もうひとつのミステリー ⑥
帰りのバスは、東堂さんも僕も一番後ろの席に離れて座った。お互いすごく疲れていて、きっと何かを考えている。帰りは一言も話さなかった。
「まず、今日はありがとうございました。あなたが居なかったら、僕は倒れたままだったかもしれないから。本当にありがとう。」
そう言って深く頭を下げる僕を見て
「無事で何よりです。明日また同行させていただきます。…でも、一度病院に行かれてはどう?」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
部屋に入るやいなや僕はメモ帳を見返して資料をまとめた。それぞれの神社の特徴と聞き込みの内容。特に変わった内容はなかった。
最後の神社だけ、行けなかった。なぜ僕は倒れてしまったのだろうか。あの歌はなんだったのだろう。断片的に見えたあの映像は?後ろを向いていた人は一体…。
「失礼します」
ビクッ!集中している時に突然声がすると驚く。
「どうぞ」
慌てて声を出したものだから変に高い声で返答をしてしまった。ふすまを開けたのは周辺地図をくれた仲居さんだった。
「あ、どうも。地図ありがとうございました。とても役に立っています。」
「それはよかった。あの~…」
「はい、どうしました?」
「女性刑事さんがね、あなたの体調を心配されていたので私も心配になって。お顔を見に参りました。」
「あぁ、それはそれは。ご心配おかけしてすみません。ありがとうございます。大丈夫です。慣れない場所で少し疲れが出たのだと思います。」
「その~、ねぇ、倒れられた場所があそこだと聞いたので…。」
「と言うと?」
「先日、学生さんが亡くなられた場所もあの近くですから。なにか引っ張られてしまったのかと…。」
「え、あ、そうなんですか。僕、知らなくて。」
「だから、これを。」
そう言って渡してくれたのは小さく包まれたお塩だった。僕はなんてかわいい人なのだろうと少しだけ笑った。
「ありがとうございます。昔、同じことをしてくれた人がいて。思い出しました。」
「まぁ、そうなんですか。」
そう言って仲居さんもフフフと優しく笑った。
「明日も行かれるのでしょう?どうかお気をつけて。」
「はい、ありがとうございます。」
仲居さんは安心した様子で、ゆっくりとふすまを閉めた。
…この優しさとよく似ている人を僕は知っている。そういう優しさが耐えられなくて、思春期という言葉では済まされないくらいに人を傷つけた過去が僕にはある。優しさは時に辛く、愛されていないことを証明する狂気となることへの拒絶。
(続く)
