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キリング・ミー・ソフトリー【小説】32_オルタナティブハート


散々こちらを待たせておいて、やっと太陽の下に現れた莉里さんは天使のようだった。
初対面とは一味違うオリーブがかった髪、ニット帽、どこかのバンドグッズと思しき明るいグリーンが冴えたTシャツに白い長袖を合わせて、淡いデニムを履いていた。



荷物は小さな蛍光色のサコッシュひとつ、スマートフォンを透明なケースに入れて首からぶら下げ、靴のみ以前と変わらず。
「久しぶりー!」
あまりにも可愛らしい笑顔に目が眩み、遅刻をサクッと許す。
「アキくん、今日コンタクトなんだね。」
「うん、普段はそうだよ。」
莉里さんの為に眼鏡を辞めたので、あながち嘘でもなかった。



周りの客がチラチラと莉里さんを見ている。
すげえ、あの子めっちゃかわいい、などという声を受け、自分がこの美人を終日独り占め出来ると有頂天になった、そこまでは良かったのだが。



トップバッターのバンドがライブを始めた途端、莉里さんは拳を上げて物凄い速さでモッシュピットを駆け抜け、なんと1曲目にして完全に見失う
暫く経ち、天高く放り投げられ楽しそうに宙を舞う彼女の姿を目撃する。
爽やかさは損なわれずに戻ってきて、ニット帽を託しピースサインをキメ、またも消えて行った。
人混みに紛れ押し合った末、ぼさぼさに乱れた頭ですら綺麗。



嘘だろ、マジかよ。地面コンクリートだぞ。
ギャップ云々の話ではない。
まあ、このような音楽が好きならそういった傾向が多少なりともあるだろうとは思って(自分は専ら聴くだけに留まって)いたが、果敢にも細い体で突っ込むだなんて、まさか。



今、世間一般的に広くダイブと呼ばれている行為を一度たりとも経験したことのない自分にとっては斬新、刺激的過ぎる。
おまけにパンク・ラウド系バンドに限ったイベントの遊び方を知らず、初めて見たダイバーの量に圧倒されてしまう。屈強なセキュリティがずらり、さながら地獄絵図。
その中をあんなにも悠々と泳ぐ女、かなりの手練れ。




「あー!めちゃくちゃ幸せ!」
疾風の如くライブが終わり、ようやく落ち着いて帰ってきた莉里さんは汗びっしょり、アイメイクが崩れ、何者かに蹴られたのか服が汚れていても、正直なところ開場の誰より可憐な事実は覆らなかった。
「お疲れ。ずーっと飛んでんの見えたよ。」
「ホント、引かない?平気?」


躊躇わずに朝方、物販で購入したタオルを彼女へ差し出す。
「最初、ちょい……びっくりはしたけど、莉里さんカッコいいって思った。」
「安定!やっぱアキくんだわ!」
突然、抱きつかれんばかりに意味不明な言葉を叫ばれたが、彼女がご機嫌なら万事順調、問題なし。



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