ミンナのウタ 考察|ラストの意味と、この映画がまだ「届いていない」という話
この映画について調べていて、いちばん引っかかったのはこれでした。
※この記事にはアフィリエイトリンク(楽天)を含みます。
タイトルは『ミンナのウタ』なのに、観た人が「怖かった」と言っているのは、歌じゃない。
レビューを読んでいくと、みんな同じ人の話をしています。
歌でも、幽霊本人でもなく、その母親の顔の話です。
歌の話をしている人は、はっきり少数派でした。
タイトルになっているものが、いちばん届いていない。
……この構造、じつはこの映画そのものの話でもあるな、と思ったんです。
先に断っておきます。この記事は結末まで話します。
途中に「ここから先はネタバレです」の線を引くので、まだ観ていない方はそこで止めてもらえれば大丈夫です。
🎧 まず、これがどういう映画なのか(ここはネタバレなしです)
『ミンナのウタ』は、2023年8月11日公開の日本のホラー映画です。
上映時間は102分。監督は清水崇さん。『呪怨』の人です。
物語はラジオ局から始まります。
ラジオ番組をやっているGENERATIONSの小森隼さんが、局の倉庫で古いカセットテープを見つける。
「ミンナノウタ」と書かれた、30年前の古いカセットテープです。
そして収録中に、こういう声を聞いてしまう。
「カセットテープ、届き…ま…した…?」
キャッチコピーはこれです。
この夏、きっと、あなたも口ずさむ ―――
予告編を貼っておきます。
ちなみにレーティングはGです。年齢制限なし。

🧩 いま、この映画に人が戻ってきています
これを書いている時点で、この映画のレビュー欄はちょっと妙なことになっています。
新しく書き込まれている感想の多くが、「あとから来た人」なんです。
『あのコはだぁれ?』を観るための予習として、前作にあたる本作を視聴。
(Filmarks・yottsuanさん/2.3点)
【清水崇特集 #1】 / 最新作『だぁれかさんとアソぼ?』に向けて鑑賞。
(Filmarks・RAIDOさん/3.0点)
監督が清水崇なのでスルーしてたんだけど、今度公開の映画と3部作的に繋がってるということを知って気になったので視聴。
(Filmarks・シャチ状球体さん/2.7点)
この映画は2023年の作品です。
それが3年経って、後ろの2本に引っぱられて読み直されている。
この3本に、公式がつけたシリーズ名はありません。観客のあいだでは、3作すべてに出てくる霊の名前をとって「高谷さなシリーズ」と呼ばれています。この記事でもそう呼びます。
海外の映画データベース(Letterboxd)でも、3本は Sana/Sana: Let Me Hear/Sana: Play with Me という題で並んでいます。その始まりが、この1本です。
その2本の考察も書いています。順番はどこから読んでも大丈夫です。

⚠️ 評価は「話がわからない」では割れていません
数字を出しておきます。
- 映画.com 2.9/全158件
- Filmarks 3.3/Mark 19,286件(点をつけた人の数。うち文章レビューは 5,348件)
ここが面白いところなんですが、低い点の理由が、後の2作とまったく違うんです。
2作目・3作目で多かったのは「話がつながらない」でした。
でもこの1作目でいちばん多い批判は、これです。
話しの本筋に直接無関係なタレント推し感を受け入れない。〔…〕ホラー映画としては、成立していない。
(映画.com・うっちゃりさん/1.0点・レビュータイトルは「タレント映画?」)
GENERATIONSの人達は演技頑張ってていいて上手くこなしていたと思う。ただあまりにもPVだった。
(映画.com・れいもんさん/1.0点)
ジェネの曲が無意味に流れるたびに / ポカンとさせられる映画 / 棒読みに耐えたのに広告だったのか?
(Filmarks・毎日ぶどうさん/1.5点)
「アイドルの宣伝映画だろう」。
これがこの映画に投げられた、いちばん大きな石です。
覚えておいてください。あとで効いてきます。

🚧 ここから先はネタバレです
ここから結末まで書きます。
まだ観ていない方は、ここで一度止めてください。
観たあとに、また来てもらえたら嬉しいです。
🎤 さなの願いは、ぜんぶ「聞いて」でできています
この映画の幽霊は、高谷さなという女子中学生です。
公式サイトを開くと、彼女の「ホームページ」という体裁の文章が置かれています。
原文のまま引きます。
◆◇さなのホームページへようこそ!◇◆
夢は私のウタを、みんなに届けて、みんなを私の世界に惹き込むことです。
「みんなに届けて」。
タイトルの『ミンナのウタ』の「ミンナ」は、彼女が届けたかった相手なんです。
そして、これが私がいちばん驚いたところなんですが——
サウンドトラックの曲名に、「聞いて」の言葉がいくつも並んでいるんです。
公式のサウンドトラックは全32曲あります。そのなかに、こういう曲名があります。
- 「ワタシの曲、きいてください」
- 「きいてよ」
- 「ウタって、くれたね」
(松竹ミュージック公式のサントラ収録曲より)
お願いと、催促と、感謝です。
全部、聞いてもらうことについての言葉なんですよね。
ついでに書いておくと、同じサントラには「ワタシの夢」「ミンナの世界」という曲名もあります。
夢と、みんなと、世界。中学生が書きそうな言葉が、そのまま並んでいます。
主題歌もそうでした。
GENERATIONSが歌う「ミンナノウタ」という曲は、この映画のために書き下ろされたもので、公式によれば歌詞にはこういうフレーズが入っています。
「響かせたい」「聞こえてる?」「届いてる?」
……全部、疑問形なんですよ。
届いているかどうか、自信がない人の言葉です。

🎵 なぜ、あの歌には歌詞がないのか
ここ、地味ですがこの映画のいちばん賢いところだと思っています。
さなの歌には、歌詞がありません。ハミングだけです。
これは偶然ではなくて、監督がそう決めています。
「歌詞を歌っているようで歌っていない、ハミングに近いものだったので、それぐらいシンプルな方がいいかなと」
「最終的にはシンプルにハミングだけのものの方がいいんじゃないかと」
(清水崇/CINEMORE)
参考にしたのは『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)の冒頭のハミングだそうです。
ちなみに作曲は難航したらしく、監督が「ラン、ランララ」と口で説明していたら、「『風の谷のナウシカ』の"王蟲のテーマ"になっちゃいますよ」と指摘されたそうです(CINEMORE)。この話、好きです。
で、ここからが本題です。
歌詞がないと、どうなるか。
誰でも歌えるんです。
歌詞のある歌は、覚えないと歌えません。日本語を知らない人には歌えない。
でもハミングは、一回聞いたら、その場で真似できる。
つまりこの呪いは、再生機を必要としません。
カセットテープは、再生するのにカセットデッキがいります。
でも歌は、聞いた人間が、自分の喉で勝手に再生してしまう。
呪いの媒体が、人間そのものになっている。
だからキャッチコピーが「きっと、あなたも口ずさむ」なんです。
あれは脅しじゃなくて、仕組みの説明でした。

📻 元ネタになった怪談も、「私にも聞かせて」でした
この設定には、はっきりした元ネタがあります。監督自身が明かしています。
「誰かがコンサートを隠し録りしたテープに、女の子の泣き声みたいな音が入っていて、逆再生しても同じ声が聞こえるという…」
(清水崇/CINEMORE)
これは実在の言い伝えとして広く知られている、昭和の芸能怪談です。
1975年のフォークグループの解散コンサートを客席で隠し録りしたテープに、「私にも聞かせて…」という女性の声が入っていた、というもの。
監督は学生の頃にテレビの心霊番組でこれを聞いて、その悲しげな声が強く記憶に残ったと語っています(クランクイン!)。
ここ、鳥肌が立ちませんか。
元ネタの幽霊も、「聞かせて」と言っている。
しかもこの怪談、広まり方まで似ています。
言い伝えによれば、この音源はラジオ番組で放送されて、翌日からリスナーの投書が殺到したことで有名になったとされています。
ラジオを通って広まった怪談を、ラジオ局から始まる映画にした。
※念のため書いておくと、この怪談が「実在の言い伝えとして広く知られている」ことは確かですが、心霊現象そのものが本当かどうかは別の話です。原因は特定されていません。私が言っているのは「そういう話が広まっている」という事実のほうです。

🕺 事務所が「うちのグループに寄せなくていい」と言っていました
さて、さっきの「アイドルの宣伝映画だろう」という批判に戻ります。
調べていて、いちばん意外だったのがここです。
LDH側が、監督にこう言っていたそうです。
「『GENERATIONS』に寄せてくれなくて大丈夫です。GENERATIONS映画じゃなく、もっと清水監督の映画として作ってください」
(LDH側の言葉として清水崇監督が紹介/CINEMORE)
しかも監督は、引き受けるにあたって条件を出しています。
「怖いホラー映画として作る」ということです。
「それが無かったら引き受けてないですね」
(清水崇/CINEMORE)
同じインタビューによれば、企画はゼロから立ち上げられていて、当初はGENERATIONSの10周年を振り返る映像をエンディングに作る構想もあったのに、上の言葉を受けて路線変更しています。
「宣伝映画にしないでくれ」と言ったのは、事務所のほうだった。
そして監督は、この座組みをこう使いました。
僕はたくさんホラー映画をつくってきましたが、まさか LDH の方が出て下さるなんて思ってもいなかったので、それを逆手にとってやろうと思って。LDH のラブ・ドリーム・ハピネス、というポジティブな言葉の裏側といいますか、"さな"が持っている思春期の執着心が、死んだ後もずっと続いていたらネガティブなものに変化するということを描こうと思ったので。LDH の皆さんが主演でなかったら、そんなことは思いつかなかったので、感謝したいと思います
(清水崇/松竹公式・公開前夜祭の舞台挨拶より)
ラブ・ドリーム・ハピネスの裏側。
夢を持った女の子が、その夢のまま歪んだらどうなるか。
それがこの映画です。
この作品の核は、GENERATIONSが主演だから生まれている。
監督自身がそう言っています。

🎭 本人役は、実際の彼らに合わせて脚本を書き直して作られています
「本人役」って、雑にやると一番嘘くさくなるやつです。
でもこの映画は、けっこう手間のかかったことをやっています。
監督の説明を並べます。
まず、メンバー同士が普段なんと呼び合っているか、一人称は何かの聞き取りから始めたそうです(マイナビニュース)。
そのうえで、脚本を書き直しています。
「あとはメンディーさんが一番怖がりだとも聞いたので、そのまま活かせるように書き直しました」
(清水崇/CINEMORE)
霊感がある役をやる中務裕太さんについても、実際に霊感があるわけではなく、「不思議キャラで時々妙なことを言う」という実際の性格を聞き取って、そこに配置したと語られています(CINEMORE)。
演技経験の差まで使っています。
「佐野玲於くんは芝居経験が豊富なので過剰な動きをしない。リアクションは薄味だけど、いつの間にか歌を口ずさむ場面とか、いい感じにコワくて」
(清水崇/クランクイン!)
ついでに、探偵役のマキタスポーツさんがメンバーの名前を間違える場面について、監督はこう言っています。
「あれはぶっちゃけ僕の分身」
(清水崇/クランクイン!)
監督自身がGENERATIONSに詳しくなかったので、知らない人の視点をそのまま劇中に置いたということです。
これ、観客の反応にちゃんと出ています。
キャストで偏見してはいけない作品。〔…〕物理的に殴ったら余裕で勝てそうな屈強な男達(特にメンディー)が心霊に怯え弱っていく姿はなかなかに新鮮だった上、役名も本人なのでリアル感があり恐ろしさが増した。
(YouTube・하로크-f1g さん/271いいね)
最初はアイドル物とホラーを雑に合わせた映画ね。はいはい、と舐めてかかってたけど本当に良い意味で裏切られた。流石、清水監督⋯。
(映画.com・白石黒井さん/3.5点)
「舐めてかかったら裏切られた」という形の感想が、とにかく多いんです。
ただし、本人役には構造的な弱点もありました。これは正直に書いておきます。
まぁでも言っちゃうとアイドル物だから、結局は殆どの人は生き残るんだろうなぁとか察しがついてました。
(映画.com・白石黒井さん/3.5点)
本人が本人役で出ている以上、観る前から結末の見当がついてしまう。生死のサスペンスは、最初から効きにくい作りです。

🔊 「聞かせる」ことに、ここまで作り込んでいます
この映画、音の作りがかなり凝っています。
確認できた事実を並べます。
①本編にモスキート音が仕込まれています
これは松竹の公式が明かしていることです。
本編の所々にモスキート音(若い人ほど聞こえやすい高い音)が入っていて、聞こえる人には耳鳴りのような不気味な感覚になる、という仕掛けだそうです。
つまり、同じ劇場にいても、耳の年齢によって聞こえているものが違う。
「みんなに届けたい」という話をしている映画が、全員には届かない音をわざと混ぜているんです。
②逆再生には、二重底があります
劇中には音声を逆再生する場面があります。
公開後のイベントで、監督はその音声をさらに逆再生すると新たな謎が分かる、と明かしています(松竹公式)。
聞いた人が、もう一度聞き直さないと届かない層が用意されている、ということです。
この音は、撮影現場でもかなり効いていたようです。
関口メンディー「あのシーンは本当に怖かったんで。あの音がジリジリくるじゃないですか。ひとりで精神が崩壊するかと思って」
清水監督「あれをつくってくれた録音部の方は喜んでくれると思います」
(松竹公式・公開前夜祭のレポートより)
③主題歌のレコーディングも、ふつうではなかったようです
主題歌でボーカルをとった数原龍友さんは、こう語っています。
「こういうホラー映画の企画がなかったら、自分たちが選ぶことのない楽曲。静かな曲調からいきなり跳ね上がって、狂ったような歌い方になる」
(数原龍友/MOVIE Collection)
そしてスタジオに入ったことは覚えているけれど、「入ってからはまったく記憶がない」とも言っています。
これに片寄涼太さんが「怖いから!」とツッコむ、という場面もあったそうです(MOVIE WALKER PRESS)。
聞かせることについて、この映画は本当に手を抜いていません。

📱 宣伝アカウントが、さな本人の名義でした
これは調べていて声が出ました。
この映画のInstagram・TikTok・LINEの公式アカウントは、いずれも「さな」本人の名義で運用されていました。
- 公式Instagram=`@_s.a_n.a.__`
- 公式TikTok=`@sana_minnanouta`
- LINE公式アカウントも「さな」名義
さらに、宣伝企画として実物の「呪いのカセットテープ」が製作されて、「高谷さなから届いた」という体裁で抽選配布までされています(cowai)。
つまり現実世界でも、さなは自分のウタを、みんなに届けようとしていたんです。
映画の外側まで、彼女の願いの形をしている。
これは相当に意識的な設計だと思います。
……ここまでが「届けようとした」側の話です。
ここから書くのは、「それでも届かなかった」という話になります。

😱 それでも、観客が持って帰ったのは「母の顔」でした
ここが、この記事のいちばん書きたかったところです。
これだけ「聞いて」で埋め尽くされた映画なのに、観客の記憶に残ったのは、歌ではありませんでした。
レビューを読むと、みんな同じ人の話をしています。
ホラーアイコンである"さな"ちゃんも怖かったけれど、それよりも何よりも、"さな"ちゃんのお母さんが最恐。もはや顔芸の部類に入るかもしれないが、これに関しては清水崇監督ら製作陣にとっては狙い通りだったのでは?
(映画.com・大塚史貴さん/3.5点)
まず、お母さんが怖すぎる。登場するだけで不穏な空気が漂い、その存在感はかなり強烈だった。
(Filmarks・tabiedesさん/3.6点)
そして、1.0点をつけた人ですらこう書いています。
あんなに白目向いて怖がらせ頑張ってるお母さんを見習っていただきたい。
(映画.com・れいもんさん/1.0点)
一方で、歌そのものについてはこうです。
「さなの歌」が某着信メロディと比べるとインパクトが無く印象が薄い。
(Filmarks・イッキさん/2.8点)
もちろん「メロディーが耳に残る」という人もちゃんといます。
確かにこの少女の霊の鼻歌のメロディーは何となく耳に残ります。静かで穏やかなメロディーなのに余計にそれが怖さを演出しています。
(映画.com・ニンフィア好きさん/3.5点)
でも、量としては明らかに母のほうが多いんです。
しかも、調べていてこういう事実が出てきました。
母を演じた山川真里果さんの"衝撃シーン"のなかには、当初の予定にはなく、後から追加されたものがあるそうです(松竹公式・2023年8月30日のイベントより)。
つまり、この映画でいちばん怖がられている顔は、その全部が最初から設計されていたわけではないらしいんです。
タイトルの外側にいた人が、恐怖の中心を持っていった。
これ、批判として書いているのではありません。
この映画のいちばん残酷なところだと思っている、という話です。
だってそうでしょう。
「聞いてください」と言い続けた女の子の映画で、みんなが覚えて帰ったのは、彼女の歌じゃなくて、母親の顔だった。
ただし、劇中で彼女の歌が最終的にどう受け取られたのかは、ラストの話をするときにもう一度戻ってきます。

🌏 海外では、これは「清水崇の映画」として語られています
もうひとつ、はっきりした差があります。
日本では、さなは新しいホラーアイコンとして受け入れられました。
伽耶子さんに続くホラーアイコン、さなちゃんの一作目
(映画.com・madaoさん/5.0点・レビュータイトルは「さなちゃんサーガ エピソード1」)
高谷さなという新しいJホラーのアイコンが出来たね👍
(Filmarks・福士さん/3.0点)
ところが、英語圏のレビューを読むと、話題の中心がまるで違うんです。
論じられているのは、監督のほうでした。
Takashi Shimizu is back, baby! After the slightly disappointing Immersion, here he delivers a classic analogue ghost story that sometimes feels like a J-horror greatest hits, and to me, that's never a bad thing.
(Letterboxd・David Sodergrenさん/★★★★½・拙訳=清水崇が帰ってきた! 前作『忌怪島/ネクロノミカン』(英題 Immersion)が少し期待外れだったあと、彼はここで古典的なアナログ幽霊譚を届けてくれる。ときどきJホラーのベスト盤みたいに感じられるが、私にとってそれは悪いことじゃない)
批判している側も、やはり監督の話をしています。
Shimizu's movies usually fizzle out towards the end, usually when the logic behind the film's "mystery" is explained.
(Letterboxd・JingiMinami237さん/★★★½・拙訳=清水崇の映画はたいてい終盤で失速する。だいたいは、その「謎」の裏側にある理屈が説明されるときに)
褒めるほうも、けなすほうも、清水崇という作家の話をしているんです。
さなについては、こうです。
which doesn't quite flesh out the backstory of our evil antagonist quite enough to make her particularly memorable
(Letterboxd・Leeさん/★★★・拙訳=敵役の背景が十分に描き込まれておらず、特別に記憶に残るというほどではない)
そして——これは調べていて驚いたんですが——英語圏のレビューで「母が怖い」に触れているものが、私が読んだ範囲では1件もありませんでした。
日本のレビューで何度も出てくる、あの顔の話が、まったく出てこない。
この映画は2023年に14の国と地域で配給が決まったと公式が発表しています(松竹公式)。
だから「海外に届かなかった映画」ではありません。映画のほうは、ちゃんと越えています。
越えていないのは、さなという固有名詞なんです。
貞子と伽椰子は、名前で海を渡りました。
さなはいま、「清水崇の新作」という名前で渡っています。

🕰 この映画は、続編が決まっていない状態で作られていました
いま私たちは、この映画を「3本のうちの1本目」として観ています。
でも作っていたときは、そうではありませんでした。
監督の発言を、時系列に並べます。
公開の約1か月前(2023年7月・海外映画祭の記者会見)
続編はまだ考えてないですが、続編あったらいいなーと昨日も穂紫さんと話していました。続編が制作できるように、まずはこの映画を成功させたいです。
(清水崇/松竹公式)
公開直後(2023年8月・クランクイン!のインタビュー)
本編には入らなかった後日談があったことを明かしたうえで、こう言っています。
でも、カットしました。くどいし、怖さが分散するので。えっ、観たかった? 勿体ない? もしかして『ミンナのウタ2』を撮らせようと誘導してます?(笑)
公開の約1か月半後(2023年9月・イベント)
「続編を期待していいか」との質問に清水監督からは「既に構想はある」という回答が飛び出し、客席を沸かせました。
(松竹公式)
1か月前は「まだ考えてない」。9月には「既に構想はある」。
つまりこの映画は、続編が約束されていない状態で、単体で完結するように作られていたんです。
ここ、2作目の考察を書いたときに気づいたことと繋がります。
2作目『あのコはだぁれ?』は、公式が最後まで「続編」と名乗らなかった映画でした。そして監督も、続編と名乗らなくてもこの1本で完結して観られるように、という趣旨のことを語っていました。
そのやり方は、2作目で急に始まったわけじゃない。
1本目が本当に1本だけだったから、そのまま続いただけなんです。

🪜 3年経って、階段が「伏線」になりました
ここが、いま一番おもしろい現象です。
最近この映画を観た人たちが、当時は誰も言っていなかったことを書き始めています。
思ってたより良かったし、最新作を観てから観ると自宅への階段がちゃんと《伏線》になっていて、驚き。 / 正直単作で観るならシリーズで1番良かった。
(Filmarks・クアラさん/3.8点)
このシリーズの最新作をみたので、とりあえず娘と鑑賞。 / ジェネレーションズには全く興味なし。 / でも最新作よりは面白い。 / この時点でもう階段のあたりの色変わってるので、考えられてたのかな?
(Filmarks・U子さん/3.3点)
3作目には「階段」を使った有名な遊びが出てきます。
それを知ってから1作目を観ると、この家の階段が、違うものに見えるらしいんです。
これ、作り手が仕込んだ伏線なのかどうかは分かりません。
私は分からないままでいいと思っています。
大事なのはそこじゃなくて、後から来た作品が、前の作品の画面の意味を書き換えたということです。
この映画は、公開から3年かけて、まだ内容が増えている。
そういう映画って、そんなに多くないです。

🔚 ラストの意味
ここは意見が大きく割れています。先に断っておくと、私は本編を細部まで確認できていないので、観客の証言と突き合わせながら書きます。
観客の受け取り方は、大きく4つに分かれていました。
①「寄り添い」で解決したと読んだ人
これは知恵袋などで回答している人に多い読み方でした。さなが求めていたのは攻撃ではなく共感で、それが満たされたから終わった、という理解です。
②「加害者が救われるのはおかしい」と怒った人
何となくハッピーエンドっぽい感じになっているが、あれでいいのかね。あれで自殺した少女の気持ちに寄り添えたのか。
(映画.com・省二さん/2.5点)
何の罪もない命を遊びで殺害したやつが報われようとすんな。
(映画.com・れいもんさん/1.0点)
③ 解決が雑だと思った人
最後の対決の何か知らんけど解決したやっつけ感や、全員生存エンドの予定調和な雰囲気が少し鼻についたなぁ、と。
(映画.com・白石黒井さん/3.5点)
④ そもそも終わっていないと受け取った人
最後は助かってめでたしめでたしかと思ったらコンサート会場でファンの人たちがハミングして変な女の子とか出てきてまだ終わってねえよ。なんですよね。
(映画.com・芭蕉翁さん/3.0点)
ラストでメンバー全員無事でよかったもののエンドロール後のあの歌が会場に流れるのがゾクッと感じました!
(映画.com・HIDE Your Eyesさん/3.5点)
ここから先は、私の読みです。
④の人たちが見たものが、この映画の本当の結末だと思っています。
コンサート会場です。大勢の客がいる場所です。
そこで、みんなが同じメロディーを口ずさんでいる。
これ、ホラーの終わり方としては「呪いが拡散した」なんですが、さなの側から見ると、まったく違う絵なんですよね。
彼女の夢が、やっと叶っている。
「私のウタを、みんなに届けて、みんなを私の世界に惹き込むこと」。
会場中がハミングしている光景は、その願いが文字どおり実現した瞬間です。
だからこのラストは、最悪の結末であると同時に、いちばん優しい結末でもある。
そこが気持ち悪くて、私はこの映画を認めています。
監督は、さなについてこう言っています。
「『さな』の善悪は社会的に受け入れられないだけであって」、観客が「この子の気持ちわかるなぁと思ってくれたら嬉しい」
(清水崇/マイナビニュース・撮影密着記事より)
わかってほしい、と作り手も言っている。
この映画は最初から最後まで、「聞いてくれ」という話だったんだと思います。

🙃 まったく逆の読み方も、ちゃんとあります
ここまで持ち上げましたが、「これはアイドル映画で、ホラーとしては成立していない」という読みは、十分に成立します。
実際、いちばん多い批判がそれでした。
ホラー映画としては、成立していない。
(映画.com・うっちゃりさん/1.0点)
私は「本人役だからこそ効いている」と書きましたが、本人役だから全員助かることが読めてしまうという指摘のほうが、映画の設計としては正しい可能性があります。
それに、真顔で観るのが難しかったという声も、けっこうあります。
全自動お化け屋敷と化した高谷家🏠寄り添うだけで全員解放してくれんのちょろいな、、
(Filmarks・しおさん/3.9点)
怖さって本当に紙一重だな、と思います。
それと、私が「聞いて」の話としてまとめたことも、言い方を変えれば「自分の承認欲求のために他人を殺す話」です。
自分の歌をみんなに届けるために他人を犠牲にするという大迷惑な少女。
(映画.com・省二さん/2.5点)
これ、まったく反論できません。
私の読みは、加害の部分をきれいな言葉にしてしまっているところがあります。そこは自覚しています。

🎥 こんな人におすすめ/おすすめしません
おすすめ
- 3作目・2作目を観て、ここまで来た人(この記事はほぼその人のために書きました)
- 承認欲求という言葉が、他人事じゃない人
- 音とか声とか、耳から入ってくる怖さが好きな人
- GENERATIONSを全然知らない人(監督自身がそうだったので、ちゃんと配慮されています)
おすすめしません
- ジャンプスケアでガツンと驚かせてほしい人(狙いがそこではありません)
- 登場人物が本当に危ないというスリルが欲しい人(本人役なので、そこは弱いです)
- 幽霊に同情したくない人
観る順番についても書いておきます。
3本を順番に観られるなら、公開順(この作品→『あのコはだぁれ?』→『だぁれかさんとアソぼ?』)がいちばんきれいです。
ただ、いま3作目から入って遡ってきた人は、そのままで大丈夫です。
むしろ「階段」の話のように、逆から観たほうが見えるものもあります。
実際、遡って観た人の中には、こういう感想もありました。
今日観た3作目より面白かったです
(映画.com・芭蕉翁さん/3.0点・レビュータイトルより)
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📚 あとよみの他の考察
この次の作品です。「続編と名乗らないまま公開された」という話を書きました。
そのまた次、いまいちばん新しい作品の考察です。
動画版も準備しています。できあがったら、ここに置きます。
💬 さいごに|あなたには、届きましたか
この映画を調べているあいだ、ずっと同じことを考えていました。
さなが欲しかったのは、たぶん「怖がられること」じゃないんです。
聞いてもらうことでした。
そして、この映画がいちばん賢いのは、その願いを呪いの仕組みそのものにしたところだと思っています。
歌詞のないハミングには、再生機がいりません。
聞いた人が、自分の喉で再生してしまう。
……で、ここまで読んでくださった方に、ひとつだけ言わせてください。
この記事に何度も出てきた「聞いて」という言葉、たぶん、あなたの頭のなかで一度は音になりましたよね。
文字を読んでいるだけなのに、声の話をされると、人は勝手に脳内で再生してしまう。
それがこの映画のやっていることの、いちばん小さな実演です。
そして公開から3年経ったいま、後ろの2本に引っぱられて、人がこの映画に戻ってきています。
レビュー欄に「3作目を観たので」という書き出しが並んでいるのを見ていると、
いま、やっと届き始めているのかもしれない、という気がしてきます。
さて。
あなたは、この映画をどう観ましたか。
ラストのあの光景を、私は「夢が叶ってしまった場面」と読みましたが、まったく違う読み方をした方も多いと思います。
母親のことも、階段のことも、たぶん人によって全然違って見えている。
よかったら、コメントで聞かせてください。
私の読みが間違っている、という話でも大歓迎です。
聞かせてほしい、という点では、私もこの映画のことを笑えないので。
