました。その甲斐あってか2尾は段々大きく立派になりました。ただ、いつのまにかオランダシシガシラタイプの模様から赤い部分が消えてしまったことが気にはなっていたのです。
 気がつくと、水カビ病を発症するようになっていました。直射日光に当てて水温が上昇してはいけないと思い、水槽を陽当たりの悪い所に置いていたせいでしょう。加えて消毒していない自然の水を利用していたため、水カビ菌の殺菌効果はなかったと思われます。水カビの発生を抑えるためにネットで情報を収集し、薬品の他にも塩水だとか唐辛子だとか色々な方法を試しました。挙げ句の果てには飲料可能な温泉のお湯を冷まして入れたりもしました。けれど、水カビ病の根絶はなかなか難しく、水を入れ替えてもしばらくすると再発するのです。相変わらず水道水を使わないためかも知れません。
 そして、ボクの配慮が災いした形になってオランダシシガシラタイプの金魚は転覆したまま浮かぶようになってしまいました。正直な所、もうダメだろうなと思いました。でも、エサをねだって泳ぐ愛らしい姿を思い出すと何とかしてあげたい気持ちにもなりました。そのための対策として透明ないちごパックに吸盤をつけて逆さ向きにして水槽内に設置し、金魚のシェルターを作りました。
 転覆病では横になったまま水面に浮かんでしまうことで魚体の一部が水面から上に出てしまい、表皮が乾燥することで組織が壊死します。それが直接の死因になると知ったためです。
 シェルターを設置した時はボクも半信半疑でした。何しろ、シェルターに入れば安全だと言うことを金魚に理解してもらう必要があります。最初の何度かはボクが手でシェルターの方へ誘導してあげました。でもやっぱり金魚はなかなか理解できなかったようです。ところが、しばらくするとそこへ入れば身体が水面から外に出ないことが金魚にも解ったらしく、自分でシェルターへ潜り込むようになりました。そうなることを期待していたとは言え、ボクの方が感心してしまうレベルです。そうしてしばらくは、横になったまま水槽の中を漂ったりシェルターで休んだりしていました。
 やがて気温が下がって来た頃、今度は金魚が沈むようになってしまいました。転覆病は体内の浮き袋の調節機能が上手く働かないために起きると言われています。気温が下がり、水温が下がったことで浮き袋内部の気圧が下がったのでしょうか。こうなると逆さに取り付けたシェルターは意味がありません。直接水槽の砂に身体が触れないようにガラス製の皿をベッド代わりに入れてあげるくらいが関の山でした。問題は水面近くまで泳いで上がれない状態ではエサが食べられないと言うことです。沈むタイプのエサにした所で身体が横になったままなのでやっぱり無理です。困ったと思っていた所、一緒にいたフナタイプの赤い金魚がおかしな動きをするようになりました。ボクが浮かぶタイプのエサを水槽に入れると、その赤い金魚が白い金魚の下に潜り込むようになったのです。ボクは最初意味が解りませんでした。けれど、何度か見ているうちに驚くべきことに気がついてしまったのです。
 赤い金魚は、自分がエサを食べる前に白い金魚の下に潜り込み、白い金魚が水面のエサを食べられるように補助していたのでした。白い金魚の方もその気遣いが解っているらしく、赤い金魚の助けを借りて水面近くまで浮き上がると一心にエサを食べようとします。

「友情?愛情?なにこれ???」

 ボクと金魚達のそんな関係がしばらく続きました。ただ、これまで水カビ病になっても軽度で治っていた赤い金魚が重度の水カビ病に罹るようになりました。たぶん、白い金魚のエサの補助で身体をこすりつける形になるためではないかと思えました。弱って行くふたりを何とかしてあげたいと言う想いは空回りするばかりです。そして水カビ病を防ぐことに苦慮していたボクは太陽の光に希望を託すことにしました。水槽を窓辺に移し太陽の光を見せてあげたいと思ったのです。

 すると太陽光線の殺菌効果が働いたのか、光合成するプランクトンの活性化で富栄養だった水質が改善されたのか水カビ病の発生は抑えられたようでした。水温も思ったほど上昇しなかったので転覆したままとは言え、それからまたしばらく生きながらえることになったのです。

 やがて、白い金魚は死にました。
 そして赤い金魚は死ぬまでボクに懐くことはありませんでした。たぶん白い金魚を死なせてしまったボクを許せなかったのだと思います。

 新しいペットコーナーで元気に泳ぐ金魚達を見ていたら、そんなことをふと思い出したのでした。

もくじ |  随想 


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ご精読いただきありがとうございました。

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