見出し画像

キリング・ミー・ソフトリー【小説】22_深夜高速バス


きのピの友人、〈めい〉はライブハウスで見かけたことがある。
ふわふわとした黒髪を三つ編みに纏めた引っ込み思案。目立ちたがりで主張の強いきのピの影に隠れ、壁に寄りかかってのんびりステージを眺めていた。
正反対の性格を持つ彼女らはクラスメイトだったらしい。



もうひとり、きのピが連れて来るのは〈勇吾(ゆうご)〉という、つぶやきアプリ内で自分ときのピ共通のフォロワーだ。きのピ、めいと3人で並んだ写真をメッセージ経由で見せられる。
SNS上の交流ではこちらと同い年、進学せず実家が営む海沿いの店で働く情報のみ聞いており面構えまで知らなかったが、定番のキッズスタイルに焼けた肌、晴れやかな笑みは健康的・明るいオーラを放っており、特にきのピと仲が良いのも納得がいく。



彼らはこちらより1時間以上早めに移動中。
「はあ……俺、大丈夫かな。」
停留所で不安げに淳が呟く。
ライブ友達が欲しいと言ったものの、8割がた完成されたコミュニティに人見知りの彼を混ぜるのはまずかったか。
間もなく大型バスが現れ、
「ほら、フェスなんだから楽しも!」
ゆっくり淳の背中を押す。


車内に足を踏み入れると、後方できのピがちらりと顔を覗かせる。髪色を変え、紫に染めたよう。その隣のめいは眠っていた。
通路を挟んで勇吾が座り、手を振る。およそ初対面とは思えぬフレンドリー具合。
他の乗客に気を遣って挨拶は会釈で済まし、決められた席へ腰掛けた。



いざ出発、車中泊の旅。
消灯ギリギリでイヤホンをつけ東京に向かう刹那、必ず聴きたかった曲を選ぶ。
途端にセンチメンタルなメロディに包まれて、歌詞の重みを噛み締める。
ほんの僅か開くカーテンの隙間、時折ちらつく光の眩さと雨に湿った道路、どこまでも続くトンネル、揺れる毎に軋む窓ガラスが鬱陶しい。
申し訳程度のリクライニングでは寛げず不慣れな姿勢によってなかなか寝付けない、この感じ。



寝返りよろしく試行錯誤を繰り広げ、何とかうつらうつらし始めればもうすぐ横浜とのアナウンスに叩き起こされた。最悪。
あと少なくとも1時間は眠れる筈なのに俄然、目が冴えてしまう。淳も似たような症状に悩まされた挙句、開き直って音楽に没頭する。



兎も角、関東に来た証だろう。
タイムテーブルを脳裏に描き、どんなセットリストか期待に心が弾む。



この記事が参加している募集