キリング・ミー・ソフトリー【小説】57_十九才
日付が切り替わると次々に友人達からメッセージが届き、スマートフォンの画面を埋め尽くす。SNS上では何も書いていないのにフォロワーがおめでとうなどとコメントを幾つか載せ、自分は暖かく柔らかな世界で生きる幸せ者だと改めて感じた。
目覚まし時計を止め、浅く二度寝した後に階段を降りれば父と鉢合わせ、暑苦しい抱擁を受ける。
「あっくん、生まれてきてくれてありがとう!」
「千暁が嫌がってる。いい加減さっさと仕事行ってちょうだい、遅刻するわよ。」
母が呆れて玄関へ追いやった。
丁度良いタイミングなのでこれまでずっと養い育てられ世話になってきたと感謝し、至上の愛を告げる。数ヶ月前なら決して吐けなかった台詞だ。
それを聞いて母が泣いた。そんなつもりは毛頭なく慌てふためくも、彼女なりに思うことがあったのだろう。
とはいえ普段の生活と然程変わらず、ぼちぼち連絡を返し、アコースティックギターにもたれかかって曲作りで長らく苦しんだ末に諦める。
兄から貰った服に着替え、約束よりも早めの電車に揺られた。所謂〈ヒトカラ〉を、歌の練習を兼ねて行なう為だ。
その後集まった3人に導かれたのは焼肉屋だった(しかも、高級な)。
「ちーは牛タン好きっしょ?ね?」
「こいつ、いかにも考えました風に装ってるけど完全に自分が食べたいヤツ。」
「知成らしいな。どちらにせよ誕生日には相応しい店だろ。」
「みんなホンッッットにありがと、大好き!」
彼らへの気持ちを述べたにも関わらず話の流れで単に肉が好物だと誤解されて収まる。
それならそうでも構わない。
実に楽しい夕飯が始まった。
「えー!今、南ちゃんとバンドやってんの?うわあ、懐かし。」
「みなみちゃん?女子か?」
「あ、俺と知成が通ってた中学の友達で、男。真司とも気が合う筈……ダメだ。あいつのタイプ、ロリっぽい子。美弥ちゃんを危険に晒せねえわ。」
「絶対交わるべきじゃないよね。」
食べ盛りによる恐ろしい速さで皿が空き、せっかく〈育てた〉一枚が奪われた等々すったもんだ起きる前に競い合うかの如く口に運ぶ。
「千暁が8月生まれで、知成は12月、淳は2月か。乾杯はまだまだ先になりそうだな。」
「あれ、真司さんは?」
「1月だ。」
「誕生日、冬に集中し過ぎかよ。」
笑いへと包まれ、ロースターは焦げた塊だらけ。
「ちーは外。」
会計の際、彼らにつまみ出される。まるで宝物のような時間ごとプレゼントしてくれたのが何とも嬉しくて堪らない。
ゲームセンターへ移動すると真司が初めて訪れたと言うので驚き、淳はやはり〈音ゲー〉の達人だった。UFOキャッチャーが得意な知成に押し付けられた巨大なぬいぐるみを抱き締めながら歩けば、すれ違いざまにクスクス笑われ恥をかく。
淳の終電が迫ってきたこともあり、そろそろお開きの時間。近所に住む真司だけは走って帰る。
「真司、ありがとな。すげえ楽しかった。」
「こちらこそ。暫く同い年だぞ。じゃあ、また大学で会おう。」
別れ際にそっと教えられ、納得した。
残った3名で並んで座る、人影まばらな電車が動き出すと線香花火が終わってしまう刹那の淋しさを脳裏に描く。
「淳、今日はマジで、」
「ちょい待った。分かってるから俺は要らない。」
「はいはい。知成も。」
「どういたしましてー。」
馬鹿馬鹿しくても伝えたくて最寄駅の到着を知らせるアナウンスに合わせ、立つ。
「俺、お前らのこと大好きだわ。」
「そういうのは莉里さんに言いなよ。」
おっしゃる通りでございます。
