キリング・ミー・ソフトリー【小説】38_はじめて君がしゃべった
『ねえ、アキくん。愚痴ってもいい?』
大学やアルバイトに馴染む傍ら、莉里さんとはみるみる隔たりが生じていく6月2週目。スマートフォンの通知欄を覗いた瞬間、ドキッとした。時間が経ってから再び連絡を寄越す、なんて罪作り。
例年に比べ幾分か早い梅雨の真っ只中、暑いやら涼しいやら曖昧な気温、深呼吸しつつベッドに横たわる。
『なんかもーヤダ。仕事ですっっっごいイヤミくらった』『なに』『見た目だけですね、面白みも特技もないのに人生イージーモードでうらやましいです、みたいな』
はあ?思わず声が出た。
確実に彼女の美しさは飛び抜けている(推定ハーフ)。接客業を選ばなくとも、頻りにスカウトされるであろう器、芸能人・モデル向き。
その点を妬んだところで余計に己が醜くなる、見目麗しい程度で物事がスムーズに進むなど有り得ない。
隣の芝は青く見えると誰かも述べた。
中学生から知成と親友ならば必然的に汲み取る。彼もよく似た言葉のナイフで無責任に傷付けられては笑ってふざけたけれど、そこそこ苦労していた。
始めこそ容姿に惹かれたが莉里さんも彼女なりの暮らしをがむしゃらに営んでいる筈で、果敢にもモッシュピットへ突っ込み豪快に宙を舞う理由は恐らくストレス発散。
およそ悩みの種を抱えておらず、生易しい道のりの場合、あんな風にスイッチが切り替わったかの如く化けやしない。
彼女がこれまでどのように凌いできたかは知らず、ただ持ち合わせたアクセサリーの一部にいちゃもんをつけてくる理不尽さにふつふつと怒りが湧く。
『今度からは、それがどうしたって開き直りな。俺は莉里さんが見た目だけとは絶っ対思わないけど、仮にそうだとしてさあ、何が悪いの?めっちゃすげえことだし誇っていーよ』
せっかくの機会なので所謂イージーモードは不可能だと捉えている、という意味を込め
知成についての話もする。
『そっかあ、そうだよね、みんな色々あるよね』『うわっつらに憧れて嫉妬すんのも、なりたくたってなれないのも分かるよ。とはいえ相手を攻撃しちゃったら中身まで残念、全然キレイじゃない。痛くて可哀想な人だよ』
知成、真司とキャンパス内を歩けば聞こえよがしに世の中顔だよな、と囁かれるのだが、だったらお前はさぞ性格が良いんだな?へえ、頑張れよとの皮肉を交え肩を叩いてやりたかった。
大抵2人の背景は度外視され、好き放題。
かわいい、カッコいい、そんな諸刃の剣で立ち回れるのはせいぜい大学生のうち。
『私ね。自分のこと嫌いで、ぜんぜん自信ないの。デカ女、外国人、とかなんとか昔ずっといじめられてたもん。でも、せめてキレイに生きたいなって。アキくんありがとう!』
一先ず莉里さんが元気を取り戻し一安心だ。
以後、彼女はしょっちゅうメッセージを送りつける。自分のアドバイスが役に立ったかは兎も角、どうも突き放された訳ではなかったよう。
