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yukoyama
キリング・ミー・ソフトリー【小説】55_ 幸運論
8月最後の週末。
母を助手席へ乗せて兄を出迎えると、以前より爽やかな風貌だった。
熱を帯びたコンクリートに高層ビルの群れ、満員電車と汗が貼り付く疎ましさ。
日々、営業で都内を駆け回る彼は何度も熱中症になりかけたと語る。
「その点、実家は海近くてサイコー!」
「今はクラゲに刺されるわ。」
「母さんってば。俺、入るとは言ってないよ。でも千暁、後で遊びに行こ。」
一家揃っての誕生会は自分だけではなくいつしか10月生まれである兄も兼ねていた。
こちらは19歳、あちらは29歳。
併せて次の年代に踏み込む変わり目の1年だ。
テーブルには食べきれない量のご馳走が並ぶ。
料理が得意な母お手製の甘ったるいホールケーキは見る見るうちに完売。
「あっくん、早いけど誕生日おめでとう。これ、僕と眞紀ちゃんから。」
包みを開ければ黒革の財布が姿を現し、反射的にマジかよと呟く。
「あのね、大学生になったんなら少しはちゃんとしたの使いなさい。ずっと子供のままじゃ、お金も貯まらないわよ。」
「眞紀ちゃんありがと、大事にするね。」
「お、か、あ、さ、ん!」
冗談混じりに礼を伝え、母が顔を真っ赤に染め注意してくる(父と兄はゲラゲラ大笑い)。
こんな広瀬家では平凡なシーンも恵まれた幸せだと気付けた。
兄に〈下北で選んだ〉洋服を与えられたが果たして着こなせるか、アパレル店員の知成に早速、相談しなくては。
こちらからは兄が東京に着く頃を狙って海鮮詰め合わせを贈る。
ハル兄の好物、喜んでくれるといいな。
大きな背中を追って夕陽の沈む先、海水浴場を目指した。
