見出し画像

キリング・ミー・ソフトリー【小説】40_クラアク博士と俺


そこからドラム探しが始まる。
知成に紹介された顔見知り程度の友人らは既に相応の場へ所属し、きのピが経験者だと聞いてはいたが彼女はアルバイトとライブで多忙を極め、住まいも離れ練習は難しいと判断(正確に言えば淳があいつは明らかに音楽性違うとシャットアウト)した。
淳の高校時代の伝手を頼ってみるも、就職してロクな暇がないようだった。



そんな折、また関東へと旅立つ夜が訪れる。
最近、頻繁に連絡を取っている莉里さんには同じフェスに参加する旨を完全に伏せており、つぶやきアプリでも片鱗を見せず息を潜めた。
当日いきなり本人にバラし仰天させようと企んだ後、彼女に会いたいという不純な動機より次第にイベント自体を待ち遠しく思う気持ちが勝ってくる。たまたますれ違えばそれまで。



母は
「千暁が大学とアルバイトさえ行くならどうだっていいわ。」
と匙を投げ、高速バスでの車中泊でも寛げる術をちゃっかり学ぶ。
いつもの時間、窮屈な座席、決まった道筋、イヤホンから流れるは出演者の曲で組んだプレイリスト、着実に目的地へ近付く幸せを噛み締めた。



今回ばかりは年末に兄に連れられて幾度か出向いた覚えのある会場なので、ただ胸をときめかせるのみ、何一つ怖くない。
莉里さんに惚れたおかげでかつての臆病な自分と別れを告げる。
変わるきっかけは自由だ。



『見て、2日通し!』
彼女から興奮気味なメッセージが届く土曜。
ご丁寧に場内の写真も添えられているが、実はこちらもそこにいるんだよなとほくそ笑む。



独特の高揚感、これでもかと詰め込まれたラインナップ、タイムテーブルと睨めっこ、何となく嬉しいTシャツの被り、エナジードリンクを飲み、物販の列に混ざって、飲食スペースで昼飯を済ます。


我ながら単独行動にはとても慣れており、人目が全く気にならなかった。
さて、どんなことが起きるでしょう。



この記事が参加している募集