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キリング・ミー・ソフトリー【小説】54_ダイヤモンド


蝉時雨が降り注ぐ朱炎の午後。
どうやら庭先で水浴びに興じる幼児の甲高い声も相まり、おちおちしていられなかった。
ここ最近は特にコンビニエンスストアで呪文の如く、いらっしゃいませを唱える機会が増え、家庭用扇風機のうっすらした首振りでは到底涼めず、退屈な休日を凌ごうと結局ギターを弾き始める。


巷で〈海に入ってはならない〉などと囁かれる折、母が尋ねてくる恒例の台詞はこうだ。
千暁、今年は何が欲しいの?
漏れ無く張り切っているが、
「うん?いや、父さん母さんは春休みに車買ってくれたでしょ。充分。」
と気持ちを受け取る。
寧ろ、もしそれがなかろうと別段思い浮かばなかった。


昔は新しいゲームだの機材を強請り目を輝かせた筈がどうも考えが変わったらしい。
今や金銭を積んで手に入れられる品物ではなく、達成感・経験・時間・記憶、誰かの心。
不可視なあれこれを貴重とし一番に求める。


莉里さんかな、こっちに連れてきてよ!
なんて頼める訳あるか。
ふとイメージを膨らませ、吹き出す。
そうは言っても両親は準備を進め、兄も帰省するので盛り上がる予感がした。


当日の夕飯時には知成、真司、淳が集まり祝ってくれる。
アルバイトやデート、その他の用事を投げ打ってでもたった1人の為に都合をつける、彼らの優しさはどこから来るのだろう。


莉里さんには誕生日だとは明かさずスケジュールを伺ったのみ。友人と過ごす模様をSNSに載せるつもり、数名のフォロワーと共におめでとうの一言が寄せられればまだ救われる。


終始メッセージのやり取りで関わると脳が勘違いしてしまいがちだが直接会ったのはたかが3回の仲、交際とは程遠い。



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