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キリング・ミー・ソフトリー【小説】09_その向こうに


海沿いの街にも春が訪れた。
運転免許を手に入れるという大きな目標を乗り越え、高校卒業と共に短期のアルバイトを見つけ、これでいくらか大人に近付いたと自信を持つ。
『あっくん、ちょっといい?』
同じ屋根の下にいる父がメッセージアプリを使う。どれ程、声をかけようと音楽に没頭するかギターの練習中なのでいつしかこんな風に呼び出される、夜の9時半過ぎ。


居間には母もおり、何やら改まった雰囲気だ。
「眞紀ちゃんから素敵なニュースがあります。」
父は妻の眞紀子(まきこ)を未だにあだ名で指す溺愛ぶり。
「そう。私、車を買い替えようと思うの。千暁も免許を取ったじゃない?いっそ兼用で乗るのはいかがかしら。」
「まだ自分の車を買うのは早いけど、運転の練習が出来る。どうかな。」
両親の提案に戸惑いを隠せない。
正直、身分証明書の印籠として扱う気満々で、あわやペーパードライバーと化す寸前だったのでありがたい申し出だが、ぶつけて台無しにしてしまわないか。



そんな中、助手席に莉里さんが座り颯爽と車を走らせる輝かしい未来予想図が浮かぶ。
高速道路を経由し彼女に会うべく東京へ行ったら、さぞかしカッコいいだろう(実現可能かは別問題)。
「それ、俺の乗りたいのでもオッケー?」
「勿論よ。私はこだわらないわ。」
「あっくん良かったね。眞紀ちゃんの趣味に合わせたらピンクの車になっちゃう。」
「うるさいわね!」
母が父を睨む。親らしく振る舞っても、(ゆたか)くんと昔馴染みの呼び方が出てしまうのはしばしば。


されど、近所でも有名な仲睦まじい2人が築き上げたありとあらゆる背景、過去を息子は知らない。
末っ子と甘やかし、干渉されがちでやや鬱陶しいものの、世話になっておいて〈親が嫌い〉とはとても言えなかった。
我が家では普通、日常茶飯事でもその基準の高さを成長につれ理解していく。



春休み中は筋トレの延長線、肉体改造も兼ねて数回に渡り引っ越しのアルバイトをした。キツいに決まってる、肉体労働なんて無理、と知成には断られ、初日から先輩に怒られるばかりでなく腰が悲鳴を上げ筋肉痛に苦しむ。
よりによって繁忙期、残業をこなす。
体育会系のノリに着いていけないと思いつつも、達成感は膨大(ほんの少し、いやかなり、疲労が勝つ)。


莉里さんからの励ましに毎度救われる。
『アキくーん!お疲れ!』『体壊さないでね』『わたしもライブのために稼がなきゃ、がんばる』等々。
お客様に酷いクレームを受けて落ち込んでいた際は、アプリを通じて電話をかけてきた。



こんなに優しくされるならば、一生友達でも……良くない。



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