キリング・ミー・ソフトリー【小説】26_Re:Re:Re
全員まだ未成年(※2018年当時)、酒を飲む訳にもいかずジュースで乾杯した。
「お疲れー。特にきのピ。」
「はあ。終わっちゃうの辛い。」
「きのは明日もフェスでしょ?」
めいが呆れる。
SNS上でのハンドルネームから疑いなく苗字を連想していたが、実は〈希乃〉という名前らしい。
野外ロックフェスティバル初日の一番最後には、長年ギター教室へ通えば避けて通れない、瞬時に影響を受け、取り憑かれたかの如くコピーをし、〈弾いてみた〉を動画投稿サイトへ載せた憧れのバンドが控える。
1曲目ギターボーカルが静かに歌い出すと
「ちょっと行ってくるわ!」
居ても立ってもいられない高揚に仲間達を残し、少しでもステージに近付こうと手を伸ばす。
彼らが織りなす世界観はいつも自分の状況に驚く程、当てはまった。
大概が日本語で綴られる抽象的な描写。
感傷、孤独、思想、葛藤、皮肉、己との対峙、君の影。その都度、気持ちに寄り添う曲を繰り返し聴いて、メンバーのようになりたくてギターを弾き続ける。
主なファンの年齢層が原因で有名なタイトルしか友人は把握しておらず、迸る深い愛を誰かと分かち合うのはなかなか難しかったけれど、偶然にも集まった仲間達は等しく成長過程においてこの音楽に触れてきた。
ありし日、衝動に任せ掻き鳴らし投稿を止めお蔵入りとなった最大のヒットナンバーで熱狂の渦へ巻き込まれ、盛り上がりは絶頂に達する。
セットリストが進み、add9、ふわりと浮かぶ切なさ、ふと莉里さんへの仄かな恋心を思い起こす。
さながら狙い澄まし、好きなものばかり演奏してくれたよう。
澱み切った塊が解れていく。
高校卒業からこれまでのぐちゃぐちゃな恥ずべき日々も、いつかは。
容易く操れれば迷ったりせず、代わりに面白みがないだろう。
大丈夫、やれる。
物凄いエネルギーを得て目が醒めた。
