もうひとつのミステリー ⑤
「今井亮太さん、ですね。」
警察手帳を見せて彼女はそう言った。年齢は僕より少し下か同じくらいだろう。
「あ、はい。」
立ち上がり身なりを整えながら返事をした。
「今日からあなたの調査に同行することになりました、東堂です。」
「え、は?どういうことでしょう?」
「重要参考人として、こちらも調査を。」
…あぁ、そうだった。まだ疑いがはれたわけじゃないんだった。
「あ、どうぞどうぞ。僕が犯人ではないってことをしっかり調査してくださいね。」
イヤミったらしく満面の笑みで僕は勢いよく部屋の鍵をかけた。ガチャ!
目的地へ向かうバスに乗っている間、昨夜調べておいたメモを確認することにした。御倉と名の付く神社は幾つか点在していて、地域にも御倉と名の付く地名もあった。ここは昔、狐の神がいたらしい。稲荷神社的なことなのか?そういえば仲居さんが昔は伝説もあったらしいと教えてくれた。狐・伝説・御倉…。
「…メモをスマホで盗撮するのやめていただけませんか?」
メモに視線を落としたまま僕は言った。
「え、」
斜め後ろに立つ彼女の方を向き
「それは盗撮ですよ。言ってくれればメモくらい見せます。」
そういってメモを渡した。
「あ、すみませんありがとう。」
カシャっとシャッター音が鳴った。メモを返しながら彼女は僕にどうしてわかったのかと不思議そうに聞いてきた。理由は簡単だ。まず1つ、乗車している人数は僕たちと一番前の席に一人だけ。これだけ広い空間の中で僕の斜め後ろを立ち位置にしたこと。そしてもう1つ、その位置からだと少し上から撮らないと映らないでしょう、不自然な位置でスマホを見ているあなた、車内の鏡にばっちし写っていますよ。そう言って僕はペンで鏡を指した。
「ま、わかりやすかったかしら?」
そういって彼女は笑った。『た、試してやがる』
「探偵というのも全く嘘というわけでもなさそうね。」
「ああ、そうですね。」
少し乱暴にメモ帳を閉じ、ため息をつきながら窓の外へと視線を移した。
いにしえより想ひ続く
眷属待ちつ夜去方
朽ち果てることなかれ
はぁ…はぁ…
何だこの痛みは…!誰だ…、誰だ…!
「…さん、リョウ…さん、」
誰だ…。鬱蒼と茂る森の中、少し先に見える背中。振り返り始める。
「亮太さん‼」
はっとして目を開けた。勢いよく姿勢を起こした途端、激しい頭痛に襲われた。
「いつっ!」
「亮太さん、今日は何日かわかりますか?」
「…十一日です。」
「何をしていたかわかりますか?」
「御倉と名の付く神社を探していて、調査です。大丈夫です。」
「頭は打ってなさそうですね。びっくりした」
そう言って東堂さんはゆっくりと座り込んだ。
「すみません、僕、倒れちゃいましたか?」
「えぇ、鳥居をくぐったら突然頭を押さえて。今日は一旦帰りましょう。もう夕方になりますから。」
「はい、ありがとうございます。」
先に立ち上がり、僕は座っている東堂さんに手を差し伸べた。しっかりと掴むその手は少しだけ震えていた。
(続く)
