キリング・ミー・ソフトリー【小説】47_ジタアバグ
兄の千治は自分にとって絶対的な存在だ。
我ながら(約)ひと回り歳下とは、大層可愛らしい弟だったろう。
彼は本当に暖かく、必ず屈んでしっかり目線を合わせ相談に乗ってくれた。
大好きなお兄ちゃんが楽器をやっているから真似る、同じ音楽を聴いて、ライブに行くなら連れて行って貰う、単純な動機。
大学進学を機に上京し、親元を去れど仲の良さから特に変化はなく、家族旅行を兼ね兄の元を訪ねたり、逆にあちらが帰省して来た場合はライブハウスやカラオケに引っ張り回された。
父譲りの柔らかい雰囲気を身に纏う兄は記憶の中でいつだって笑っている。兄弟なのにちっとも似てないねとよく揶揄われた、二重で猫のように丸い瞳が羨ましかった。
今年の正月は恋人と共に過ごすと言って帰らなかったが、イベントの為には躊躇わず。
梅雨明けのむせ返る暑さと怪しい雲行き。
助手席には父が座って、ハンドルを握り締め車を走らせ、新幹線の到着を待って迎えると、兄は大袈裟なくらい驚き、自らが乗っても上機嫌で鼻歌を歌っていた。
「はあ、免許持ってんの当たり前か。千暁も大学生だもんね、時の流れ感じちゃった。」
「あっくん頑張ってるんだよ。とっても大きくなったでしょ。ハルくんは?結婚するとかなんとか。」
「別れたよ。彼女の転勤が原因。」
運転しつつ、父と兄の会話に耳を側立てる。
やはり遠距離恋愛は難しいのか、或いは大人だからこその複雑な事情によって拗れたのやら、あれこれ考えを巡らせるうちに家へと辿り着いていた。
家族3人の物置に成り果てた兄の部屋ではロクに休めないだろうとこちらの六畳間に招き、客用の布団を運ぶ。去年の盆以降会っておらず、余程寂しかったと見える母がやたら兄に構いたがるも上手く遇らい
「後は兄弟水入らずの時間!またね。」
とドアを閉めた。
兄は超がつく人たらし。
皆、吸い寄せられのめり込む。
癪に触るけれど正直なところ、やや知成と近い。
親友でさえ兄の影響かの如く。
