第二章 看板
本シリーズは特定の企業を批判する目的で書いているものではありません。
むしろ、あの時代に社会へ出た多くの人が
どこかで感じたかもしれない違和感の記録です。
それが個人の問題だったのか、
それとも時代の問題だったのか。
その問いを、冷静に辿っていきます。
シリーズ一作目はこちら:第一章 高熱
入院が続いている間も、私は就職活動を続けていた。
そこで見つけたのが、地元でデータセンター業務をうたっていた会社だった。
募集の段階では、いかにも安定していそうな印象があった。
地方で、データセンター。
しかも「銀行系」という触れ込みまである。
最初の会社で営業の仕事をし、その後に原因不明の高熱で入院までしている。
そういう流れのあとだったからこそ、私はたぶん「次は少し落ち着いた場所の方がいい」と思っていたのだと思う。
少なくとも表向きには、その会社はそういう条件に見えた。
地方にある。
インフラに近い仕事をしている。
銀行系という信用の看板がついている。
雑に言えば、「ちゃんとしていそう」だった。
今思えば、この“ちゃんとしていそう”という感覚こそが、最初の入口だったのだろう。
入社してすぐの段階では、もちろん会社の全体像など分からない。
どこの会社でもそうだが、最初は目の前のことを覚えるだけで精一杯だ。
仕事の流れ、人の名前、席の配置、電話の取り方。
そんなことを一つずつ覚えながら、自分の立ち位置を探っていく。
ただ、この会社には最初から妙な違和感があった。
業務やシステムの話ではない。
もっと単純な、人の空気の話だった。
何となく、社内に基準がない。
誰が評価されているのかは見える。
誰が強い立場にいるのかも見える。
だが、なぜそうなっているのかが見えない。
最初は、自分がまだ会社の事情を理解していないだけだと思っていた。
中途半端に外から来た人間が、少し見ただけで組織を分かった気になる方がおかしい。
そう思っていたし、そう考える方が自然でもあった。
だから最初のうちは、自分の中でその違和感を処理していた。
地方の会社だからこういうものなのかもしれない。
自分が知らないだけで、長くいる人には分かる理屈があるのかもしれない。
あるいは、「銀行系」という触れ込みに安心しすぎて、自分が勝手に整った会社を想像していただけなのかもしれない。
そうやって、見えているものと看板の間にあるズレを、無理やり埋めようとしていた。
だが、時間が経つにつれて、そのズレはごまかしにくくなっていった。
特に大きかったのは、社長の存在だった。
この人は、いわゆるワンマン経営者という言葉だけでは足りないタイプだった。
人を動かすのではなく、人を支配したがる。
組織を作るのではなく、自分を中心に人間関係を組み替えたがる。
後になって分かってくることだが、社内の空気の歪みのかなりの部分は、この社長を中心に生まれていた。
最初から明確な事件が見えたわけではない。
むしろ逆で、最初は輪郭が曖昧だった。
ただ、社内を見ていると、評価や人事がロジックではなく別の力で動いているように見える。
実績や積み上げでは説明しにくい配置や扱いがある。
しかも、それが誰にも不思議がられていない。
このあたりで、ようやく私は少しずつ理解し始めた。
この会社は、「銀行系」という看板から連想されるような整った組織ではない。
少なくとも、私が最初に期待していた意味での“ちゃんとした会社”ではなかった。
もちろん、会社というものはどこも外から見た印象と中身が違う。
それ自体は珍しいことではない。
だが、この会社の場合、そのズレは単なる雰囲気や文化の違いでは済まなかった。
見た目は安定。
中身はかなり歪んでいる。
その違いが、少しずつ、しかし確実に見え始めていた。
とはいえ、この時点の私はまだ会社を見限っていたわけではない。
違和感はある。
だが、それでも中に入ってしまえば、人間は「この中で何かできるかもしれない」と考える。
特に私は、最初の会社を出たあとに体まで壊している。
だからこそ次の場所では、何とか地に足をつけたいという気持ちもあったのだと思う。
それに、この会社には表面の歪みとは別に、もう一つ全く違う顔が残っていた。
外からは見えないが、会社の内部にはまだ使える心臓部のようなものがあった。
そして、その心臓部こそが、後に私をこの会社の中心へ引きずり込んでいくことになる。
当時の私は、まだそのことを知らなかった。
ただ、何となく分かっていたのは、この会社は看板だけでは判断できない、ということだけだった。
第三章はこちら:第三章 心臓部
(公開前の場合があります)
■ 始まりの物語
ここまで書いてきた時間のさらに前に、
自分の基礎を形づくった時期があります。
大学時代、ラグビーに向き合っていた頃の記録です。
当時はただ目の前に取り組んでいただけでしたが、
今振り返れば今へ続く一本の線の上にあった出来事のようにも感じます。
興味を持っていただけた方がいれば、
その始まりの時間にも触れていただければ幸いです。
この記事を書いている人はこんな人
・・・というのがわかるような書籍を出版しています。
大学の頃に経験したラグビーと、その後留学して取得したMBA にまつわる話をまとめた書籍です。このnote でも「小麦譚」というシリーズ(マガジンでまとまっています)で無料で見れる部分がありますので、是非読んでみてください。
難しい話や専門的な内容はほとんどありません。
むしろ、
「なんでこんなに無理してたんだろう」
と後から振り返るような、そんな話が多めです。
ダイエットの話をここまで読んでくださった方なら、
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