見出し画像

女一人旅×ソウル「知っている曲が、別の曲に変わるとき」ー有線イヤホンと、レコードと、ノイズキャンセリングしない生き方ー


女一人旅  #漢南洞と聖水 自分の感性の、居場所を探しに。編


桜の季節、ソウルにいた。

同じ頃、
エマニュエル・マクロンもこの街にいたらしい。

景福宮の前には、韓国国旗とフランス国旗が並んで揺れていた。

大きな出来事の隣で、私は、もっと小さなものに惹かれていた…。


中心が消えたあとに、残ったもの。


正解がひとつだった時代が終わって、
選ばれなかったはずの感覚が、
表に出てきている。

あの違和感は、もしかすると—
"感性の問題"だったのかもしれない。

そう思ったのは、ソウルで、レコードを聴いていた夜だった。

かつて主役だった、レコードや有線イヤホン。

今はそれが、音楽と向き合うための“儀式”のようなものに変わってきている気がする。

針を落とすまでの、わずかな時間。
絡まったコードを、ほどく手間。

一見すると不自由で、遠回りにも思えるその行為が、
音と自分のあいだに、静かな余白をつくってくれる。

その「不自由さ」や「静けさ」をあえて選ぶことは、
加速し続ける日常に対する、小さな意思表示なのかもしれない。


有線イヤホンが、またストリートにいる。


ソウルの街を歩いていて、ひとつ気づいた。
若い人たちの耳から、白いコードが垂れている。

首元にケーブルがあるだけで、
スタイルに、少しだけ“抜け”が生まれる。

重厚なヘッドフォンとは違う、
ラフで軽やかな主張。

数年前から続くY2Kの流れの中で、
それはいつの間にか、アクセサリーのような存在になっていた。

でも、惹かれる理由は、それだけじゃない。

むしろ、Bluetoothイヤホンが"見えない状態"のほうが、こだわりを持っている人のサインのようにも感じた。

その背景には、音質への意識の変化もある。

ロスレスやハイレゾ配信が当たり前になった今、遅延も圧縮もない有線の信頼性が、
改めて評価されている。

「バッテリーが切れない」
「ペアリングがいらない」

——このあまりにシンプルな事実が、
いまは"機能美"として選ばれている。

最近では、ミュージシャンが使うインイヤーモニター(IEM)を日常で使う人も増えている。

透明なシェルに精密な構造が透けるデザインは、もはやジュエリーに近い。

ケーブルを好みの色や素材に変えるリケーブルの文化まで生まれていて、
「聴く道具」はいつの間にか、自己表現の領域に入ってきている。

Bluetoothは「利便性」、
有線は「こだわりとスタイル」。

その住み分けが自然に成立した今、
あえてコードを選ぶことは、
どう聴くかを自分で選び取る行為なのかもしれない。

触れられるもの。
手間があるもの。

そういうものに、感覚が戻っていく。


滲み出していく、感性の選択。

かつては、限られた人のものだった。

レコードはオーディオマニアのもの、
有線イヤホンはプロや音楽家のもの。

でも今は、その境界が少しずつ溶けてきている。

SNSを通して伝わるのは、スペックではなく、
音の質感や、空気のようなもの。

言葉にならない"良さ"が、静かに滲み出して、日常に入り込んでくる。

「特別な人のこだわり」だったものが、
感性で選ぶひとつの選択肢」に変わりつつある。

それは流行というより、もっと穏やかな変化のように思う。


漢南洞|현대카드 ART LIBRARY + VINYL & PLASTIC


漢南洞(ハンナムドン)の、個性的なショップが並ぶあの通り。
何度も前を通っていたのに、初めて中に入った。

約10,000枚のレコードを収容し、スタジオとライブスペースが設けられている「音楽」の美術館
──Hyundai Card Music Library ──

ガラス張りの建物の中には、
ジャンルごとに整然と並ぶレコードと、アート書籍。

The Smiths、Tame Impala、Sufjan Stevens——そのセレクトには、迷いがない。
ここは「ショップ」というより、
むしろ"ライブラリ"だった。

革のスツールがひとつ置かれた静かな一角に、
「Vinyl 200 Picks」と書かれた案内。

試聴のルールまで丁寧に記されていて、
ここが単なる物販ではないことが伝わってくる。

ターンテーブルが並んだ大きなテーブルは、
空いている席がほとんどない。

誰もが、のめり込むように音に耳を澄ませている。

何かを“買う”ための場所ではなく、
何かと“偶然出会う”ための場所。

キュレーションそのものが、すでにひとつの体験になっていた。

⬇️今回はフラッと入っただけだけど、こんな魅力的なスペースが奥にはある!
次回はライブラリーで1日過ごしたい。


聖水|VINYL Seongsu

2軒目は、聖水(ソンス)へ。

ビルの入口に小さな看板があるだけで、知らなければ通り過ぎてしまいそうな場所。

その2階に、VINYL Seongsuはあった。

いま韓国では、「体験型レコードカフェ」が一つのブームになっている。

音楽を“聴く”だけでなく、
その場の空気ごと味わうような場所。

実は日本でも、この1〜2年で似たような「没入型」の空間が増えている。


夜の階段を上がり、扉を開ける。

思っていたよりも、広い空間が広がっていた。

ブラウンのレザーソファ。各席にターンテーブル。
窓の外には、聖水の夜景。

ここでは、音楽は「環境ごと」提供されている。

入場料18,900ウォン、ドリンク1杯込み。

手渡されたカードには「complex culture space」と書いてあった。

レコードはOST・Jazz・KPOP・POPとジャンル分けされ、壁一面に表紙を見せて並んでいる。

韓国ドラマのOSTの隣にBaby Driverがあり、魔女の宅急便がある。

POPコーナーはAdele、Radiohead、Run DMC、Eminem——年代もジャンルも飛び越えたセレクションが、コーナーを埋め尽くしている。

好きなレコードを選び、席に戻る。
針を落とし、ヘッドフォンを耳に当てる。

ウォールナットとゴールドの、少し重みのある質感。

その瞬間、音が“来る”。

選んだのは、SZA、Adele、そして、Olivia Dean。

不思議なことに、新しい音楽ではなく、
何度も聴いてきた曲に手が伸びていた。

それでも——レコードを通して聴くと、まったく違う場所に連れて行かれる。

ふと見ると、ヘッドフォンスタンドにQRコード。

調べると、Meze Audioの「Scheherazade」というモデルだった。

これ本当に震えるくらい良かった

他の席にはDyson。
自分の席だけが、偶然このヘッドフォン。
当たりすぎ。

その偶然も含めて、体験だった。

音の粒が、耳に優しく触れる。
気づけば、感情のほうが先に動いている

触れているのは耳のはずなのに、もっと内側に届いてくる。

あのときの私は、誰かの声を聴いていたというより、
自分の声を、そこに探していたのかもしれない。

選んでいたはずの音が、どこかで、こちらを見ているような感覚があった。

レコードを通すと、まったく違う場所に連れて行かれる。

ある起業家が言っていたように、
加速する時代を前提に生きるしかないのかもしれない。

加速する世界のスピードを、外から眺めるのではなく、
その渦の中にある静けさとして、生きていたくなる。

コーヒーを置いて、ただ聴く。

スマホのシャッフル再生では生まれない、
時間の“密度”がそこにあった。



「体験」としての音楽が売れる理由


サブスクによって、音楽は無限に近いアクセスを手に入れた。

だからこそ今、あえて
「選ぶ」
「待つ」
「空間ごと味わう」

という体験に、時間やお金を使いたくなる人が増えている気がする。

その流れを象徴するような出来事が、この旅の直前にあった。


BTSが約4年ぶりにリリースしたアルバム『ARIRANG』は、
ストリーミングで大きな記録を出す一方で、
複数のビニール盤としても展開された。

配信にはない楽曲が収められていて、
「わざわざ手に取る理由」までデザインされていたのが印象的だった。

BTSの制作チームは、
レコードを単なる懐古ではなく、

音楽を「手元に置き、深く味わうためのもの」として位置づけている。

ストリーミングが音楽を「消費」するものなら、

レコードは音楽と「向き合う」ためのもの、という考え方だ。

有線イヤホンのコードも、レコードに針を落とす行為も、根っこは同じだと思う。

便利さや効率を一度手放して、
音楽と“物理的に向き合う”ことを選ぶ感性。


それはきっと、感じるための手間を引き受けるということでもある。

ソウルのレコードカフェブームは、
単なるノスタルジーではなく、

デジタルに触れすぎた感性が、
「摩擦」や「余白」を取り戻そうとしている動きなのかもしれない。


カムバックおめでとう!

自分に戻るための、チューニング。

スピードを求めるときは、サブスクやワイヤレスを。
少し立ち止まりたいときは、レコードや有線を。

どちらが正しいかではなく、どちらが今の自分にフィットするか。

音楽に限らず、何かを味わうための時間のことだ。

そんなふうに、自分の内側に耳を澄ませることが、少しずつ当たり前になってきている気がする。

王道ではないけれど、確かな手触りを持つものたち。

それらを選ぶことは、便利さに抗うためというより、

自分の感性の居場所を、静かに守ることに近い。


漢南洞と聖水、流れる空気の違いを感じながら、そんなことを考えていた。

もしかすると——
あの違和感は、間違いではなく、

ちゃんと自分に合っているというサインだったのかもしれない。


今のあなたは、何を選びますか。



最後まで読んでくださってありがとうございます。

♡スキやコメントをいただけたら、とても励みになります。
よろしければ、他の「女一人旅」シリーズものぞいてみてください🤍

いいなと思ったら応援しよう!