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キリング・ミー・ソフトリー【小説】31_イージュー★ビジター


「気をつけて行っておいで。」
もうすぐ時刻が翌日へ切り替わる頃、高速バスの停留所に父が車で送ってくれた。
「父さん、ありがと。」
あと15分弱でバスが来る。
きのピ達はいない、今夜ひとりきり東京を目指す。



母には
「千暁、またフェスなの?大学生になったからといってはしゃぎ過ぎじゃないかしら。」
とぼやかれたものの父が宥めてくれた。
「まあまあ、眞紀ちゃん。これも青春だし今しか出来ないよ。思い出作りのいい勉強、ここは見届けるのが正解だって。それにあっくんはね、向こうに友達がいるらしいんだ、何とかなるよ。」



正確には片想いの相手だが、自分が単独ではないということ、それがちょっとでも両親にとっての安心材料になれば良い。
かわいい子には旅をさせよ。



再び同じバスへ乗り込むと既に横の席には少し歳上に見える男性が座っており、軽く会釈してくる。当然だが、初対面だ。
彼がどういった人間か事前に知れないので念の為、充電器や着替えなどを詰めたリュックサックを床に置き、靴を脱いでクッション宜しくその上へ両足を投げ出した。
金銭は尻のポケットの中と、小分けにし予めネックポーチに忍ばせスマートフォンと共に衣服で隠す。全て、父のアドバイスに従う形。



赤の他人と隣り合わせな不安も相まって緊張が解れず、ロクに眠れない。
うとうとした瞬間に彼が動き目覚めてしまう。
朧げな夢の狭間、白鼠の空。彼は横浜で降りて行った。実際に訪れた試しがない街。



よくテレビに映る中華街、みなとみらい。
いつか莉里さんとデートするならぴったりの場所、チャイナ服似合うだろうなあ。
そんな馬鹿げた妄想に浸っているうちにあわや乗り過ごすところだった。



こちらが早朝からやることもなく適当なトイレで着替え、ファストフードで朝食を済まして、駅員に道を聞きフラフラ彷徨って電車に揺られ、辿り着いた先では故郷を思い起こし、暇を潰せずにエントランスゲートが開く9時を待ち、物販を見て気に入ったグッズを買い、有料のクロークへ荷物を収めても、莉里さんはまだ来なかった


大人ばかりの野外特設会場にぽつんと佇む自分が酷くミスマッチだと感じる。次第に開演が迫り、痺れを切らすと電話がかかってきた。
「もしもし?もう10時45分超えてるよ、マジ大丈夫?」
「ごめん、ギリギリで。毎回こんなペースなんだよね。」
「俺のクローク使う?」
「私はいいや、今そっち行く。」



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