Photo by
yoko_fl_
キリング・ミー・ソフトリー【小説】56_HOMETOWN
「ああ、これっぽっちも変わんないや。」
そう言って躊躇なく波打ち際で裸足になる。
自分はやや離れた位置から兄をじっと見つめていた。
「千暁も19か。ホントにあっという間。」
「ハル兄はなんで東京の大学受けたの?」
「ん?まず田舎だし、10年前はもっと酷くて、取り敢えずみんな出て行きたがった。俺もその1人、それだけだよ。千暁や父さん母さんが嫌な訳じゃない。」
兄が潔く打ち明け、振り返ると波に足元を攫われバランスを崩して水飛沫が上がる。
成る程、疑いようのない理由だ。
「でも千暁みたいに友達と地元の大学に進む人生、就職で上京すんのもアリだったのかなって思う。一人暮らしして初めて親のありがたみとここの良さが分かった。俺、疲れた時とかヤなことがある度に頭ん中でこの海に帰るんだ。そういう居場所持ってると精神的に楽だけど千暁は今の環境、大切にしなよ。」
湿っぽい雰囲気になった瞬間、出し抜けに潮水をぶち撒けられる。
「ほら。来いよ!」
渋々構うと渚どころか膝まで浸かる辺りへ押され尻餅をついた。
仕返しに蹴飛ばせば当然ながら火花が散って、ずぶ濡れだが楽しい。
こだまする兄弟の笑い声、流され紛失したビーチサンダル、在りし日の記憶が蘇る。
「千暁もさ、東京行きたい?」
足裏にざらつく感触や着衣泳と互角の重たい体を引き摺り自宅へと戻る最中、兄が問いかけてくる。事前に莉里さんの存在を話していたので、その意味を速やかに捉えた。
「まあね。つーか、もうこっちの大学入っちゃったし4年はどうしようもなくね?たまにフェスで遠征すっから、またいつか泊めて。」
「了解。父さん母さんを任せたよ。」
兄は必ず弟の心に何か置いては消えていく。
