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キリング・ミー・ソフトリー【小説】42_ヴィランズ


莉里さんは縦横無尽にあちこちライブを観てはちょくちょく飲酒しているようだ。
従ってかなりの酔っ払い、然程テンションは左右されず。


しかし、大本命と主張したバンドを前に見事なまでの豹変ぶり。メタルポーズ、頭を激しく上下に振って乱れる髪、モッシュピットで暴れる輩は全員捻り潰すというくらいの殺気を帯び、悪魔のような笑みを浮かべ飛んでいく。その形相は、いつぞや夢で見た彼女より遥かに悍ましげでゾッとした。


淳はそこに所属するベーシストの影響を受け〈弾いてみた〉動画を投稿サイトに載せ絶賛されており、自分も同じくファンだが、屈強なセキュリティスタッフが抱えきれないレベルの信じ難い速さと量でダイバーが流れる光景を目の当たりにし、とても莉里さんの真似は出来なかった。



代わりに大型のサークルモッシュを作り、ずっと他人と遊んではしゃぎ、終いには彼らと揃って記念撮影、SNSでフォローし合う、結果的には最も楽しいひと時となる。
実に良い笑顔のまま莉里さんが戻った。
「疲れたからちょい休も。」
と言って屋外に強制連行され、彼女はつまみを食べながら尚、酒を煽る。



満身創痍、汗をかき湿った服、化粧っ気のなさ、漂う色香、微かな沈黙、更に通常とはかけ離れたボーイッシュなヴィジュアルも相まって一層緊張した。



「え、あれ!りーちゃんかな?」
「似てるけど違くない?」
近くでヒソヒソと女子大生らしき軍団が囁き合っている。莉里さんはそっちのけで即座に立ち上がって場内へと歩き始めた。



「タンマ。放っといて大丈夫?友達とかフォロワーさんなんじゃないの?」
今日はアキくんと一緒だもん。
ばっさり言い切られ、ああそうですかと心の中で答える。
さっきまで別行動をしていたのにも拘らず彼女が二人三脚の認識だったとは初めて知った。



「次のバンドが最後かあ。アキくんは地元に帰っちゃうんだよね?」
「まあね、大学生なんで。」
「つまんなーい。明日もいてくれたら良いのに。」
ほら、寂しがって無闇に期待を持たせる。
俺のこと好きじゃないくせに優しくすんなよ。



呆れて溜息を漏らせば、俺の彼女になんか用ですかって嘘ついて守ってくれたじゃん!などと記憶から抹消したい台詞を復唱される。
一喜一憂するのが手に取るかの如く分かる為、揶揄うのはさぞ面白いだろう。



そろそろ限界、こうなったら一発かましてやる。ホーンセクションを交えた爽快なSEが聴こえた瞬間、ここぞとばかりに莉里さんを担ぎ上げた。
リフトと呼ばれる、肩車。
仕返しのつもりが彼女は身長に比べ、半端なく軽かった。寧ろ、細いようで各所にある丸みに焦りを感じる。



「アキくん?」
「行くよ。」
手拍子と歓声に伴って少しずつステージの方へ移り、メンバーが出てきた。
曲目によっては下ろそうかと考えていたものの、そんな心配は不要、スタートからエンジン全開なナンバーで華麗に飛び去る。
充分だ、よくやったと踊りつつ、自分も一番好きな歌の所謂〈落ちサビ〉前のタイミングにて優しい男性の肩を借りた。



横一面リフトされたダイブ待ちの人間が並ぶずっと向こう側、タオルを掲げる莉里さんの姿を真っ先に見つけ、何故こんなにも彼女しか愛せないのかという想いに揺れる。
今日のことは忘れない、忘れられない。



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