見出し画像

女一人旅×ソウル 「整いすぎない」という贅沢

女一人旅 #ソウルで感じた「アメリカの影」と、有線イヤホンに戻る若者たちの話。編


ソウルに来るたびに、少し不思議な感覚になる。

広すぎる車道。
ガラス張りの高層ビル。
片手にアイスアメリカーノを持って、早足で歩く人たち。

アジアの都市なのに、どこか空気がアメリカっぽいといつも感じる。

東京とも違う。
香港とも違う。

強いて言えば、ニューヨークやシカゴみたいな、
合理性とエネルギーが剥き出しになった都市の空気。

その違和感の正体を、ずっと言葉にできずにいた。

きっかけは、スマホの写真フォルダだった。


去年ロサンゼルスで食べた「Pink's Hot Dogs」の写真を見返していた時、
このお店がソウル上陸したというニュースを見て驚いた。

チリが溢れるホットドッグ。
ジャンクで、雑で、強いアメリカ。

私が感じたPink's Hot Dogsは、
本当にLAのローカルなお店だったからだ。

写真はイマイチだけど本場は美味しかった!



一方で、ソウルに
Alo Yoga」の巨大なフラッグシップができていた。
現在ソウルには4店舗もある。

4店舗も、というのは、日本に1店舗も無いからだ…。

私は漢南(ハンナム)店へ

ビバリーヒルズで見かけるような、
"都会の戦闘服”を着た人たちが、ソウルの街に自然に溶け込んでいる。

Alo Yogaは、2007年LA発のプレミアム・アクティブウェアブランド。「スタジオからストリートへ」を掲げ、海外セレブやK-POPアイドルが私服で愛用する高いファッション性と美脚シルエットが特徴です。サステナブルな服作りや最先端のデジタル展開など、ヘルシーで洗練されたライフスタイルを発信しています。


ジャンクでパワフルなアメリカと、
ヘルシーで洗練されたアメリカ。

その両方が、今のソウルには同時に流れ込んでいる。


でも面白いのは、
そんな最先端の都市で、今また「不便なもの」が静かに戻ってきていることだった。

その空気は、漢南や梨泰院エリアにも流れている。
ヒュンダイカードが運営する「ミュージック・ライブラリー」がある。

会員とその同伴者しか入れないその空間には、
静かにレコードが並び、街の喧騒とは全く違う時間が流れている。

⬇️訪れた時の記事はこちらです



そこで思い出したのが、
BTSのジョングクが高級時計ブランド「ウブロ」の映像で見せた、あるシーンだった。

レコードをジャケットから取り出し、
埃を払い、
針をそっと落とす。

サブスクで何でも一瞬で聴ける時代に、
世界でもっともデジタル的に消費されるスターが、
あえて“手間”のかかる所作を選んでいた。
(もちろん、単純に格好いい、というのも大きい。)


考えてみれば、
高級時計を毎朝巻くことと、
レコードに針を落とすことは、少し似ている。

どちらも、
本来もっと効率的な方法が存在するのに、
あえて物理的な手触りを残している。


便利さを極めた先で、
「手間」が贅沢になる。


ソウルという街は、
そういう逆説を、ごく自然に受け入れている気がする。

そして私は、その空気に触れるたび、いつも少しワクワクしてしまう。




その感覚は、アメリカのZ世代にも少し似ている。

最近アメリカでは、CDが静かに戻ってきているらしい。

ジョングクがウブロの広告でレコードに触れていた、あの“アナログへの憧憬”が、
より若くてリアルなストリートの層では、
CDという身近なギミック」に形を変えて爆発している。

そう考えると、今の音楽の巡り合わせって、本当に面白い。



理由はシンプルで、
レコードが高すぎるから。

新譜LPが5000円を超える時代、
若い世代にとってCDは、
音楽をモノとして持つ」ための、現実的な選択肢になっている。

ライナーノーツやアートワーク、
歌詞カードの存在が彼らにとって新鮮なのだ。

スマホの画面でスクロールする歌詞ではなく、
紙の手触りを感じながら、
アーティストのコンセプトやビジュアルを
「指先と目」でじっくり味わう。

この不便だけど、五感を使う体験が、
逆にデジタルネイティブの世代にはプレミアムに映っている。

このアメリカのCD復活のトレンドを、
実は裏で思いっきりブーストしているのが
K-POPだったりする。

タワーレコードやTargetで、
K-POPやテイラー・スウィフトのCDをこぞって買う若者たち。

豪華なフォトブックやフォトカードが入った
K-POPのCDは、
もはや単なる音源ではなく、
“所有する体験”そのものになっている。

そこで初めて、
「CDって、安いのに所有感があって最高じゃん!」
という感覚に触れた若者たちが、
今度は中古ショップで古いロックやヒップホップをディグり始める。

そんな循環が、
今アメリカのストリートで起きているらしい。


そして、もう一つ。

古い中古車に乗った若者たちだ。

アメリカの若者が最初に手にする車は、
予算の関係で10〜20年落ちの古い中古車であることが多い。

Bluetoothはない。
CarPlayもない。

でもCDプレイヤーはある。

お気に入りの数枚をダッシュボードに放り込んで、
窓を開けて走る。

その少し不便な感じが、
サブスクのプレイリストでは絶対に出せない、
最高にエモくて映画のような体験、
ロマンになっているわけだ。


スマホをタップするだけのプレイリストでは出せないロマンが、そこにはある。

『はじまりのうた』の有線イヤホンや、
『ベイビー・ドライバー』の古いiPodみたいに、
少し不便な音楽の方が、日常を映画っぽくしてくれる。

これらには、
デジタル以前の、少しザラついた若者たちの空気が残っている。

今のZ世代が惹かれているのは、
音楽そのもの以上に、あの"質感”なのかもしれない。

まさに「移動×音楽×ロマン」を象徴する映画。
二股のイヤホンジャック(有線)を使って1つのiPod(これも今やレトロなモノです)を共有し、ニューヨークの夜の街を歩きながら同じプレイリストを聴くシーンがあります。
古いガジェットをあえて使う主人公が、音楽と自分の運転(行動)を完璧にシンクロさせる姿は、まさに若者が憧れる「映画のような体験」そのもの。




そんなことを考えていたGW、
遊びにいった先輩の家で、有線イヤホンを聴き比べる機会があった。

先輩の息子さんは、
スピーカーを自作するような音響工学の大学院生で、
部屋には自分で組み上げた機材が並んでいた。

そんな彼も有線イヤホンを集めていた。

何本かの有線イヤホンを試した時、
音の違いがすぐにわかった。

高音域が綺麗に広がるもの。
低音が前に出るもの。

Bluetoothで聴いていた時には、
全部「いい感じ」に整えられていた音が、
有線になると、それぞれの個性として現れる。

その時、彼が言った言葉が忘れられない。

「Bluetoothは便利だけど、
AIが計算して“お化粧した音”になるんです。
有線は、物理の結晶だから」

そして最後に、
こう付け加えた。

「一番フラットなのは、Appleの有線イヤホンですよ」

音響の仕組みを学べば学ぶほど、
その「過剰に化粧された音」に、どこか嘘っぽさや息苦しさを感じて、
実直でピュアな“有線”に行き着く。

それは、プロの卵として、とても自然な流れなのかもしれないと思った。


音響工学の最先端にいる人が、
最後に辿り着いたのが、
誰でも知っている、あの白いイヤホンだった。


その静かな逆説が、
なぜかずっと頭に残っている。


音楽も、
都市も、
人との会話も、

整いすぎると、どこか入り込めなくなる。

だから今、
有線イヤホンやレコードみたいな、
少し不便で、少しノイズのあるものに、
人は惹かれているのかもしれない。

ソウルで感じたアメリカの影も、
ジョングクがレコードに針を落とす姿も、
中古車のダッシュボードに積まれたCDも、

全部、「質感」の話だった。

以前、京都のAce Hotelについて、
「整いすぎていないからこそ、入り込める余白がある」と書いた。

たぶん私は、
旅先でも、
音楽でも、
人でも、
ずっとその“余白”を探している。

ノイズキャンセリングを外して、
少しだけ街の音を聴きたくなる夜みたいに。


気づくと私は、
そんな瞬間ばかり写真に残している。

心を震わせたいのだ。



最後まで読んでくださってありがとうございます。

♡スキやコメントをいただけたら、とても励みになります。
よろしければ、他の「女一人旅」シリーズものぞいてみてください🤍

いいなと思ったら応援しよう!