学生最後に欧州サッカーを見るひとり旅 #11:ドルトムントの黄色い壁
本記事は続き物ですが、この記事だけでもお楽しみいただけます。
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※本記事に出てくる情報は2025年1月現在のものです。
※情報の正確性には万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません。
ロンドンからドルトムントへ

ヨーロッパ旅行12日目の夜。イギリス・ロンドンにて。
翌日、ドイツ・ドルトムントでの試合観戦を控えている私。
ここから一晩かけて、ロンドンからドルトムントへ移動していきます。
まずは乗るのは、高速列車『ユーロスター』。
イギリスとユーラシア大陸を結ぶ国際列車です。

セント・パンクラス駅のユーロスター専用改札口。
QRコードを読み込ませて入場すると、目の前にパスポートチェックと保安検査のブースが。国際列車らしい雰囲気になってきました。
保安検査を抜けた先の待合室には、列車の発車を待つお客さんが500人ほどいました。椅子はほとんど埋まっており、立って待つ人、スーツケースに座っている人もちらほら。お店もコンビニとカフェくらいしかなく、意外とこじんまりとしてるなあと思うなど。

待つこと数十分。私の乗る列車の搭乗案内がアナウンスされました。
長い長いエスカレーターを上り、発車ホームへと進んでいきます。
広がるのはとてつもなく長いホーム。
列車の長さが20両(うち2両は動力車)あるようだ。
端の号車に乗る人は大変だろうな…..。

『ユーロスター』は主に2つの路線があり、一つはロンドンからフランス・パリへ向かう路線、もう一つは同じくロンドンからベルギー・ブリュッセルへと向かう路線です。今回乗ったのは後者のブリュッセル行き。320kmの道のりを約2時間で走破します。
セント・パンクラス・インターナショナル駅を19時34分に発車。
ドーバー海峡を渡るときにタイムゾーンが1時間進み、ブリュッセル南駅に到着したのが22時35分です。たった2時間でイギリスからフランスを通ってベルギーに入国しました。

この夜の移動はこれでおしまい……ではなく、さらにもう一移動。
お馴染みFlixBusの夜行便に乗ってドルトムントへ一気に向かいます。
というわけで真夜中のブリュッセル南駅で待機。
日本の駅に比べて中がとても暗く、怖い。日付が変わるころには人の姿もほとんどなくなってきました。ヤンチャな人たちがたむろしてそうな雰囲気になってきて、不安になったのを今でも覚えています。
ベンチで横になろうにも、寝たら何か盗まれるんじゃないかと思うとなかなか眠れず。ひたすら睡魔と戦いながら時間が過ぎるのをただただ待ちます。

2時間半ほど待機した、翌日1時15分。ついにバスがやってきました。
どうやらブリュッセルが始発ではなく、パリからやってきているとのこと。そのため、すでに座席は半分以上埋まっていました。
ケルン、レヴァークーゼン、デュッセルドルフ、ボーフムといった、サッカーファンなら知っているような街で乗客の乗り降りを行いつつ、バスは夜の欧州の街を突き進んでいきます。
朝7時55分。
ブリュッセルから約7時間、ロンドンからは約12時間という長い旅路を経て、バスはドルトムントのターミナル駅、ドルトムント中央駅(Dortmund Hbf) に到着したのでした。

サッカー博物館
ドルトムント(Dortmund)。
ドイツ西部に位置する、人口約59万人の街。
古くは鉄鋼業や石炭業で栄え、今では情報産業も盛んなこの街には、世界的に有名なサッカークラブがあります。
それがボルシア・ドルトムント(Borussia Dortmund)です。
ブンデスリーガ優勝5回、DFBポカール優勝5回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝1回というドイツの強豪。香川真司選手が所属していたことで知っている人も多いのではないでしょうか。
ドルトムントは、その強さは勿論のこと、熱狂的なサポーターの数の多さでも知られてます。ホームゲームはほぼ毎試合満員で、平均観客数はなんと8万人超え。これは世界でも1,2を争うほどの動員数です。

そんなドイツ随一のサッカーどころであるドルトムントの駅前には、ドイツ・サッカーミュージアム(Deutsches Fußballmuseum)があります。ドイツのサッカーに関する貴重な展示の数々が見られるということなので、行ってみることにしました。
ミュージアムは大きく2つの構成に分かれています。前半はドイツ代表についての展示。ワールドカップを4回も制したドイツ代表の華々しい歴史が飾られています。

まず目に入ってきたのは、初めてワールドカップを制した1954年スイス大会についての展示です。当時の西ドイツ代表は、4年間無敗だったハンガリー代表を相手に、決勝で2点差を逆転する奇跡を起こして優勝しました。サッカー大国としての第一歩を踏み出したこの出来事にフォーカスし、当時の街の熱狂を伝える映像や新聞記事などの展示もありました。


ドイツ代表の粘り強さ、いわゆる「ゲルマン魂」に関する展示も。
ワールドカップや欧州選手権といった大事な舞台で、数々の逆転勝利を収めてきたドイツ代表。彼ら自身もその歴史を誇りに思っているようで、「俺たちはこれまでこんなに逆転勝利してきたんやで!」というコーナーがありました。なおカタール()

個人的に興味を惹かれたのは、東ドイツサッカーに関する展示です。
第二次世界大戦後、40年以上の間東西で分裂していたドイツには、それぞれに代表チームとリーグが存在しました。統一の際、事実上西ドイツのサッカー連盟に東ドイツが統合されたということで、西ドイツのサッカーがいわゆる「正史」となっています。
「正史」になれなかった東ドイツのサッカー。しかしこのミュージアムでは、当時確かに「もう一つのドイツサッカー」がそこにあったことを記していました。1976年のモントリオール五輪での金メダル、1974年の西ドイツW杯で行われた最初で最後の「東西対決」での勝利、クラブサッカーの激闘……。共産主義的な雰囲気を感じられる展示の数々は、西ドイツの歴史とは明らかに毛色が違っており、とても興味深かったです。

代表エリアの最後には、4つのワールドカップトロフィーと3つの欧州選手権トロフィーのレプリカが展示されているエリアが。世界で一番有名といっても過言ではないトロフィーが、目の前に…
いつか日本代表がこのトロフィーを掲げる日はやってくるのでしょうか。
後半の展示はドイツのクラブサッカーに関する展示でした。
1903年に始まったドイツサッカー選手権に始まり、1935年開始のDFBポカール、1962年開始のブンデスリーガに至るドイツ国内サッカーの歴史について展示のほか、ブンデスリーガのスタジアム変遷に関する展示、ウルトラス文化や中継技術についての展示など、一面にはとらわれない、フットボール文化を様々な角度からとらえられる構造になっています。


個人的に面白かったのは審判に関する展示です。審判が使っている用具についての展示がされていたり、実際の試合映像を見ながらジャッジを体験できる、ゲームコーナーがあったりしました。他には審判の報酬体系についての生々しい記載も。ブンデスリーガの審判は1試合で€5,000(約80万円)貰い、1シーズンで€70,000(約1120万円)を稼ぐんだとか。J1リーグの審判報酬は1試合あたり15万円ですから、まだまだ審判の待遇には差がありますね。

ドイツサッカーの百年の歴史を体感することができるドイツ・サッカー・ミュージアムは、これまであまりドイツのサッカーに触れてこなかった私にととっても、非常に興味深い展示の数々でした。ドルトムントに訪れたサッカーファンの皆さんは、是非訪れてみてはいかがでしょうか。
ジグナル・イドゥナ・パルク

本場のドイツ料理を食べたり、ドルトムントのファンショップでタオルマフラーを買ったりしているうちに、空は真っ暗に。
いよいよ試合の時間が近づいてきました。
今日観戦する試合は、ドルトムントがウクライナのシャフタール・ドネツクをホームに迎えるUEFAチャンピオンズリーグのリーグステージ第8節です。決勝トーナメント進出チームが決まる最終節ということで、全試合が同時キックオフで行われます。開始時刻は21時。遅すぎる。

黄色と黒のタオルマフラーを身にまとった集団にとりあえずついていくと、ドルトムント中央駅の地下にある地下鉄ホームへ。そこにはすでにスタジアム(Stadion)行きの列車が停まっていました。
後で知ったことなのですが、試合の開催日はスタジアムまでの交通機関は無料になるらしいです。確かにお金を払った記憶がなかったなあ……。

地下鉄に揺られること15分ほど。列車はスタジアム駅に到着。
駅からスタジアムまでは200mほど。目と鼻の先です。
道沿いには屋台が並んでおり、ビールやソーセージなどが売られていました。さすがドイツ。
歩行者道路を進むと見えてきました、ジグナル・イドゥナ・パルク!!!
めっちゃ光ってる!! そしてでけえ!!!

ジグナル・イドゥナ・パルク(Signal Iduna Park)。ボルシア・ドルトムントのホームスタジアムであり、収容人数81,365人という、世界でもトップクラスの規模を誇るスタジアムです。もともとは1974年のドイツW杯のために作られたスタジアムで、そこから何度か改修を行って現在の規模になったんだとか。
1974W杯や2006年W杯、EURO2024といった国際大会も開催されてきたこのスタジアム。このうち2006年のW杯では、日本代表とブラジル代表の試合も行われました。
ちなみに「ジグナル・イドゥナ」はドイツの保険会社の名前。命名権を購入してその名前をスタジアムに冠しています。それまでの名前は「ヴェストファーレンシュタディオン(Westfalenstadion)」で、現在でもスタジアム前の通りの名前にその名前が残っています。他にも、UEFA国際大会が行われるときは、スポンサーとの兼ね合いで「BVBスタディオン・ドルトムント(BVB Stadion Dortmund)」になったり、W杯では「FIFAワールドカップスタジアム・ドルトムント(FIFA World Cup Stadium Dortmund)」になったりと、名前については色々ある様子。
今日は欧州CLなので、正式にはBVBスタディオン・ドルトムントですね。

19時過ぎということで、スタジアムの周りには続々と人が集まってきました。隣に併設されているグッズショップにも沢山の人がいるように見えます。黄色と黒のグッズを身にまとったドルトムントサポーターは勿論のこと、今日の対戦相手であるシャフタール・ドネツクのサポーターもちらほら見かけられました。

そしてスタジアムの中へ。
コンコースは打ちっぱなしのコンクリートに排気ダクトと、殺風景な感じ。
売店も沢山並んでいて、こちらも行列ができていました。
階段を上って上層スタンドへ。
ゲートをくぐると……。

はいドン!!!
座席に傾斜があることで、上の方でもピッチが近く感じられ、迫力を感じることができます。一見するととてもコンパクトで、まさかここに8万人も入るとはとてもとても思えません。

なんといっても特徴的なのは、南側にそびえたつ高い壁のような一層スタンド。他の三面は2層になっているのですが、ドルトムントサポーターが陣取るこの面だけは大きな大きな一枚の壁のようになっています。やはりホームサポーターの応援に一体感と結束力を生み出すためのこの構造なのでしょうか。Wikipediaによれば、この南スタンドだけで2万5千人もの人が入るらしいです。すごすぎる。

ちなみにそのコンパクトさと観客数の反動なのか、席はとっても狭いです。
とくに足元が狭い。通路があってないようなものなので、試合中にトイレに行くのはかなり面倒くさそう。
試合に向けて売店でビールを購入。
価格は7ユーロほど(約1,100円)。う……高いな……。

ですがよく見ると、このうち2ユーロはカップ代にかかっていて、本体のビールは5ユーロらしい。そして、飲み終わった後に売店にカップを返却すればその2ユーロがキャッシュバックされるんだとか。リユースカップを使った環境保護活動ということでしょうか。この手の活動はドイツは進んでいるとイメージがありますね。

いよいよ南スタンドにも人が埋まってきました。
まだ入りきっていない段階でもなかなかの迫力でしたが、人が入ってみると迫力は倍増。この細かい点々がひとつひとつ人であると考えると、やっぱりすごい……!!
いよいよ選手入場。チャンピオンズリーグアンセムが流れます。アンセム中はスタンドからブーイングが飛びまくってました。UEFA嫌われすぎだろ…笑

さあ試合開始です。
ドルトムントは、試合開始前時点で4勝3敗の勝ち点12で14位(36チーム中)。負けても24位以内のプレーオフ進出は堅そうな状況です。上を見れば、決勝トーナメントに直接進める8位圏内までは勝ち点差1。過酷なプレーオフを避けるために、今日の試合を勝ってほかの試合結果を待ちたいところ。
試合は17分にカリム・アデイェミのシュート性のボールをセール・ギラシが触って先制。44分にはカウンターから再びギラシが決めて2-0で試合を折り返します。
今日は最終節。他会場の結果が大事になってくる…ということで、場内ビジョンには他会場で試合が動くたびに速報が流されておりました。試合も気になるけど、何気にこっちも気になります。
そして後半開始。2点差のリードを持っていたドルトムントでしたが、50分、GKのグレゴール・コベルがゴール前5mでボールをかっさらわれ、シャフタールのマーロン・ゴメスに決められます。
まさかの失点にざわつく場内。「2-0は危険なスコア」を見ることになるのか…と思っていましたが、その後はゴールを破られることはなく。逆に79分、ラミ・ベンセバイニが3点目を決めて勝負あり。ドルトムントがシャフタールを3-1で破りました。


勝利して勝ち点を15に乗せたドルトムントでしたが、他の上位チームも勝ち点を伸ばしたので順位は4ランクアップの10位どまり。決勝トーナメントへのストレートインを逃す格好となりました。
試合の感想ですが……。とにかくサポーターの応援がすごい。
黄色の壁から発せられる音の荒波が全身に響き渡り、震えました。
大旗を振りチャントを歌い続ける応援スタイルということもあって、90分ずっと現実離れした感覚を味わうことができました。まさにワンダーランド。
あと、私の耳がおかしくなければ、Last Christmasのチャントを歌っていたはずです。もう1月も終わるのに…?
あとは試合時間が遅すぎます。21時キックオフで、試合が終わるの23時だもん。流石に少し眠かった……。

さよならヨーロッパ
旅行14日目。ヨーロッパで過ごす最後の日。
ドルトムントから4時間ほど列車に乗り、約2週間ぶりのフランクフルト中央駅へ。そこから別の列車に乗り換えてフランクフルト空港へ向かいます。

レストランで、ミュンヘンの有名なソーセージ、ヴァイスヴルスト(Weißwurst)をいただきました。ヴァイスヴルストは薄い皮に包まれており、本来はそれを剥がして食べるものなのですが、自分はよくわからなかったので皮ごとむしゃむしゃ食べてました。そして、それを見ていた店員さんに笑顔で教えてもらう始末。2週間いたのにこれかい。
空港で4ユーロ(約640円)とかいうトンデモ価格の水を買っていると、いよいよ飛行機の搭乗時間になってしまいました。
2週間もいると、さすがにヨーロッパとの別れが悲しい……のは嘘で、正直そろそろ日本食が恋しい、帰りたいと思ってました。まあ楽しかったのは本当だけどね!

19時15分、北京行きのCA932便が出発。9時間ほどのフライトを経て、翌日11時半(現地時間)に北京の首都国際空港に到着しました。
そして3時間後の14時半、北京からCA113便で成田空港へ……
19時、長かった旅を終え、ついに日本へと帰ってきました。
今回初めてのヨーロッパだったのですが、歴史的な建造物を楽しめたり、日本とはまた違った車窓を見られたり、第一歩目としては上々だったのではないでしょうか。
旅の主目的に置いていたサッカー観戦は、ブレーメン、リヴァプール、ブライトン、トッテナム、ドルトムントに行くことができました。14日間で5試合なので、まあまあのペースで観ることができたと思います。試合は観ずともスタジアムには訪れた、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、セルティックもありますので、本当に2週間サッカー漬けの旅だったと言えそうです。
これまで画面の向こう側の存在だった欧州サッカーを現地で観ることで分かったこと。それは、サッカーが生活に根付いているということです。街中のあちこちにクラブのエンブレムなどをあしらった絵が描かれていたり(落書きだけど)、仕事中の駅員さんにポステコグルーの進退について意見を求められたり、とにかくサッカーがあちこちに存在しているのです。
そしてもう一つ、思ったこと。
正直、日本のサッカーも、結構やれてるなとは思いました。
普段Jリーグを主に見るが故の贔屓目も多分に入っているとは思いますが……。
確かにアンフィールドの雰囲気もシグナル・イドゥナ・パルクの雰囲気も凄かったです。しかし、ここぞという時の埼玉スタジアムも、それらに並び立つ雰囲気を出せていると思います。
スタジアムだって、エディオンピースウイング広島や長崎スタジアムシティといった、ヨーロッパのスタジアムに引けをとらない新しいスタジアムも増えてきています。
実力や財政規模ではまだまだ遠く及ばないかもしれませんが、面白さ、楽しさについては、きっと日本にもいいものがあるんだろうなと思います。
どちらが上とか下とか争うのではなくて、これからも両方の良さを楽しんでいきたいなあと、改めて思いました。
そしてそれらが交わる日がきたらきっと楽しいんだろうなとも。

またクラブワールドカップ行きてえなあああああ!!
次はヨーロッパでやってくれないかなあああああああ!!!
おわり
