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推しだった男が彼氏になっても私はまだ慣れていない

 隣で気持ち良さそうにいびきをかき、何ならあまりよろしくない寝相によって、こちらにはエルボーまでかましてきて。
 冒頭から罪なく攻撃されているヒロインはだ。
 

 睡眠妨害系恋人のツヅルはひとり暮らし歴が長く、自分の聖域(つまり部屋)に私以外の女を招いたことがなかったと語る。
 それもそのはず、現在は「ジュリ一筋」の彼だが、出会った頃は親しみやすさを売りに遊び歩いていた。


 しかし以前の私は何も知らず、高校時代から続く仲間うちのクリスマスパーティーに男友達が連れてきたツヅル(急な部外者)と挨拶するなり、互いのスマートフォンケースに挟まれていたアパレルブランドのロゴステッカーが偶然全く同じという理由で意気投合し、
「えー、こんなの初めて。話止まんないね、楽しい!」
と言い切り、サンタクロースにプレゼントをもらったかの如く無邪気に笑う彼を見て、
「なんて可愛らしい人だろう。これは推せる」
などと──。


 まんまと母性本能をくすぐられたのである。
 そういえばずっと側に居たとか、「かわいい」「俺、ジュリちゃんみたいな子好き」といった定番の口説き文句だとか、露骨に狙って距離を縮められたなんて気づかないまま、推しに
「あの……もっと仲良くなれるかな?」
と尋ね、ふたりきりで会う約束をしてしまった(ツヅルの思う壺)(怪しい壺を売られた気分)。


 ノリでの入籍を勧める某有名曲ではないが、私たちはこの次のデートで交際を決める。
 何とも軽々しく始まったくせに〈自然体でいられる関係〉の心地好さゆえか? 
 知らぬ間にふたりとも沼に落ちた。
 しかも、落ちた先の沼で手を繋いで顔を見合わせてクスクス笑っている。


 もうどうしようもないバカップルだった。


 「あれ、ジュリは推しいるの?」
 「アイドル分かんない。強いて言えばツヅルかも」
 「わー、不意打ちのデレやめて。心臓に悪い」
 小さなベッドで寄り添いながら教えた秘密。


 丈が短いカーテンの下が明るむ。
 そろそろ夜が朝に変わり、降り続いた雨も弱まったけれど。
 あなたが〈彼氏〉になっても、浅い眠りのなかで壁際にややズレた掛け布団を直された後、ぎゅっと抱き締められて
「ね、大好きだよ。おやすみ」
甘く囁き、頬にキスして再び寝るようなところに、私はまだ慣れない。