キリング・ミー・ソフトリー【小説】20_とっておきな唄
「葵は病んで鬼電かましてくるし、濡れ衣だっつってんのに裏切られた!って。でさ、そのチクッた女が葵とは早く別れて私と付き合わない?とかほざきやがった。ヤバい、ありえん。なあ、そこ2人仲良しじゃねえの?てか俺も人間なんですけど。1ヶ月お試しトライアル扱い、どうもありがとうございます。」
突然喰らうパワーワードに頬が緩む。
こちらとは縁遠い揉め事、知成からしてみれば彼女と寄り添うつもりが横恋慕で狂わされ、大迷惑。
「ごめん。元凶、俺だよね。葵ちゃんに説明しよっか。」
「いや、平気。懲りたわ。俺がチャラついてたのここらじゃ有名っしょ。恋なんざまともにできねえ、そういうのもう辞める。ちーの応援してるくらいがちょうどいい。」
愛想笑いがバレないと思ったか?
親友を侮るべからず。
「自業自得だわな。けど、仮にダメんなっても逃げるんじゃなくて次はばっちり好きな子見つければいいだけ、知成なら絶対叶う。」
「うわあ。まさか、ちーに励まされるとは!」
知成は北関東出身、親の離婚で母に引き取られ、経済的負担を理由に祖父母を頼ってこの県内へ移り住み、再婚を機に転校したのだそう。
7歳離れた義理の姉と父、慣れない暮らし、新たな界隈。加えて稀に会う〈殆ど記憶の薄れた元・父〉。子供ながらに周囲の顔色を窺い、馴染もうと必死だった。
いつだか彼は世間話の一環かのように軽々しく、ふざけながらそれを告白し、ギョッとする。
そんな過去が飄々と広く浅く人の間を渡る独特なキャラクターを編み出したと言っても過言ではない。
正直、田舎は妙な閉塞感が漂っている。
派手な服装をすれば余計浮くだろうに知成はそこを上手に使い、老若男女問わずあちこち声をかけ回った。
……結果、こんな事件も起こり得る。
無責任、いい加減、だらしない、頭空っぽ。
全て見せ掛けで、一つ一つの行動には根深い訳が潜む(きっと)。
電車に乗り込んでも黙ったまま物思いに耽れば、まるっきり忘れ去ったが如くしれっと復活していた。
「ちーは考え過ぎ、真司かよ。」
「もし1日あいつになれたら何したい?」
「バスケかバレー。190あってやんねえの勿体なくね?」
「分かる。俺は美弥ちゃんとデート。」
「ゲスい!友達の彼女で妄想すんな!」
徒歩5分で捕まる、嵐や吹雪をも通り越した、絶ち難い関係。
