花を千切り捨てる言葉
学生の集団が怖い。とうに大学を卒業しているというのに、留年が確定した夢を見る。その都度、断崖絶壁から突き落とされた瞬間と同等の絶望感を味わう(留年も、突き落とされたことも、あくまで実際にはないけれど)。
そもそものきっかけは恐らく、大学のスクールバスでの出来事であろう。
入学したばかりの俺は花粉症の症状に苦しんでいた。蛇口を捻ったかの如く流れる鼻水は、マスクの装着程度ではもはや抑えきれず、座席にもあと一歩で届かなかったため、仕方なく立ったまま片手でパーカーの内側をがさごそと探る。
すぐに愛用のハンカチとポケットティッシュを取り出したところ、真隣でさっきから騒いでいた先輩らしきグループのひとりに「ぷっ」と笑われた。
「え、真面目じゃね」
真面目とは一体。この必需品2点を指しているのか、ではお前は素手で鼻水を拭うのだな。
さすが先輩、大したものだ。
俺は黙ってベタベタのマスクを外し、折り畳んで、続いてティッシュで鼻をかみ、最後にハンカチで顔周りを優しく拭いた。
些細なことでたかがひとつやふたつ年の違う彼らに笑われたとて、何のダメージもない。
だがしかし。
父に入学祝いで買ってもらったハンカチだけは「真面目」の一言で、無惨にも散っていく桜の花びらのようには片付けて欲しくなかった。
そんな思いがこもった純白だと言わなければ、外からは知り得ない情報だろう、分かっている。
俺を馬鹿にした先輩を後日の帰りに見かけたが、案の定ひとりだと肩を縮こめてスマートフォンに夢中で、驚くくらい大人しかった。
ほら、後輩の前で面白おかしく騒いでみせろよ。
心の中で笑い返して、マスクを着ける。
つまり正確には、学生の集団そのものが怖いわけではなく──?
★あなたはこの問いにどう答えますか。
